現代の宮本武蔵

第64話 大成、妹とのデート(?)を恐る恐る振り返る

「おーい、青葉あおば、朝だぞー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「おーい、あーおーばーさーん、あーさーでーすーよー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「青葉!起きろー!!」

「・・・・・(-_-)zzz」

 はーー・・・一体、こいつは何を考えてるんだあ?学校へ行く日になると起きないけど、休みの日は目覚まし時計がなくても時間キッチリに起きられるとは。

 仕方ない、として、表向き完璧超人の青葉の偶像だけは守ってやらないと。それがなのだから。


”ムニュ”


 俺は右手で青葉の左頬を摘まんだ。どうだ、これで起き・・・て来ない・・・おいおい!いつの間に進化したんだあ!?い。いや、こんなのは進化でも何でもなーい!

 俺は左手で青葉の右頬も摘まんだ。さすがにこれで起き・・・てこない!マジかよ!!

 俺は両手の指に力を込めて青葉の両頬を思いっきり捻った。

「あーーーたたたたたた!」

「どうだ!起きるのか?それともまだ寝てるのか?どっちだ?」

「起きる!起きるからお願いだからヤメテー!」

「じゃあ起きろ!」

 そう言うと俺は青葉の両頬を捻っている手を引っ込めた。青葉の頬は真っ赤になってたけど、ようやく上半身だけをベッドから起こしてベッド脇に丸めてあったセーターを上に羽織った。

「たいせー、朝から頬を捻るなんて酷いわよお、ぷんぷーん!」

「そーんな事を言われたって、目覚まし時計が鳴っても気付かないくらいに爆睡している奴が悪い!」

「あれ?本当だ・・・」

「気付いたならサッサと止めろー!電池の無駄だあ」

「ごめーん」

 そう言うと青葉は目覚まし時計に手を伸ばし、うるさいくらいに鳴り響く目覚まし時計を止めた。

「勘弁してくれよなあ。高校2年生の第2週目に入っても目覚まし時計で起きられないなんて、ホントにどうかしてるぞ!?」

「だってさあ、私だって休日は目覚まし時計がなくても起きられるんだよ。これはきっと天使様が『青葉ちゃん、休日は寝過ごすと時間の無駄だよ』って優しく起こしてくれるからだと思うんだけどねー」

「じゃあ何か、朝から学校へ行く日は悪魔が『青葉、お前はまだ起きなくてもいいぞ』と耳元で囁くのか?」

「それよ、それ!きっとこの目覚まし時計は大魔王様の使い魔が化けてるんだよ」

「そんな馬鹿な事があってたまるか!コップヌードルの関係者に謝れー!!」

「はーい。コップヌードルの関係者の皆様、ゴメンナサイ」

「朝から疲れさせないでくれよお」

「ちぇっ・・・大成たいせいには冗談も通じないのね」

「はー・・・」

 おいおい、こんなコントみたいな事を今年もやらせる気かよ。いい加減にして欲しいぞ!?

「・・・ところで大成、華苗穂かなほ先輩に続いて『みどりちゃんとのデート』はどうだったの?」

「思い出したくもないぞ!」

「あら?結構楽しそうだったように見受けられたけど」

「どこがだ!」

 そう、俺は土曜日の広内金ひろうちがね先輩に続いて昨日は朝から晩まで緑に振り回された。


 俺は土曜日の夕方、致命的なミスを犯した。そう、広内金先輩が俺と手をつないだり肩と肩が触れ合うくらいの距離で歩いたせいでのだ。証拠を消す為には本当は俺は帰宅と同時に風呂もしくはシャワーを浴びて、同時に来ていた服もコートもすぐにドラム式洗濯乾燥機にぶち込んで洗えば良かったのだが、俺はそれに気付かないままかえでや緑とは10分くらいの差で先に家に帰ってきた後はリビングで紅茶を飲んでいる時に楓と緑が帰ってきた形になったけど、その時、俺と擦れ違い様、楓が俺の服から香水の香りがしている事に気付いたのだ。

