第72話 大成、エキシビジョンマッチをやる⑤~エキシビジョンマッチであって試合ではない~
いきなり剣道場中に響くような大声で
そのどよめきが収まらない中、ジイが2、3回、目をパチパチさせたかと思うと
「延長戦じゃと?」
「そうです。今の勝負、納得がいきません」
「納得がいかない、というのは、君が竹刀を失った時に
ジイがこう言うと、美留和先輩は大仰に首を縦に振った。
「・・・それもあります。だけど、
「君の言い分には一理ある。だが、これはエキシビジョンマッチであって試合ではないぞ」
「ですから再試合をしろとは言いません。せめて延長戦で先に1本取った方が勝ちという形にして頂けないでしょうか?それでわたくしが駒里君にスンナリ負けたら勝敗は素直に受け入れます。お願いです。延長戦を認めてください」
それだけ言うと美留和先輩は面をしたまま頭を深く下げた。
「・・・大成、お前、この子と本気で勝負する気はあるか?」
「・・・ジイがやっていいと言うなら『アレ』をやるが、それでもいいか?」
「ワシ個人は許可する・・・理事長」
そう言うとジイは理事長の方を向いた。
「今日の試合、ワシに全て任せると仰ったが、それは間違いないですか?」
「もちろんですよ。個人的には彼女の希望を叶えてもいいと思っていますが、それを決めるのは駒里先生で構いません。これは学校法人
理事長はウンウンと頷きながらジイの提案を承認した。ジイも「ありがとうございます」と一礼してから今度は副審である鬼鹿先生の方を向いて
「では鬼鹿先生に聞く。大成が『アレ』をやってもいいか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!駒里に『アレ』をやらせるって、まさかとは思うけど、『アレ』を本気でやらせるんですかあ!?」
「理事長はワシに全て任せると仰った。この子は大成が本気で勝負しないと納得がいかないだろうし、後は顧問である鬼鹿先生が許可を出せば、大成が『アレ』をやる事を認める」
鬼鹿先生の表情が、さっきまでの余裕の表情から焦りの表情に変わっている。あきらかにこのシナリオは、鬼鹿先生が最初にジイと話した時に決めたシナリオから外れているからだ。
「だいたい、高校生の試合では禁止すよ!?」
「今日のエキシビジョンマッチは試合ではないと最初に申し上げたはず。だから、あくまで興行として考えれば禁止に該当しないと思うが、どうじゃ?」
鬼鹿先生は「はーーー・・・」と長ーいため息をついたかと思うと覚悟を決めたような顔をして
「・・・分かりました。美留和本人が希望していて、駒里本人も希望しているなら認めますよ。でも、駒里は『アレ』をやれるんですかあ?」
「あー、それは心配いらん。校長の横にいる
「マジですかあ!?それじゃあ先生は最初から駒里に『アレ』をやらせるつもりだったんですか?」
「まあ、そういう事じゃのお」
「それならオレは何も言いません。美留和、お前、本当に延長戦をやっていいんだな?」
「構いません。このまま引き分けに終わったら一生後悔します。鬼鹿先生が言っている『アレ』が何なのか分かりませんけど、やらないで後悔するよりマシです」
「なら勝手にしろ」
「あー、そうそう鬼鹿先生、ちょっと耳を貸してくれんかのお」
「一体なんですかあ?」
そう言うと鬼鹿先生はジイのところへ行ったけど、ジイが耳元で何かを囁いた時に「本気ですかあ?」と言って驚いた表情をしていたけど、ジイが黙って首を縦に振ったので「分かりましたよ」と言って鬼鹿先生も首を縦に振った。
「あー、それともう一つ。鬼鹿先生、それと
ジイはそう言って余市伯父さんの方を振り向いたけど、余市伯父さんは首を縦に振って
「ここは父さんの指示に従いますよ。鬼鹿先生、ここは黙って試合を見る側になりましょう」
「まあ、オレも先生が一人で審判をやると言った時点で意味に気付いたから異論はない。むしろオレも試合を黙って見ていたい。もし駒里が本気で勝負したら、美留和が
鬼鹿先生がニヤリとしながら滝川先輩の方を見ながら話をしたから、当然滝川先輩は
「鬼鹿先生!何故そこまで駒里に入れ込むんですか?」
「すぐに分かるさ。滝川!オレが許可するから美留和が危ないと思ったら途中からでもいいから助っ人に入れ。駒里先生が乱入してもいいと言ってるから堂々と乱入して構わん」
「鬼鹿先生、おれに美留和さんの助っ人をやれとはどういう意味なんですか?しかも乱入全然OKだなんて、ますますもって意味不明ですよ!」
「試合が始まれば分かるさ。駒里先生、これでいいんですよね」
「ああ構わん。恐らく、そうでもしないと大成も本気でやらないじゃろうて」
「滝川、そういう事だから遠慮するな」
「ホントにおれが不意打ちみたいな形で参戦してもいいんですかあ!?」
「オレが許可する。これはエキシビジョンマッチであって試合ではないからな」
「まあ、意味は分かりませんけど了解はしました」
「頼むぞ。あー、但し、駒里先生が許可したのは滝川だけだ。
滝川先輩は今でも頭の上に『?』が2つも3つもつくような顔をしているけど、とりあえず鬼鹿先生の言った言葉の意味だけは理解したようだ。
そんな鬼鹿先生と滝川先輩のやり取りが終わったところでジイが右手を軽く上げて
「決まったな。それじゃあ両者は一度下がりなさい」
それだけジイは言うと鬼鹿先生と余市伯父さんは試合場から出て、二人とも鵜苫伯父さんの隣の椅子に座った。それに俺と美留和先輩も一度外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます