第55話 大成、ゲームセンターに行く

「・・・ところで、そろそろWcDも飽きてきましたね」

「・・・そうだな。いくらコーヒーのお替りが出来るとは言っても飲んでるだけでは面白くないからな」

「先輩は何か行く宛てがあるんですか?」

「あー、その事なんだが・・・」

 俺は何気に聞いただけだが、華苗穂かなほ先輩は急に真面目な顔になった。

「実は・・・大成たいせいと是非行ってみたい場所がある」

「それはどこですか?」

「ボクは『ゲームセンター』などという所に入った事がない」

「へ?」

 俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

 い、今たしか華苗穂先輩は・・・

 華苗穂先輩は顔を真っ赤にしながら「た、頼むからそんな顔をしないでくれ!」と抗議してきたから俺は素直に謝った。まあ、たしかに『お嬢様同盟』の一人ともあろう人がゲームセンターで遊ぶというのも想像出来ないからなあ。

「あー、それならこの近くにあるどっちかに行きませんかあ?」

「この近く?」

「ススキノか、もしくは札幌駅直結のビックリカメラの上ですよ」

「おー、あれかー。ススキノだとここから離れるからビックリカメラの上でいいや。それに、あそこなら場所を知ってるからな」

「じゃあ行きましょうか」

「そうしよう」

 俺と華苗穂先輩は立ち上がり、ハンバーガーの包み紙や紙カップなどは俺が持ってた違ってから片付けた。店の外で華苗穂先輩は待っている形になったけど俺が店から出てきたら当然の如く右手を差し出してきた。

「たいせー、道案内たのむよー」

「はいはい、分かりましたよ」

 そう言って俺は華苗穂先輩の右手を左手で握って歩き出した。

 おいおい大成、これじゃあ本当のデートじゃあないのか?いや、これはデートではない。ここにいるのは華苗穂先輩で、俺が知っている広内金ひろうちがね先輩ではない。これは青葉あおばとのデートの予行演習だ。

 それに・・・超がつく程のセレブのお嬢様である華苗穂先輩が俺のような庶民を本気で相手にするとは思えない。だからあくまでこれは罰ゲームの一環として考えればいい。

 そう思いつつ俺と華苗穂先輩は地下街を歩いて札幌駅方面へ向かったが、まあ、とにかく歩いている人の視線が俺たちに、いや、正確には華苗穂先輩に集中しているのが丸分かりだから俺も逆に肩身が狭い。でも華苗穂先輩はそんな事をお構いなしにニコニコしている。

 俺と華苗穂先輩はビックリカメラの建物の地下に着いたけど、さすが土曜日の午後だけあってエレベーター待ちの列が半端ではない。

「うわー、結構混んでるなあ」

「たいせー、どうせならエスカレーターで行かないか?」

「エスカレーター?」

「その方が気軽に喋りながら行けるだろ?」

「それもそうですね」

「じゃあ決まりだ」

 華苗穂先輩が自分からエスカレーターにすると提案してくるとは思ってなかったけど、とにかく俺たちはエスカレーターで上へあがる事にした。でも、地下から9階のゲームセンターに直接行けるエスカレーターはないから1階のビックリカメラにあがるエスカレーターに一度乗り、そこからは10階のレストラン街まで行けるエスカレーターに乗った。

 その間も華苗穂先輩はずっとニコニコしていて、ホントにこれが罰ゲームなのかと疑うくらいの表情だ。しかもずっと手を放す事はしてない。

「・・・たいせー、実はさあ、ジャケモンショップがビックリカメラの上にあった時にはジャケモンショップに何度か行った事はあったけど、あのショップの隣にあるゲームセンターには行った事がなかったのさ。だからどうしてもゲームセンターという場所に一度でいいから行ってみたかったんだ」

「えー!」

「おーい、何を驚いてるんだ?」

「い、いや、先輩がジャケモンショップに行った事があるなんて・・・」

「失礼だな!ボクだってジャケモンショップくらいは行った事があるぞ。ボクの家から見たら目と鼻の先だからな。それに自慢ではないがジャケットモンスターの公式大会にエントリーした事もある」

「マジですかあ!?」

「ああ。『お嬢様同盟』の中では最強なのだが、残念ながらジャケモンショップで開催された公式大会だけでなく各種のイベントの大会でも勝てた事がない」

「あららー」

「まあ、今はジャケモンショップがビックリカメラの上から犬丸百貨店に移ってしまったから楽しみが半減したような物だ」

「何なら今度俺とバトルしませんか?」

「えっ?いいのか?」

「俺で良ければ。まあ当麻とうまの方が上ですけど、それでも紛いなりにいい勝負は出来ますからね」

「当麻?ああ、北舟岡きたふなおかだな。あいつ、そんなに上手いのか?」

「いや、俺と青葉あおば、当麻、双葉ふたばさんの中では俺は3番目ですよ」

「なぬ?という事は1番は会長か?」

「ぶっぶー。青葉はドンケツですよ。双葉さんはほとんど神クラスです」

「マジかよ!?」

「中学2年の時には地区代表になって東京のジャケモンバトルの全国大会に出てベスト4だったらしいですよ」

「おいおい、昆布盛こんぶもりって見た目と全然違うぞ!?そんな奴がうちの学校にいるのかよ!?」

「まあ、校内で双葉さんと互角とまでもいかなくてもいい勝負が出来るは俺と当麻だけですからね。はま天塩てしおさん、それに『東西南北カルテット』も双葉さんには敵いませんよ。ゲームに関しては天才的で、『リアルゲームセンター大嵐』とまで言われてますから」

「まあ、校内で堂々とバトルをするのは風紀委員長としては見逃す訳にはいかないが、唯一許可できるのは清風祭の時くらいだろうな、そんな事を堂々と企画して大会をやっても許可されるのは」

「そうですね」

「何しろジャケモンショップに通っていた理由の半分はゲームセンターから聞こえてくる喧噪がワクワクして想像を盛り立てるというか、とにかくゲームセンターというのはこの世の楽園というイメージしかボクにはないのさ」

「そんなモンなんですかねえ。まあ、入った事がない人にとってはパラダイスなのかもしれませんね」

「まあ、とにかくゲームセンターは紳士淑女が嗜む場所ではないというのが広内金家の考えなので、出入り禁止なのだ。だから今日だけは堂々と出入りしたいのだ」

「いいんじゃあないんですかねえ。俺としても、今の先輩は華苗穂先輩であって広内金先輩ではありませんから」

「いい事を言ってくれるねえ。ボクとしては泣けるセリフだぞ」

「ありがとうございます」

 とにかく9階のゲームセンターに着いたら華苗穂先輩はそれこそ幼稚園児のような顔をしてゲームセンターに入っていき、クレーンゲームやメダルゲームなどを前にしてキャーキャー騒いでいるからこっちが恥ずかしくなるくらいだ。

 当然だが先輩はこれらのゲームをやった事がないから俺が簡単に説明してから遊び始めた。これも当然だが全くの初心者だからクレーンゲームの人形やお菓子が取れる訳でもないし、メダルゲームでメダルがジャラジャラと出てくる訳でもない。それでも純粋に楽しんでいるというのが手に取るように分かるほどだ。

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