第67話 大成、青葉・妹2人と一緒にエキシビジョンマッチをやる事になる

「「「失礼しまーす」」」


 俺と虎杖浜こじょうはま先輩、美利河ぴりかさんの三人は職員室へ入ったけど、既に職員会議は終わったようで半分くらいの先生方は席にいた。席にいない先生方は部・同好会の方へ行ってるみたいだ。

「おーい、こっちだこっちだ」

「あー、はーい、分かりましたー」

 鬼鹿おにしか先生が職員室の端にあるお客様との話し合いとかで使う談話室にあたる部分から顔を出して俺たちを手招きしたから、俺と虎杖浜先輩、美利河さんは向かった。

 談話室には青葉あおばと鬼鹿先生、らん先生はいたけど広内金ひろうちがね先輩、恵比島えびしま先輩はいなかった。

「あれ?青葉だけなのか?」

「そうだよー。恵比島先輩は校長室にいるし、広内金先輩は剣道部の部長の滝川たきかわ先輩のところへ行ってるよ」

「それで、俺たちにお願いしたい話ってのは何だ?」

「あー、それはオレが話す。とりあえずお前たちも座れ」

「分かりました。じゃあ座らさせてもらいます」

 そう言って俺たち三人も席に座った。形の上では俺の向か側の席には中央に鬼鹿先生、その右に蘭先生、左に、つまり俺の正面に青葉が座っている。俺の左に虎杖浜先輩、一番左には美利河さんが座った。

 鬼鹿先輩は「はー・・・」と短くため息をついた後、超がつくほどの真面目な顔で

「・・・まあ、簡単に状況だけを話すと、会議室で行われていた職員会議が間もなく終わろうかという時に、いきなり美留和びるわが入ってきて『校長先生にお願いしたい事があります』って言ってきたから、当然だが職員会議は中断するし先生方は騒ぎ出す始末で大変だったんだぞ」

「そうだったんですか・・・」

「とにかく、オレと鬼峠おにとうげ先生の二人で必死になって美留和を宥めて、まあ、校長先生自身も『その話を聞いてもいい』って言ってくれたから、とりあえず生徒会三役とオレと東室ひがしむろ先生が同席する形で校長室で美留和の話を聞く事になったんだ」

「それで、どうなったんですか?」

「まあ、話した内容は想像がつくと思うけど、例の校則のを撤廃して欲しいっていう事と剣道部の紅一点という事さ。校長先生は全部の話を聞き終わると美留和に対して『君の話は理解した。ただ、即答出来かねる問題なのは君も分かる筈だから、今日は真っすぐに家に帰りなさい。明日の朝、登校したら校長室へ来なさい。そこで返事をする』と諭したから美留和も素直に帰ったよ」

「そうですか・・・」

「問題はここからなのさ」

「「「へ?」」」

「校長先生は三役、正しくは串内くしないに対応をどうするかと尋ねたんだけど、その時に串内が提案した内容にはオレも正直に言うと、マジで腰を抜かしそうになったけど校長先生がOKを出したんだ。それで校長先生が広内金を剣道部の説得に行かせ、串内には駒里こまさとに事情を説明しろと言い、恵比島にはここに残れって言ったから、東室先生と串内、それとオレは職員室へ戻ってお前たちを呼び出したという訳さ」

「まあ、何となく状況は分かりました。それで青葉、お前が校長先生に提案したっていうのは何だ?」

 俺は青葉の方を向いたけど、青葉はニコッとしたかと思うと

「たいせー、悪いんだけどエキシビジョンマッチをやって欲しいんだ」

「「「はあ!?」」」

「剣道部5人VS駒里武道館4人のエキシビジョンマッチ」

「ちょ、ちょっと待て!4人で5人と対戦しろって事かあ!?」

「そうだよー」

「いくらエキシビジョンマッチでも無謀だ!」

「大丈夫大丈夫、勝ち抜き戦じゃあないし、あくまでエキシビジョンマッチだから3勝した方が勝利という訳じゃあないわよ」

「どういう意味だ?」

「あくまで個人戦を5回やるって事だよ。だけど大成には申し訳ないけど、剣道部の部長の滝川先輩と美留和先輩の二人と対戦して欲しいのよねー」

「マジかよ!?清風山高校のナンバー1とナンバー2の二人と勝負しろっていうのか?」

「そうだよー」

「勘弁してくれよお」

 俺は本心から『冗談だろ?』と思ってたけど、口調は軽いけど青葉が冗談を言ってるようには思えなかった。その割にはノホホンとしてるけど。

 さらには鬼鹿先生まで結構軽い口調で

「おいおい駒里、オレは串内の提案には賛成だ。本当なら串内と駒里の二人、いや、駒里一人で剣道部5人と勝負して欲しいくらいなんだぞ」

「鬼鹿先生も勘弁してくださいよお。本気で言ってるんですかあ!?」

「当たり前だ。あののせいで我が剣道部はお前と串内を失った。お前の実力は全国レベル、いや、全国でもトップ3に入る程なのは知ってるからな。だから逆に美留和の変なプライドをぶっ潰すくらいに叩きのめせ!」

「勘弁してくださいよお」

 おいおい、鬼鹿先生も青葉もマジでノホホンと言ってるけど、俺の考えとか気持ちは無視かよ!?もう既にお二人さんの頭の中では俺がOKする事になってるんですかあ!?

