第48話 大成、咄嗟に手を・・・

 俺と華苗穂かなほ先輩は並んでスナバを出たけど、スナバを出た瞬間、殆ど肩と肩が触れ合うくらいの距離にまで先輩が寄ってきたから俺は正直ぶったまげた。

「あのー、先輩・・・歩きにくくないですかあ?」

「何を言ってるんだ?今の君とボクは彼氏彼女の関係だ。これでも優しい方だぞ。それとも、いきなり手を繋いだり腕を組んで歩いた方が良かったのか?」

「あ、いや、そのー」

「なら、別に文句はないだろ?」

 そう言うとそのまま駅を出て地上を歩き始めた。

 さっぽろテレビ塔がある大通公園と札幌駅は地下通路でつながっているけど、なぜか華苗穂先輩は地上を歩き始めた。さすがに少し寒いのでお互いにコートを着ているし、華苗穂先輩はさきほどコートのポケットに入れたニットキャップも被っている。眼鏡を掛けているしボーイッシュな髪も見えない、しかもから、間違いなく清風山せいふうざん高校の関係者に見られても「俺がどこかの美少女とデートしている」としか見られないはずだ。華苗穂先輩は恐らくそれを狙っているとしか思えないぞ。

 俺と華苗穂先輩はテレビ塔の下にあるショップの前でテレビ塔グッズを眺めたりテレビ塔の写真を撮ったりしてたけど、その後は3階フロアにあたるスカイラウンジに行き、華苗穂先輩はスカイラウンジの上にある展望台行きのエレベーターに乗り込んだ。

 さすがにテレビ塔の中は暖かいからお互いにコートのボタンだけは外し、華苗穂先輩はニットキャップをポケットに入れた。休日だけあって観光客も大勢いるが、俺と華苗穂先輩は並んでエレベーターに乗り込んだ。俺たちは一番奥に陣取る形になった。

 でも、エレベーターに乗り込んだら先輩が俺の左肩に自分の頭を乗せて来た。

「せ、先輩!」

「別にいいだろ?」

「で、でもー」

「それとも恥ずかしいのか?」

「あー、いやー、そういう訳じゃあなくて・・・」

「じゃあ、問題ないよな」

 おいおい、勘弁してくれよお。さすがにエレベーター内で騒ぐ訳にもいかないし・・・。

 スカイラウンジから展望台まではエレベーターで約1分。エレベーターの扉が開いた時点で他の客は降りて、俺と華苗穂先輩は最後に降りた。

 だが、降りる時に華苗穂先輩はいきなり右手で俺の左手を掴んで

「さあ、いくぞ」

 そう言って小走りにエレベーターを出ようとした。だから俺も咄嗟に華苗穂先輩の手を握ってしまった。

「えっ?」

「早くー、展望台が待ってるぞ」

「あ、ああ」

 それだけ言うと俺は華苗穂先輩に引きずられる形でエレベーターから降りて、そのまま展望台の窓の前へ行った。


 そこには・・・眼下には札幌のシンボル、大通公園。遠くには雪が残る山々。観光雑誌とかで見るテレビ塔からの展望そのもだ。

 もちろん、他の観光客も大勢いるけど、どうみても俺と華苗穂先輩は仲のいいカップルにしか見えない。俺も正直「しまった!」と思ったけど、今さらどうしようもない。

 華苗穂先輩は興奮したような口調で

「おい、見ろよ、大通公園を歩く人があーんなに小さく見えるぞ」

「あー、たしかにそうですね。まるで米粒ですよね」

「いやー、ここの眺めは最高だなあ」

「先輩の家は38階ですよね。それなら100mを優に超えてるから、地上90mのテレビ塔の展望台よりも眺めはいい筈ですよ」

「何を言うかと思ったらそんな事かあ。だってさあ、このテレビ塔から眺める大通公園はテレビ塔でしか出来ないんだぞ。これは道民の宝ともいうべき眺めで、他では真似できない。うちのマンションの景色と比べたら雲泥の差、月とスッポンだ」

「そんなモンですかねえ」

「おい大成たいせい、あまり興醒めするような事を言うなよ。それとも君はここには何度も来てると言いたいのかい?」

「うーん、たしか幼稚園の頃に俺の母さんと青葉あおばの母さんが俺とかえでみどり、青葉を連れてここに来た事があったような記憶があるけど、あの時はクリスマスイルミネーションの時期でしたから、夕方のライトアップされた時の冬の大通公園をこの場から見ましたよ」

「じゃあ、10年以上も前の事だよなあ」

「それは間違いないですね」

「たいせいー、是非今度は冬にここに来たいね」

「せ、先輩!」

「まあ、気にするな」

 それだけ言うと華苗穂先輩は俺を見ながらニコッとしたけど、俺の左手は華苗穂先輩の右手が握ったままだ。

 おいおい、俺は青葉との約束で華苗穂先輩に嫌われるように仕向けないといけないのに、これじゃあ華苗穂先輩との距離がどんどん縮まっているのと同じだぞ!どうするつもりだあ!?

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