「おにーちゃーん・・・もしかしてデートしてたのー?」

「はあ?そんな馬鹿な事がある訳ないだろ!」

「だってさあ、この香水はお店では扱ってないよー。しかもさあ、どうみても使よー」

「!!!!!  (・・!  」

 そう、楓は匂いをかぎ分ける事に関しては天才的だ。『神の舌』ならぬ『神の鼻』とでもいうべきなのだろうか、とにかくBOUQUETブーケで扱っている香水やシャンプー、リンスは匂いだけで何なのかを言い当てる事が出来るし、他にも〇ャネルの香水の殆ど全てを嗅ぎ分けられるほどの天才的嗅覚の持ち主なのだ。

 その楓が「お店で扱ってない」「男が使うとは思えない」つまりイコール女性用の香水と言い当てたから、ここからは緑の出番になった。

「あにきー!デートとは何だ!一体、誰とデートしてたんだあ!!」

「落ち着け!デートなんかしてない!!」

 俺は必死になって緑を説得したが、まさか超セレブのお嬢様である広内金先輩と一緒にいたとは言えない。でも罰ゲームとはいえデートしていたとも言えない。とにかく適当な言葉を並べて何とか緑の怒りを抑える事だけは成功したけど「明日は兄貴に変な虫がこないように四六時中見張っている!」などと訳の分からない事を言い出したのだ。

 結局、昨日は一人で行く筈だった地域のゴミ拾いに何故か緑がついてきて、一緒にゴミ拾いをした後は、約束通りロイヤルポストに爺ちゃん、婆ちゃん、母さん、楓、緑、俺の6人で行ったけど、車に乗ろうとしたら「兄貴は一番後ろに座れ!」とか緑が言い出して俺を3列目の奥の座席に座らせて緑は俺の横にドカッと座っていた。ロイヤルポストでも俺の右に楓、左に緑が陣取っていたし、ロイヤルポストから帰ったと思ったら緑は「来週の英語の授業で使うテキストを買いに行く」とか言い出し、しかもどういう理由か知らないけど「あにきー、一緒についてこい」とまで言い出す始末だ。結局、俺は押し切られる形で緑と一緒に伊勢国書店まで行く事になり、帰りには「兄貴、ドーナツが食べたい」と緑が言い出してマイスドに無理矢理連れていかれて俺の小遣いでドーナツとコーヒーを買って、しかも店内で食べてから帰ったから家に着いたら午後7時を回っていた。

 結局、俺は土曜日は広内金先輩、日曜日は緑に振り回され、散々な週末だった訳だ。まあ、俺の予定外の出費は緑が自重してくれたからドーナツ1個ずつとコーヒーで済んだけど、俺は緑がドーナツを爆買いするのかと思ってヒヤヒヤしてたから気が気でなかったのも事実だ。


「・・・ところでたいせー、本当に華苗穂先輩とは

「当たり前だ!青葉に送ったメールの内容が全てだ」

「それならいいけどねー」

 俺は土曜日の日中の出来事を青葉にメールで簡単に教えたけど、いくつか青葉に黙っている。手を握った事と肩を寄せ合うようにして歩いた事は素直に認めた。行った場所については正直に言ったけど、広内金先輩の素性、それと美留和びるわ先輩と恵比島えびしま先輩の素性、さらに『お嬢様同盟』は広内金先輩との約束もあって青葉に伝えなかった。それと、ぜーったいにだけは口が裂けても言えない!

 もちろん、青葉も俺が土曜日に私的に広内金先輩と会っていた事は口外できない。『史上最怖(?)の風紀委員長』の秘密をバラしたらどのような仕打ちを受けるのか、青葉自身も想像できないからだ。

「さあ、朝ご飯を食べるわよー」

「お前は朝から呑気でいいよなー」

「そんな事はないよ。とりあえず朝ご飯を抜くのは健康によくないから食べるだけだよ」

「はいはい。じゃあ着替えが先か食べるのが先か、どっちだ?」

「先に食べるよ」

「りょーかい」

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