第50話 大成、邪気を・・・

 俺は華苗穂かなほ先輩の望む場所で望むやり方で写真を撮ってたし、俺とツーショットで写真を撮りたいとか言い出したから近くにいた幼稚園くらいの女の子とベビーカーに男の子を乗せていたママさんに頼んで写真を撮ってもらった。

「これでどうですか?」

「あー、全然問題ないですよ、ありがとうございます」

「あのー、出来ればこっちも撮ってもらっていいですか?」

「いいですよー」

 俺はそのママさんからスマホを受け取ると女の子に手を振って別れた。その女の子は「バイバーイ」と言って笑顔で手を振ってくれたけど、当然だが華苗穂先輩も女の子に手を振ってた。

「いいねえ、子供ってのは無邪気で」

「これくらの年齢になると邪気が入るから素直になれないですからねえ」

「それもそうだな・・・大成たいせい、君は邪気が感じられるぞ」

「へ?」

「つまり、素直ではないという事だ」

「それって、つまり・・・」

「ボクは君の本心を見抜いているつもりだぞ」

「本心?」

「それをこの場で言ってもいいのだが、それを言うと今日のデートの意味がなくなるから今は黙っておこう」

「デートの意味がなくなる?」

「そう。だが、それはボクにも当てはまる」

「ますます意味不明」

「まあ気にするな。それより大成、もうお昼を過ぎているのだが、そろそろ何か食べないか?」

「別に構いませんよ」

「何にする?フレンチでもイタリアンでも、何なら懐石料理でも」

「ちょ、ちょっと先輩、本気で勘弁して下さい。俺、テーブルマナーとか全然知りませんし、ましてやフレンチのランチなんて言われたら全然想像が出来ません。イタリアンならピザとかパスタってイメージ出来ますけど」

 俺はマジで心配になった。プラチナカードを持つほどの人とランチを食べるとなったら、どんな高級な店に連れていかれるのか想像つかないし、だいたい俺は作法やテーブルマナーとかは無知に等しいから恥をかく事しか出来ないぞ。マジでどうする?

 華苗穂先輩は「はー」と短くため息をついたかと思うと

「やれやれ、君はとんだ勘違いをしてるな?」

「へ?」

「まあ、さっきのは軽いジョークだ。そんな肩が凝る店にボクは真昼間から行く気はない」

「脅かさないでくださいよお」

「ボクは君がよーく知っている単なる女子高生だ。普通の高校生が手頃に食べれる店で気軽にトークしながら食べられる物で構わないさ」

「はーー、安心しましたよ」

 でも、ここで華苗穂先輩は急に真面目な顔になって

「逆に聞くが、君は会長と一緒にランチする時はどんな店に行くんだ?」

「へ?青葉あおばとですか?」

「そう」

「まあ、青葉とだけでなく当麻とうま双葉ふたばさんとでも行く店は殆ど一緒ですよ。WcDかマイスドか、時々うどん」

「普通はそうだろ?」

「高校生だけで外でランチとなると、贅沢な物は無理ですよ。千円を超える物を食べる時は親と一緒の時だけですから」

「じゃあ決まりだ。地下街にWcDがあっただろ?そこにしよう」

 そう言うと華苗穂先輩は右手を差し出してきた。

 えっ?これって・・・

「あのー・・・まさかとは思いますけど・・・」

「おいおい、さっきボクの手を握ってくれたのは夢の出来事だったとでもいいたいのか?」

「い、いえ・・・」

「じゃあ、さっきの続きをやろう」

 そう言って華苗穂先輩はニコッと微笑んだ。

 それを見た俺は正直『ドキッ!』とした。ヤバイ、青葉だってここまで無邪気に笑う事は出来ないかも。い、いや、そんな事を考えていたらマジで青葉の言葉ではないが『罰ゲームから本当の恋が始まるなどという、ラブコメ小説のような展開』になってしまう。これは『罰ゲーム』だ。ゲームはゲーム、リアルはリアルだ。それにさっきは手をつないでいたのも事実だ。ここは素直に受け入れるのが妥当だな。

 そう思って俺は左手で華苗穂先輩の右手を握って歩き出した。当然だが華苗穂先輩はニコニコ顔だ。これが校内では「史上最怖(?)の風紀委員長」と男子から恐れられている華苗穂先輩・・・いや、あの「史上最怖(?)の風紀委員長」は広内金ひろうちがね先輩だ。ここにいるのは華苗穂先輩だ。

 ゲームの中だから、この人は広内金先輩とは別人の華苗穂先輩だ、そう割り切って考える事にしよう。これは『リアル恋愛シミュレーションゲーム』だ。もし青葉とデートする事になったら、こうやってお互いにニコニコしながら手をつないで歩く事になるのだろうな。でも、青葉とデートするのは無理かもしれない。あいつが本当に俺の妹だったなら・・・いや、まだ本当に妹だと決まった訳ではない!だから可能性があるうちは俺は諦めないぞ。

 ただ・・・俺が華苗穂先輩の右手を握った直後、一瞬だけ表情が曇った。言うなれば悲しそうな目をした。あれは一体、何だったんだ?ほんの一瞬だったけど・・・。

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