第63話 大成、初めての相手が広内金先輩だった

 そのまま俺たちは肩と肩が触れ合うくらいの距離を保ったまま札幌駅の西改札口まで歩いて行った。

 ここまでくればもう華苗穂かなほ先輩ともお別れだ。

「・・・大成たいせい、ここまでだな」

「そうですね」

「君が改札口に入ったらボクは華苗穂先輩でない、広内金ひろうちがね先輩だ」

「そうなりますね」

「君も大成ではない、駒里こまさとクンだ」

「そうですね」

「じゃあ、ここで罰ゲームも終わりですね」

「・・・・・」

「先輩、どうしたんですか?」

「あー、いや・・・何でもない」

「先輩、言いたい事があるならハッキリ言って下さい。まだ罰ゲームは終わってないですよ」

「そうだな・・・じゃあ、最後の罰ゲームをやってもらっていいか?」

「最後の罰ゲーム?」

「大成・・・頼みがある」

「俺が出来る範囲でなら、ですけど」

「最後に『華苗穂、月曜日に学校で会おう』って言ってくれないか?」

「えっ?」

「頼む・・・」

「・・・分かりましたよ。それが最後の罰ゲームですよね」

「そうだ。それが終わればボクは広内金先輩だ。君がよーく知ってる『彼女にしたくない女ナンバー1』の風紀委員長だ」

「・・・・・」

 せんぱーい、大丈夫ですかあ?マジで目が少し潤んでますよ。そんなに罰ゲームが終わるのが嫌なんですか?そんなに今日の財界のお偉いさんが集まるパーティが嫌なんですか?

 まあ、俺としては肩の荷が下りた感じでホッとしてるよ。これで罰ゲームから解放されるし・・・でも・・・なんとなくシックリこない。

「じゃあ、やりますよ」

「うん・・・」

「華苗穂、月曜日に学校で会おう」

「分かった。大成、月曜日に会いましょう」

「それじゃあ」

 そう言って俺はポケットに手を入れた。財布の中に入っているKitacaを出そうとしたのだが・・・


「!!!!!」

「!!!!!」


 ちょ、ちょっとなんですか!?い、いきなり・・・しかもこんな大勢の前で何を考えてるんですかあ!!

「ちょ、ちょっと広内金先輩!」

「大成、まだ改札口の外にいるから君はボクの彼氏だ。忘れた訳ではあるまい!」

「それはそうですけど、こんな大勢の前でやって恥ずかしくないんですかあ!?」

「恥ずかしいに決まってるだろ!顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしたかったぞ!!」

「じゃあ、やらなければよかったじゃあないですかあ!?」

「デートの最後はこうやって別れるというのがボクの主義だ!」

「そんなー、勘弁してくださいよお」

「さっさと改札口の中に入らなかった君の自己責任だぞ」

「はーー・・・・・誰かに見られたらどうするつもりなんですか?」

「罰ゲームだからこれでいい。あくまでこれは夢の中の出来事だと思えば問題ない!」

「それこそ無茶苦茶ですよお」

「・・・君には青葉あおばクンがいるだろ?」

「!!!!!  (・・!  」

「今日のボクとの出来事は来たるべき青葉クンとの予行演習だと思ってくれればいい」

「華苗穂先輩・・・」

「ボクは君の本心を知ってるつもりだ。君は青葉クンとの関係を進めたいと思っているけど、青葉クンがそれに気付いてないだけだ、そうだろ?」

「!!!!!  (・・!  」

「君には未来がある。ボクは君の事を影ながら応援するつもりだ。うまくやれよ」

「・・・ありがとうございます」

「じゃあ、これで本当にお別れだ。駒里クン」

「分かりましたよ、月曜日に学校で会いましょう、広内金先輩」

 そう俺と華苗穂先輩、いや広内金先輩は言い合うと、お互いに右手を軽く上げた。

 そのまま俺は改札口の中へ入り、広内金先輩は北口方面へ歩いて行った・・・。



「はーー・・・大成の奴、・・・それにしても・・・どうしてライバルに塩を送るような事を言ったんだろうなあ・・・うわーーーーー!!!!!や、やっぱりあんな事、やるんじゃあなかったあ。し、しかも、唇に・・・初めてだったのに」



「広内金先輩、マジで勘弁してくださいよお。あの瞬間、周囲の視線が集中したのに気付いてたんですか?俺だってホントに顔から火が出るかと思いましたよ・・・青葉とだってやった事がないのに・・・あー、そういえば幼稚園の頃にふざけて何回か青葉とやった事はあった・・・けど、少なくとも小学生になってからは・・・えーーーーー!!!!!あ、あの『彼女にしたくない女ナンバー1』が俺の初めての相手になるのかあ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る