第29話 大成、修羅場疑惑(?)を追求される

 そんな話をしているうちに俺と青葉あおばは2年1組の前に着いたから、俺は教室前方の扉を勢いよく開けた。青葉は3月の時と同じように「おはよー」と言って教室に入っていたのだが・・・

「こまさとー!一体これはどういう事だあ!!」

「そうよそうよ、いつ青葉ちゃんから乗り換えたのよ!説明しなさーい!!」

一組の男女が怒鳴り声を上げながら俺のところへ向かってきた。しかも二人とも目が血走っている!

はま、それに天塩てしおさんも落ち着いて下さい!一体、何があったんですかあ?」

「そうだよー、私だって意味が分かんないわよ」

 俺も青葉も顔を見合わせてキョトンとしているけど、この二人は異常な程のハイテンションで俺に食って掛かっている状態だ。この二人とは、昨年も同じクラスメイトだったはま厚真あつま天塩てしおさかえさんの二人だ。

「どうしたもこうしたもないぞ!駒里こまさと、お前、今朝は1年生の女子二人と一緒に登校しただろ!」

「わたしも見たわよ!青葉ちゃんが駒里君の後ろを歩いていたって事は、青葉ちゃんを裏切って入学したばかりの1年生に乗り換えて、しかも、どう見たって修羅場じゃあないの!青葉ちゃんみたいに可愛い子だからっていって、これじゃあ青葉ちゃんが可哀想じゃあないの!!これはどういう意味なのかクラス全員の前で説明しなさい!」

「そうだそうだ!」「こまさとー!あんな可愛い子に手を出すなんて最低だぞ」「しかも二人同時に手を出すなんて最低な野郎だあ」「そうよそうよ、いつ青葉ちゃんと別れたのか説明しなさいよ」「青葉ちゃんだって、説明して欲しいわよね」「駒里君、最低!」

 おいおい、こいつら揃いも揃って一体なにを勘違いしてるんだあ!?俺だって返事に困るぞ。青葉も面食らったような顔をしているし、どういえばいいのか分からなくて困っているみたいだ。だいたい、かえでみどりを「双子の妹だ」と説明して納得する奴が何人いるのか、この状況だと全く読めない!

「駒里君!あなた、わたしの前でそんな不埒な事をするのは許さないわよ!」

「そういう事よ!そんな事をわたしが許すとでも思ったの!」

 ヒエーー!!去年の1組の風紀委員の川湯温かわゆねいずみさん、1組のクラス委員の智恵ちえふみさんまで勘違いしてるー!融通が利かない事で有名な元1年1組の堅物コンビを説得するのは骨が折れるぞ。マジでヤバイ状況だあ!

