第49話 大成、展望台で・・・
そんな華苗穂先輩は隣にいた四人組のおばさん(奥様方と訂正した方がいいかも・・・)に声を掛けて
「すみませーん、写真を撮ってもらってもいいですか?」
とか言いながら自分のスマホを手渡した。仕方ないから俺は華苗穂先輩と並んで立ったけど
「あー、彼氏さーん、もうちょっと近づいた方がいいですよー」
「そうそう、どうせなら手を繋いで撮れば?」
「せっかくのデートなんだからさあ」
とか言って俺と華苗穂先輩をけしかけるから、俺は不本意だけど華苗穂先輩と手をつないで写真を撮る事になった。
「ほらー、もっとニコッとしなさいよー」
「そうよ、こんな可愛い彼女と一緒なのにさあ」
「そうそう、雰囲気壊れたら後で彼女に怒られれるわよー」
「あんたも結構いい男なんだからさあ」
なんて言うから俺も覚悟を決めた。これは罰ゲームだ。ゲームはゲーム、リアルはリアルと割り切ろうって思う事にした。
「いくわよー、はいチーズ」
おばさん(?)たちは結局俺と華苗穂先輩とのツーショット写真を3、4枚撮った後は自分たちもスマホを渡してきたので俺が写真を撮ってやる事にした。写真を何枚か撮った後にスマホを返したら
「どうもありがとねー」
「じゃあ、デートを楽しみなさいよー」
「なんならここでブチューってやってもいいわよ」
「若い時は大胆にやっても誰も文句を言わないわよー」
「「「「じゃあねー」」」」
とか言いたい放題のおばさん(?)4人組は手を振りながらエレベーターに向かって歩いていった。
当然だが華苗穂先輩はニコニコだ。俺は逆にため息をつきたいくらいなのだが、今は罰ゲームの真っ最中だからそんな事をする訳にいかない。
俺が心の中で大きなため息をついた時、再び華苗穂先輩がニコッとしながら話し掛けて来た。
「たいせー、あそこに行ってもいいかなあ」
「あそこってどこだあ?」
「ほら、あれ。窓が床まである通称『怖窓(こわそー)』と言われてるスペース」
「あー、あれかー。たしかに怖そうだなー」
「じゃあ、行こう!」
「いいよー」
そう、ここ札幌テレビ塔の展望台における人気スポット『怖窓』は、ほぼ足元までガラス窓になっているから、窓の角度の関係で地面が見えるのだ。つまり、下を覗き込むと自分が落ちそうになるから『怖窓』と言われていて、ガラス上部には『ガラスにもたれかかっても大丈夫!!近づいて下を見てみよう』と書かれた表示まであるのだ。まあ、ガラスの両サイドには手摺があるからガラスに直接もたれかかるのは子供くらいだけど。
華苗穂先輩は俺の左手を握って引っ張るようにして『怖窓』の前まで行って、そのまま下を覗き込んでいる。えっ?女の子なのにキャーキャー騒がない?なぜ?実際、さっきまで大勢の人がここに行って男も女も騒ぎまくっていたのに、華苗穂先輩は全然怖がる気配が感じられないぞ!?
「あれー、大成、全然怖くないの?」
「そういう先輩こそ平気なんですか?」
「あったり前だ。ボクは普段から高いところに住んでるのを忘れた訳ではあるまい。ベランダから下を見た事もあるし、所有者の特権で建物の屋上にあたる部分は小さな庭園になってるし、そこから下を覗き込む事も何回もしてるからなあ」
「うわっ、さすがお嬢様、やる事も大胆ですねー」
「何なら今度屋上へ連れてってやるぞ。そこでビアパーティをやった事もあるからなあ」
「高校生なのにビールですかあ?」
「さすがにボクは飲まないぞ。まあ、ボク以外はみんな成人だからアルコールだったけど」
「酔って落ちないですかねえ」
「あー、それは大丈夫だ。それに高所恐怖症の人でも外が見えないくらいの壁があるから大丈夫だし、下を覗ける場所は小窓の部分だから体が通らないから全然怖くないぞ」
「へえ」
「まあ、災害が起きた時には屋上へ避難する事もあるから、全部が全部ボクの家のスペースという訳ではないさ。あくまで一部分がボクの家の所有になってるだけだ」
「なるほど」
「もしかして大成はビルの建設現場とかに小さい時から出入りしてたから高いところは平気なのか?」
「うーん・・・まあ、だいたい合ってますよ」
「へえ」
いや、本当は違う。俺は華苗穂先輩に話を合わせただけだ。俺が高いところでも平気なのは・・・これを華苗穂先輩の前で言う訳にはいかない。もちろん、
結局この後も華苗穂先輩はテレビ塔のキャラ『テレビお父さん』のグッズを買ったり写真を撮ったりしてご機嫌だった。展望台から降りた後もテレビお父さんだらけの休憩スペースで幼稚園児みたいに振舞ってあちことベタベタ触ったり写真を撮ったりして終始ご機嫌だ。
「せんぱーい、ひょっとして『ゆるキャラ』が好きなんですか?」
「うーん、全部が全部好きって訳じゃあないけど、テレビ塔のキャラともいうべき『テレビお父さん』は全然憎めなくて好きなんだよなー」
「あのー先輩、話の腰を折るようで申し訳ないですけど『テレビお父さん』は公式キャラではなくて非公式キャラですよ」
「うっそだー!これだけ堂々と扱ってるのに非公式という事は有り得ないだろ!」
「嘘じゃあないですよー、ほら、さっきテレビ塔に入る前に外のショップで『テレビお父さん』を眺めてましたよね。あそこのショップの看板に書いてありましたのに気付きませんでしたか?」
「マジかよ!?」
俺はその証拠ともいうべきスマホの写真を華苗穂先輩に見せたけど、さすがにそれは気付いてなかったらしくてビックリしていた。
「うわー、本当だ。たしかに『人気No1.テレビ塔非公式キャラクター』って書いてある!」
「そうでしょ」
「じゃあ、公式キャラってどこにいるんだ?非公式キャラを堂々と販売していながら公式キャラを売ってないのはどういう事だあ!?」
「あー、これがテレビ塔の公式キャラですよ」
俺はその写真も華苗穂先輩に見せてあげたけど、華苗穂先輩は首を傾げていた。
「あれ?これってどこにあったんだ?」
「さっきの展望台のショップ。あそこの端っこにありましたよ」
「えー!全然気付かなかった」
「まあ、置いてある時と置いてない時があるそうです。あまりにも非公式キャラの方が有名になってしまったので、ほとんどトリビア的なキャラになってると言っても過言ではないと思いますよ」
「へえ。えーと、名前は・・・『タワーキー』。なんか大きな目玉の昆虫みたいなキャラだなあ・・・」
「まあ、そこは個人の主観が入るから評価は差し控えておきます。正直に言いますけど俺もクイズ研究会の連中から教えてもらうまで知りませんでしたから。でも、俺も『テレビお父さん』のノホホンとした雰囲気が好きですねー」
「大成もそう思うか?」
「そう思いますよ」
「それじゃあたいせー、このノホホンとした『テレビお父さん』の横で写真を撮ってもいいかなあ?」
「あー、いいですよー」
「じゃあ、撮ってくれー」
「はいはい」
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