第13話 大成、青葉とガチで三本勝負をする
今、
俺は青葉とガチで勝負するのは珍しくない。「女性相手に練習・試合をするのはちょっと遠慮したい」「女性相手に固め技を仕掛けるのはちょっと遠慮したい」と思う男性は多いかもしれないし、それは女性から見て「男性相手に練習・試合するのはちょっと遠慮したい」と思うのと同じだ。だからさっきの女の子もいつも青葉を相手に練習しているが、俺と練習する事はない。まあ、これは仕方ない事だと思っている。でも、青葉は俺が手を抜いていると分かると後で烈火の如く怒るので、俺も青葉を相手にする時は遠慮しない。いや、むしろ本気を出さないと青葉にボコボコにされかねないから俺も必死だ。
今日もそうだ。俺と青葉は最後に三本勝負をするのが当たり前になっている。俺と青葉の間には約束事として『負けた方は勝った方に何か1つ奢る』という条件が付いているからだ。
今日の勝負は、一本目は投げ合いになって俺が逆転の
「どうだあ!これで三本目も私がいただくわよー」
「ふーんだ、それはどうかな」
「降参するなら今のうちよ」
「誰が降参なんかするもんかあ!」
俺と青葉の三本目の試合は勝負が長引いた。青葉は足技を中心に仕掛けてくるが、俺はそれをうまくいなしている。でも、青葉に足技は危険だからこっちからは仕掛けない。こいつの
だが、俺は青葉の一瞬の隙をついて
「技あり!」
ジイの判定は技ありだ。たしかに俺も完璧に決まったという自信は無かったから技ありでも仕方ない。俺は体格差を活かして青葉を半ば押さえつけるようにして抱え込み、
「抑え込み!」
青葉は俺から必死に逃れようとするが、俺はリーチの差を活かして右手で青葉の左足と帯を、左手で青葉の首と襟を抱え込んで完璧に青葉を押さえつけている。青葉も右足と背中を使って必死に逃れようとしているけど、この体制になってしまえば体重差で青葉には圧倒的不利だから俺は25秒間押さえつければいい。ある意味、俺は青葉の弱点を突いた形になった。実際、青葉が中学時代の公式戦で負けた試合は全て固め技、それも寝技で負けている。
「一本!」
ジイが右手を真っすぐに上げて俺の勝ちを宣言し、同時に周囲から拍手が上がった。
俺も青葉から両手を離して起き上がったけど、青葉はニコリともしない。いや、むしろ負けて憮然とした表情をしていた。でも、柔道の試合は礼に始まって礼に終わる。だから青葉も立ち上がって礼をした後、今日の練習は終わりとなり、俺たちも他の人も帰り支度を始めた。
「あーあ、負けちゃったなあ」
「仕方ないだろ?お前は投げるのは神クラスだけど寝技は下手だからな。朝と一緒だ」
「う、うるさい!」
「じゃあ、今日はお前が払えよー」
「はー・・・3連勝していたからなあ。今日も負ける気がしなかったからお財布の中は殆どカラなのよねえ」
「そーんなのは俺は知らん」
「えー!勘弁してよお」
「却下。お前は『明日払うから立て替えておいてね』と言って翌日に支払った事は一度もない。だから持っている金で払える物でいいから買え」
「だってー、私の小遣いはただでさえ大成より少ないんだよ」
「それは理由になってないぞ。約束は約束だ」
「そこを何とか、ね、ね」
「だーめ!」
「ケチ!」
青葉はその後もあーだこーだ言って支払いを拒み続けたけど、結局、青葉は渋々顔であるが
「・・・セブンシックスのカフェならいいわよ」
「まあ、俺もそのくらいで構わないぞ」
「確かに聞いたわよ。後で『もっと高い物に変えろ』とか言わないでよ」
「そんな事を言ってると本当に言い出すぞー」
「はー・・・そのくらいで済むならお安い出費、と言いたいけど仕方ないかあ」
「そういう事だ」
「次はぜーったいに負けないからね」
「そうしてくれ」
最後は青葉もボヤキ節連発だったけど、約束は約束なので互いに道着から私服に着替えて帰る事になった。
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