第66話 大成、青葉からの電話で職員室へ行く事になる
2年前の春、
美留和先輩は中学時代の成績などからスポーツ特待生として入学し、同時に女子剣道部に所属する事になっていたけど、美留和先輩本人は上下関係には非常にこだわる人であり、先輩に対しては非常に礼儀正しかった。たとえそれが自分より力が劣っていたとしても先輩後輩の礼儀をわきまえていた。
ただし、それは同学年である1年生に対しては「上下関係=力関係」であるとの認識もあり、また、自身と互角に勝負できるだけの剣道部員が上級生にも殆どいなかったこともあって、非常に厳しく接していた。まさに「力こそ正義」「力なき者は去れ」「力なき者は力ある者に従え」を同学年の女の子に強要したと言っても過言ではなかった。
だが、その考えに共感できる子が美留和先輩の同学年にはいなかった事もあり、女子剣道部に仮入部していた子、入部届を出したにも関わらず入部を辞退した子が続出し、結果的に仮入部期間が過ぎて残った1年生は美留和先輩だけだった。
美留和先輩が2年生になってからも状況は変わらず、体験入部した子も全員が正式な入部届を出さずに終わり、この時点で部として存続できる『10人以上』の要件を満たさなくなった。同好会落ちすると基礎予算が減額されて大会出場や遠征費用の個人負担が増えてしまうため、女子剣道部と男子剣道部は『剣道部』として合併する事になった。
美留和先輩が3年生になった今、剣道部の女子部員は美留和先輩しか残っていない。当然だが昨年の秋以降、美留和先輩は個人戦にしか出場する事が出来なくなった。美留和先輩の実力は男子剣道部でも互角に勝負できる人が4人しか、いや、実質剣道部最強なのだが、それでも男子に混じって女子が団体戦に出場する訳にもいかないので美留和先輩としては非常に焦りがある。
美留和先輩に焦りがある理由はもう1つある。
それは校則だ。清風山高校の特進科、まあ、今年からは特進科はスーパー特進科と特進科に別れたけど、この2つの科は普通科と違って「週4日以上活動する部・同好会に所属してはならない」という但し書きがあるのだ。まあ、要するに『勉学に励め』という意味なのだが、これにより、ウィンタースポーツ部を含む全ての運動部と一部の文化部(吹奏楽部・合唱部・美術部・演劇部の4つが該当)には普通科の生徒しか所属できない。それによりとある人物が運動部に入れないので、美留和先輩は『但し書きの部分を削除、もしくは緩くしてほしい』と以前から主張していたのだ。
この校則に関しては表立って言わないけど、
とある人物が指すのは誰なのか、それは容易に想像がつくはずだ・・・そう、俺と
まあ、校則の件は美留和先輩の一件とは別件なのでこのくらいでお終いにするけど・・・それに、今日の昼休みまでの段階で剣道部に入部届を出したのは男子のみで女子は一人もいない。いや、今年に関しては体験入部や仮入部した女子生徒もいない状況なのだから、美留和先輩の焦りがピークに達して、今日の職員会議に乱入して自身の窮状と校則改定を訴え出たというのは俺にも容易に想像できる。
ただ、女子剣道部がここまでの状況になった最大の原因は美留和先輩自身なのは生徒会メンバーだけでなく剣道部顧問の鬼鹿先生も分かっている。鬼鹿先生も去年は何度か顧問として、あるいは担任として美留和先輩を諭したようだが一向に改める気配はない。鬼鹿先生のボヤキを
一昨日の広内金先輩の言葉ではないが、美留和家が全盛時だった頃のプライドだけは未だに持っている元・お嬢様だから余計に質が悪いと言ってもいいかもしれない・・・。
俺と虎杖浜先輩、美利河さんは急にやる事が無くなったので暇を持て余している状況だ。だからと言って遊びの話とか校内の面白い話などをする気にもなれない。だから古い書類の整理とか部屋の掃除などをしていた。
だいたいそれが1時間くらい続いたのだが
♪♪♪~♪♪♪~
いきなり俺の鞄の中に入れてあったスマホに着信が入った。しかもこの音は青葉からだ。
俺だけでなく虎杖浜先輩や美利河さんも何事かと思ったようだけど、とりあえず俺は鞄の中からスマホを取り出した。
「もしもし」
『あー、たいせー、今どこにいる?』
「生徒会室だぞ」
『虎杖浜先輩とキラキラちゃんは?』
「一緒にいるよ」
『あー、丁度いいや。全員職員室へ来てくれないかなあ』
「はあ?」
『大丈夫だよー、説教とかじゃあないから。お願いしたい事があるから職員室へ来て欲しいんだ』
「なんだかよく分からないけど行くよ」
『待ってるよー』
俺はスマホを切ったけどイマイチ状況が分からない。でも、青葉の話し声からは緊張感が全然感じられなかったから危機的状況だけは回避できたと思う。
とりあえず俺は虎杖浜先輩と美利河さんと一緒に職員室へ行く事にした
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