「あー、大成に言っておくけど、当日の主審はジイがやるから」

「マジかよ!?いつ話をしたんだ」

「ついさっき。事前にジイにはエキシビジョンマッチの話をしてあったからスンナリ決まったよ。本当は校長先生だけが立会人をやる筈だったんだけど、ジイが自分から理事長に電話をして、さっき理事長から教頭先生経由で鬼鹿先生に連絡があって、当日は理事長も来る事になったよー」

「はーーー・・・既に外堀は埋められてるって事か」

「そう言う事だから駒里、腹をくくれ」

「分かりましたよ」

「あー、そうそう、大成にもう1つ言っておくけど、鵜苫うとまおじさんと余市よいちおじさんも来るからねー」

「はあ?鵜苫伯父さんは学園の外部理事だから分かるけど、何で余市伯父さんも来るんだ?俺たちの顧問代わりか?」

「あー、それはオレが駒里先生にお願いした。あの人は駒里武道館の剣道部の代表であると同時に、ハルニレ高校を運営している学校法人月寒つきさっぷの外部理事なのは駒里も知ってるだろ?柔道部のように合同練習の場を設けられるようにしたい構想を駒里先生に話したら、その場で話をつけてくれたらしくて余市さんも来る事が決まった。駒里も知ってると思うけど、この構想は5年前の清風山せいふうざん高校武道館改修の時からあったのだが、当時の日本海大学付属札幌高校の顧問が反対したしハルニレ高校の顧問もそれに同調したから、剣道部は実現しなかったんだ。だけど、あの頑固親父の顧問も一昨年に定年退職したし、ハルニレ高校の顧問もこの春に異動して俺の中学の後輩にあたる人が剣道部の顧問になったから、恐らく柔道部のような事を剣道部でも実現できそうな環境だけは揃ったからな。余市さんは駒里武道館の剣道部の代表として副審を担当し、オレも清風山高校剣道部顧問として副審をやるぞ」

「それに、この件に関しては、このわたしも2年1組の担任として同意しましたので、駒里君は駒里武道館の一員としてエキシビジョンマッチに参加しなさい」

 はあ?らん先生もかよ!?三人揃ってノホホンと話をするのは勘弁して欲しいぞ、ったくー。でも・・・俺がOKしない限り、この騒動を終わらせる事が出来ないんだよなあ・・・とほほ

「はああーーー・・・わかりましたよ、ようするに内堀も外堀も既に埋まっている状態なんですね。やりますよ、やります」

「たいせー、頼んだわよー」

「鬼鹿先生、本当に美留和先輩を叩きのめしてもいいんですね」

「構わん、なんなら瞬殺しても構わん」

「分かりました。それほど言うのなら本気でやりますよ。ところで青葉、残る三人のメンバーというのは、もしかして青葉とかえでみどりじゃあないだろうな」

「ぴんぽーん、その通り」

「まあ、そんな事だろうと思ったけど楓と緑は承知してるのか?」

「ううん、まだだけど、大成とジイが同意すれば間違いなく楓ちゃんも緑ちゃんもOKするはずだよ」

「はいはい、分かりました」

「あのー、僕たちはどうすればいいんですか?」

「わたしもどうなりますか?」

 俺が納得して話をまとめた時点で虎杖浜先輩と美利河さんが青葉に質問してきた。まあ、たしかに虎杖浜先輩と美利河さんを呼びだしておいて、蚊帳の外というのも変ではあるけど。

 青葉は今度もニコッと微笑んだ後

「虎杖浜先輩とキラキラちゃんには裏方をやって欲しいんだ。試合の告知や会場の設営準備とか色々とやる事は多いよ」

「僕はいいですよ」

「分かりましたよ。わたしも構いませんけどキラキラちゃんは勘弁してくださいよお」

「まあまあ、そう言わずにお願いしますよ、キラキラちゃん」

「だー!勘弁してくださいよお」


 次の日、つまり火曜日の朝、生徒用玄関のところにある生徒会掲示板に貼られた紙の前には大勢の生徒が群がった。その紙にはこう書かれていた。



               緊急連絡


 今週水曜日の放課後、剣道部がエキシビジョンマッチを公開で行います!


 是非みなさんも観戦に来てください!!



 場所   清風山高校武道館1階  剣道場


 ルール


①1対1の個人戦を5回行います

②試合は先に2本取った方を勝ちとし、団体戦ではないので第五試合まで行います

③制限時間5分の間に2本取れなかった場合は引き分けとします

(判定勝ち、延長戦はありません)



       清風山高校剣道部          駒里武道館チーム

第一試合   滝川  3年7組         駒里(大) 2年1組

第二試合   深川ふかがわ  2年4組         駒里(楓) 1年2組

第三試合   砂川すながわ  2年5組         駒里(緑) 1年2組

第四試合   三川みかわ  3年4組         串内    2年1組

第五試合   美留和 3年6組         駒里(大) 2年1組


 来賓(五十音順)


 理事長           オサワ・トマム

 駒里武道館 名誉館長    駒里幾寅いくとら(元・学校法人『桑園マルベリーガーデン』外部理事)

 駒里建設 代表取締役社長  駒里鵜苫(学校法人『桑園』外部理事)

 駒里運輸 代表取締役社長  駒里余市(学校法人『月寒』外部理事)

 清風山高校 校長      ラベンダー はた 

                                (敬称略)


 なお、駒里(幾)氏、駒里(余)氏、鬼鹿先生(清風山高校剣道部顧問)が審判を担当します。

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