 その時

「おーい、おまえらー、何を勘違いしてるんだあ!?」

俺と青葉は、いや、クラス全員がその声がした方向に注目した。教室の後ろの扉の所には当麻とうま双葉ふたばさんが立っていた。そう、声を上げたのは当麻だ。

北舟岡きたふなおか!おまえ、駒里の味方をするつもりなのか?」

「そうじゃあない、勘違いをしているのは浜や天塩の方だぞ」

「「はあ?」」

 浜と天塩さんは二人で顔を見合わせているし、それは他の連中も同じだ。

 当麻はゆっくりと教室内へ入ってきて

「お前たちが言ってる二人の女の子っていうのは、大成たいせいの双子の妹の楓ちゃんと緑ちゃんだ。決して大成が乗り換えた訳じゃあないぞ」

「「ふたごのいもうとー!?」」

「そうだ。俺が保証する。」

「そうだよー。わたしも楓ちゃんと緑ちゃんとは顔見知りだから、さっき二人に会ってちょっとだけ話をしてきたわよー。浜君も天塩さんも勘違いしているだけだよー」

「じゃあ何か、駒里には青葉さんに匹敵する可愛い双子の妹がいて、それが揃って我が校に入ったという事かあ!?」

「そういう事だ。別に驚くような事じゃあないぞ」

 それだけ言うと当麻は自分の席に鞄を置き「よいしょっ」と言わんばかりに椅子を引いて腰かけた。双葉ちゃんも自分の席に鞄を置いてから椅子に座った。

 浜と天塩さんの二人は顔を見合わせた後、何となくだが気まずそうな顔をしながら

「すまん、おれの勘違いだった」

「わたしもよ。大騒ぎしてゴメンね」

 そう言って二人揃って俺に頭を下げた。まあ、この二人は勘違いからクラス中を巻き込んだ騒ぎを引き起こすのがよくあるから、今回もそれと同じという事だな。ようするに第一印象を事実として受け止める単細胞的な連中だが、決して悪気があって騒ぐような奴ではないというのは俺も青葉も知っている。

「あー、いや、俺は別に間違いに気付いてくれただけで十分だ」

「私もよー。さすがの大成も実の妹に手を出すバカはしないわよー」

「それじゃあ、今でも駒里の彼女は青葉さんのままなのか?」

「あー、それだけどー、何度も言ってるけど、私は大成のカノジョじゃあないわよ」

「はあ?青葉ちゃん、いい加減に認めなさいよお。わたしだけでなくクラス全員がそう思ってるわよ」

「だーかーら、大成は幼馴染以外の何でもないよ」

「どう見たって彼氏彼女でしょ!」

「おーい、浜に天塩、こいつらマジで幼馴染以上でもなければ以下でもないぞー」

「当麻の言う通りだよー」

「マジかよ!?あ、でも、北舟岡がそこまで言うなら間違いないか・・・」

「北舟岡君と昆布盛こんぶもりさんが言うなら間違いないと思うけど・・・」

「そう言う事だから、早く大成と青葉ちゃんを解放してやってくれ」

「そ、それもそうだな。駒里、悪かった」

「わたしもよー。ゴメンね」

「ああ、別に気にしてないから大丈夫だ」

 俺と青葉はようやく2年1組の連中の冷たい目(?)から解放されて自分の席に着く事が出来たが、マジで当麻と双葉ちゃんがいなかったら今頃どうなっていたのか・・・恐らくらん先生が来るまでクラス全員に搾り上げられていたはずだ。想像するだけで恐ろしい・・・。

「当麻、助かったよー」

「気にするな。困った時はお互い様だ」

「ホントよ。当麻君がいなかったら私も多分吊るしあげられてたと思うよー」

「まあ、楓ちゃんと緑ちゃんの件ではお前ら二人は被害者だろうけど、後半はお前らが蒔いた種だからな」

「「?????」」

「とうまー、本当にこの二人は分かってないみたいよー」

「やれやれ、ホントに世話の焼ける幼馴染さんたちだなあ」

「当麻くーん、世話の焼けるって意味はなーに?」

「はー・・・ここまで来ると青葉ちゃんは無頓着を通り越して病気じゃあないかって思うぞ」

「わたしもそう思うわよー。まあ、そこが青葉ちゃんのいい所だとは思うけどねー」

「大成もこんな青葉ちゃんに好かれて大変だな」

「当麻くーん、何度も言うけど大成は私のカレシじゃあないよー」

「大成、こう言われてるけど、お前はどうなんだ?」

「青葉がそう思ってるならそれでいいんじゃあないのか?」

「まあ、お前がそう思ってるなら、おれが口出しする問題ではないな。双葉もそれでいいよな」

「わたしは別にいいわよー」

「・・・・・」

 当麻、俺は本音ではこの場で「俺は幼馴染という関係はもう嫌だ。もう1歩、前に進みたいんだ」って叫びたいんだぞ。お前には俺の心の叫びが聞こえたのかどうかは分からんが、現在進行形でアツアツのお前と双葉ちゃんが羨ましいぞ・・・まあ、これ以上は俺の愚痴になるだろうし、だいたい、俺はそんな事を青葉の前で言う度胸もないチキン野郎だから、青葉が望まない以上、この関係をしばらく続けさせてもらうよ。それに、青葉は俺がいないと優等生としてのからな。

 青葉との約束は守らないと・・・。

 俺が青葉を支えないと・・・。

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