第28話 大成、ようやく青葉と歩けるようになる

「おー、かいちょー、おはよー」

華苗穂かなほ先輩、おはようございまーす」

「さっそく四人でお出ましだなあ。駒里こまさとは朝からハーレムか?それとも修羅場かあ?」

「せんぱーい、揶揄わないでくださいよお」

「まあ、それは冗談だ。気にするな」

 正門の下ではコートの左腕に風紀委員の腕章をした広内金ひろうちがね先輩が俺たちを出迎えた格好になったが、広内金先輩の横には同じく風紀委員の腕章をした同じ三年生男子の風紀委員も立っている。生徒会メンバーには昨日の執行委員会の時にかえでみどりの写真をスマホで見せたから、広内金先輩も俺の横に立っているのが双子の妹だという事に気付いたようだ。でも俺の周囲にいた連中は広内金先輩の発言の意味が分からず首をかしげている奴もいる。

「華苗穂先輩、今のところは大丈夫ですか?」

「ああ、取り敢えずは問題ない。まあ、あそこには常に風紀委員が張り付いている状態だから問題行動をするとは思えないけど・・・」

「それもそうですね」

 正門をくぐれば、そこには・・・部活動のユニホームを着た連中や部・同好会の看板、プラカードを持った連中がウジャウジャといて1年生に盛んに声を掛けていた。その中には朝からフランケンシュタインや魔女のコスプレをしているオカルト研究会や、パティシエのような恰好をしているスイーツ研究同好会の連中までいる。そう、今日は部・同好会合同説明会もあるから、新入部員を熱心に勧誘しているのだ。運動部の一部はスポーツ特待生が既に入部した形になっているが、それだけで必要部員が確保出来る訳もでない。それに人数が確保できなければ一部の同好会は活動休止になってしまうから、それこそ必死にならざるを得ないのだ。

 それともう1つ・・・我が校の校則では、部・同好会には2つ加入する事が出来るのだ。特進科、スーパー特進科の生徒及び特待生は1つだけという決まりだが、それ以外は2つ加入できるのでどの部・同好会も熱心に勧誘しているのだ。ただし、ウィンタースポーツ部であるスキー部とスケート部はカウントされないから最大3つまで加入できる。実際、スキー部やスケート部の特待生は夏場の体力トレーニングを兼ねて山岳部や陸上部などに加入している人も結構多い。でも特進科とスーパー特進科は活動日制限をつけられているし、俺たち2年生・3年生の特進科では運動部に入っている生徒そのものがいないのが実情だ。

 俺も去年は運動部を中心にあちこちから勧誘されて正門に入ってから1年2組の教室へ行くまで結構な時間を取られたのだが、今年は俺の左右にいる楓と緑を勧誘しようとして、あちこちの部・同好会が行く手を遮っている状態だ。

「演劇部です。あなたの入部を歓迎しますから是非入部しませんか?」

「水泳部をよろしく」

「卓球部です。初心者でも親切に教えるから体験入部だけでもいいから是非来てね」

「日本の心、茶道部をヨロシク」

「新聞部で一緒に記事を書きませんか?」

「アニメや漫画に興味があるならアニ研に入ってね」

「弓道部をよろしく」

とまあ、入れ替わり立ち代わりで楓や緑の前に立ち、中にはお手製のチラシを配りながら勧誘している部もあり、あちこちで結構な賑わいになっているし校舎の中からも盛んに勧誘活動をしている声が聞こえる。もちろん、違法勧誘がないかを監視している風紀委員の腕章をした連中もあちこち立っている。

 そんな中、俺は剣道部の連中がこの寒い中、生徒用玄関の前で道着・袴姿で1年生を熱心に勧誘している事に気付いた。その剣道部の大勢の男子の中にたった一人だけ女子生徒がいる。3年6組の美留和びるわ咲来さき先輩だ。そう、今日の最大の懸案事項にもなっているだ。

 今のところは普通に勧誘活動をしているようだ。それに剣道部の周囲には広内金先輩が内密に指示を出して常に風紀委員の誰かが立っているような状態であるし、何故か生徒指導担当の先生まで近くにいるから、美留和先輩といえどもこの状況では問題行動を起こすとは思えない。俺は正直ホッとした。

 その美留和先輩が小走りに楓と緑の所へ来て

「剣道部をヨロシクね。特に女の子の入部は大歓迎よ」

そう言ってニコッと微笑んだ後にチラシを渡して行った。そこには可愛らしい文字で『清風山せいふうざん高校剣道部 部員募集中!男子でも女子でも初心者でも経験者でも入部歓迎します。体験入部も受け付けています』と書かれていた。

 美留和先輩は他にも女の子を見ると片っ端から声を掛けてチラシを渡していたが、手応えはというと・・・まあ、そこは本人がどう捉えているかは分からないけど、この先輩の熱意に応えてくれる人が何人現れるかは1年生の気持ち次第という所なのかもしれない。

 楓と緑とは靴箱の位置が違うからここで別れたけど、廊下にもプラカードや看板を掲げた連中、チラシを配る連中が大勢待ち構えていて、その列は1年生の教室前まで続いているようだ。まあ、去年もそうだったから今年になって変わっているとも思えない。さすがの楓も緑もウンザリしたような表情をしていたけど、この騒ぎも今日だけだ。俺は廊下の喧噪を後に2年1組へ向かった。青葉あおばも楓と緑がいなくなった事でようやく普段の位置に戻れたという感じで俺の横に来た。

「いやー、それにしても凄い賑わいだったね」

「まったくだ。毎年部員獲得競争が激しくなっているらしいけど、実感させられるよな」

「まあ、特に運動部は前年の結果が翌年の入部数にモロに反映するからね。実際、野球部が甲子園に初出場した翌年には例年の倍以上の入部があったという事例があるし、部員の数が基礎予算に比例するから、とにかく部員が欲しいというのは切実な願いであるのは間違いないわよ」

「たしかに・・・」

「楓ちゃんと緑ちゃんはどうする気なのかなあ」

「さあな。俺が聞いても二人共ノーコメントだからな」

「私としてはどこに入部してもいいと思っているけど、ジイには道場へ通い続けるって昨日宣言してたわよ」

「はあ?俺は全然聞いてないぞ」

「あら?あの二人、そんな大事な事を大成たいせいに話さないなんて、何を考えてるのかなあ・・・」

「二人共、俺に話せない事情でもあるのか?」

「そこは私には分からないわよー」

「緑はツンだし、楓はノホホンだし、ホントに何を考えてるのか全然分からないや」

「今朝もそうだったよねー」

「ああ。まさか二人で待ち構えているなんて思ってもなかったからなあ」

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