第40話 大成、朝からため息

「おーい、青葉あおば、朝だぞー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「おーい、あーおーばーさーん、あーさーでーすーよー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「青葉!起きろー!!」

「・・・・・(-_-)zzz」

 はーーーー・・・相変わらずだな。

 どうしてこいつは全然起きないんだ?これだけ目覚まし時計が鳴り響ている中を平然と寝ていられるんだ?

 仕方ない、やっぱり無理矢理でも起こすしかないか。

 俺は青葉のこめかみに両手を当てて、グリグリと締め付けた。

「いーたたたたた、ス、ストップ、ストップ!」

「どうだ、目が覚めたか?どうだ?」

「覚めた、覚めたから勘弁してえ!」

「じゃあ起きろ」

 そう言って俺は青葉のこめかみから両手を引っ込めた。青葉はようやく上半身だけをベッドから起こしてベッド脇に丸めてあったセーターを上に羽織った。

「たいせー、朝からグリグリ攻撃は酷いわよお、ぷんぷーん!」

「仕方ないだろ?相変わらずだけどが鳴ってても起きないんだからさあ」

「あれ?鳴ってる・・・」

「さっさと目覚まし時計を止めろ!電池の無駄遣いだあ!」

「はいはい」

 そう言うと青葉はけたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めた。

「勘弁してくれよなあ。高校2年にもなって目覚まし時計で起きられない奴がどこにいるんだ?」

「ここにいるよ」

「あおばー、アッサリ言うなよ」

「だってさあ、事実なんだもん」

「お前さあ、この事実をはま天塩てしおさんに公表してもいいのか?」

「ちょ、ちょっと待った!それは断固拒否するわ!」

「じゃあ、何で目覚まし時計で起きられないんだ?」

「それはですねえ・・・校内一の美少女を起こしてあげるという特権を誰かさんに与えている為よ」

「そんな特権なんかいらんわい!俺が逆に青葉に起こして欲しいくらいだあ!」

「えー、そんな面倒な事したくない」

「だったら自分で起きてくれよお」

「いいじゃん、ラブコメ小説の定番でしょ?」

「ラブコメ小説の定番は可愛いヒロインや妹が主人公を起こしに来るんだあ!」

「え?可愛いヒロインを主人公が起こしに来るんでしょ?」

「お前なあ・・・」

「冗談冗談。さあ、朝ご飯を食べるわよ!」

「・・・その前に、青葉に聞きたい事がある」

「へ?」


 正直に言うが、今朝の俺は青葉を起こすのに非常に葛藤があった。こいつは本当に俺の妹なのか?それとも単なる幼馴染なのか?その答えが分からないから、この家に入る事を躊躇ったのも事実だ。呼び鈴を押す俺の手が自分でも震えているのがハッキリ分かったくらいだ。


 ただ、俺は微かな希望を持っていたから青葉を起こす事を決めた・・・


 のだが・・・


 俺は今日の授業内容を殆ど覚えてない・・・。


 全ての原因は、青葉から聞いた Shariシャリ Shiretokoシレトコ が青葉宛に送ってきた過去のDVDの映像が何処で撮影された物なのか、その答えが一番恐ろしい結果になったからだ。

 青葉が言うのは、以前は写真だけだったようだが3年ほど前からは写真とDVDが送られてくるようになったらしい。その発送元、あるいは撮影された場所が親父が海外に行っていた場所とかなり高い確率で合致したからだ。中東、アフリカ、中南米、中央アジア・・・発送元がニューヨークやロンドンという時や国際郵便のあて名書きがプリンターの物もあったが、親父が俺に行先を伝えないまま海外へ行っていた時があったのを考慮しても半分以上が合致していたと言っても過言ではなかった。

 これだけの状況証拠が揃ったから、もう俺は諦めの境地に入っていた・・・。

 でも、本音では間違いであって欲しい、彼氏彼女の関係まで行かなくても、せめて今まで通りの関係でいいから、このまま続いて欲しいと思っても「こいつは俺の妹だ」というが俺の上に重くのしかかってくる・・・。

 授業どころか放課後の生徒会室で何をやっていたのか、それすらも思い出せない・・・足が地についてないような感じだ。

 いつも通り生徒会活動を終わらせたけど、さすがに今日はかえでみどりが一緒に帰る事はなかった。ただ、朝は楓と緑が一緒に登校したような気がする・・・いや、本当に一緒だったかどうかも覚えてないくらいだ。

 青葉はいつもと同じように俺の横を歩いてるけど、その様子は普段と変わらない。俺も普段と変わらないが、内心では非常に複雑な気分だった。幼馴染なのか、それとも妹なのか・・・昨日まで青葉にあれほど告白したいと思っていたのが嘘のようだ。

 今日は金曜日だから道場へ行く日だ。しかも、金曜日は特別な日だ。

 既に生徒会メンバーは全員帰っている。広内金ひろうちがね先輩だけは風紀委員長として風紀委員室へ寄ってから帰るようだが、他の三人は真っすぐ帰宅した。

 俺と青葉は二人揃ってらん先生のところへ生徒会室の鍵を返した後は、そのまま靴を履き替えて正門へ向けて歩き出した。既に下校時刻をかなり過ぎてるが中途半端な時間だから部活組の帰り時間とも重ならず、誰も周りにいないような状況だ。

「・・・たいせいー、鞄を置いたらすぐに行くわよ」

「・・・ああ、いいぞ」

「・・・たいせー、ちょっといいかなあ」

「ん?どうした?」

「今日は朝からボケーっとしてため息をついてる事が多かったけど、何かあったの?」

「!!!!!」

「『心ここにあらず』とでも表現した方がいいかもしれないよ。いつもの大成たいせいらしくないよ」

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