第12話 大成、青葉と一緒に道場へ行く
俺が
俺と青葉は幼稚園児の頃からこの道場に通っている。この道場の館長で代表者は形の上では駒里
俺の親父・・・まあ、ジイの末っ子にあたる人なのだが、ある意味、きょうだいの中で一番ぶっ飛んでいる人でもある。でも、決して親父とジイの中が悪いわけではない。かつてジイは俺の所に『ワシに一番似てるのはお前の父だ』と言った事があるが、ある意味、それは間違ってないと思う。
今日だってジイは俺の姿を見るなり、スタスタと俺のところへ歩み寄ったかと思うとニコニコしながら
「たいせいー!春休みになった途端、鍛錬を怠るとはどういう事だあ!」
と言って、何の前触れもなくいきなり
でも・・・青葉や他の練習生がいなければジイはアレを仕掛けて来たはずだ。それを本気で仕掛けられたら俺も凌げる自信がない。ある意味、色々なところでぶっ飛んでるジイさんだ。
「ジイ、頼むからいきなり技を仕掛けてくるなよ」
「ふーむ、さすがに腕を上げたようじゃな」
「ジイ、年のせいで腕が落ちたんじゃあないのか?」
「うるさい!ワシはまだ若いぞ。お前に年寄り呼ばわりされる筋合いはない!」
「そんな事を言ったって、髪も髭も真っ白だろ?それに10年前より量そのものが減ってるからなあ。さすがにここは誤魔化しが効かないだろ?」
「フン、若くても白髪だらけの奴は多い。この真っ白い髪と髭は老いの象徴ではない、貫禄と言って欲しいものだなあ」
「屁理屈言ってんじゃあないぞー」
「ケツの青いガキに言われたくないぞー」
「まあまあ、
「おー、青葉ちゃんかあ。相変わらず綺麗じゃのお。
「『お母さんの若い頃に似て来た』ってところは誉め言葉として受け取っておきますけど、だからと言って何もサービスしませんよーだ」
「うーん、10年前なら綺麗だねって言うだけで『わー、ありがとう』とか言って喜んでたのにのお。どうも今時の若い娘の考えはよく分からん」
「当たり前だ。年寄りに青葉の考えが分かるなら俺が聞きたいくらいだ」
「ほお、完全に尻に敷かれとるのお」
「はあ?俺が青葉の尻に敷かれてるってどういう事だあ!?」
「
「それはそうだけど・・・かと言って青葉の店を放ってはおけないだろ!」
「まあ、ワシはそれを悪く言うつもりは無い。お前が選んだ事をワシが横槍を入れて変えさせる訳にはいかぬからのお」
「だったら、別にいいだろ?」
「なら、さっさと子供たちの面倒でも見てやってくれ。ワシはちょっと休憩する」
「はいはい、後は俺と青葉でやっておきますよ」
「頼んだぞ」
「「頼まれました」」
それだけ言うとジイは一度道場から出て行った。でも、出て行く時だってニコニコ顔だ。決して怒っているような素振りは見せてない。
そう、俺と青葉はこの道場では殆ど師範代に等しい立場でもあるのだ。
俺も青葉も入門から今まで、ずっと道場の一員だ。俺は中学時代は学校の柔道部に所属していたけど、この道場にもずっと通い続けていた。まあ、中学の校則にも『柔道部員は一般の柔道場に通ってはならない』などという物は存在しないし、道場の代表の甥、元代表の孫という事もあって何も言われなかった。むしろ『自分の実力アップに励んでいる』として褒めていたくらいだ(柔道部の顧問が駒里武道館出身という事もあったけど)。
青葉の場合、女子柔道部が無かったという理由もあって道場に通い続けていたし、道場に趣味や健康目的で通っている社会人や大学生などから『駒里武道館のアイドル』扱いされていたという事情もあった。
アイドル並みの人気はあるけど、同時に青葉はこの年齢で柔道二段の腕前だ。高校生で三段という人はほとんどいないけど二段という人はそれなりにいる。ただ、こいつの実力だったら二段では寂しいくらいけど制度には逆らえない。それに青葉に勝てる女子は同じクラスでは全国レベルの選手でないとかなり厳しい。さすがの青葉も体重差が30キロとなると苦戦は免れないけど、あの華奢な体で自分よりも重たい選手を平然と投げ飛ばすのだから、そのあたりは天性の才能なのかもしれない。実際、俺も柔道二段だけど、身長差で約20センチ、体重差で約20キロある俺と勝負しても互角に渡り合えるのだから、青葉の凄まじさが分かるだろう。
俺は中学時代、個人戦では全国大会にも3年連続で出場して、最高成績は3位だ。青葉も同じく個人戦のみ出場し、こちらも最高成績は3位だった。残念ながら我が中学の母校の柔道部は個人・団体を問わず過去に一度も全国大会に出場した事がなかったくらいのレベルだったから、俺と青葉が学校創設以来初めて全国大会に駒を進めた選手でもあった。ただ、青葉は本来は部員ではないのだが「紅一点の柔道部員」という形で個人戦のみ出場していた。『武道』の必修化により柔道を選ぶ中学校は多いが、女子柔道部がある中学校は多くない。それに、統計では柔道部員そのものが減少傾向にあるのも事実だ。
だから俺も青葉も清風山高校だけでなく、公立・私立を問わず推薦入学、特待生としてスカウトが数多くあったのも事実だ。俺も青葉も清風山高校へ進学したが、清風山高校からは柔道部以外の運動部からもスポーツ特待生としてスカウトされていたけど、俺も青葉もスポーツ特待生として高校へ進学する事はなかった。
ただ、本当のところ、俺には清風山高校以外からの誘いを受けても清風山高校以外には進学しないと決めていた理由もあった。
俺も青葉も清風山高校には男女の柔道部があるにも関わらず柔道部に所属してなくて、逆に駒里道場には通い続けている。それにはとある校則があるからだ。その校則とは・・・まあ、今は省略する。そんな事を言ってる場合ではなく、俺も青葉も小学生や幼稚園児のまだ柔道を始めて間もない子たちに柔道の心構えや受け身の基本を教えるのに忙しいからだ。
俺は基本的に男の子、青葉は女の子たちに教えているが、やはり青葉は子供たちからも人気がある。こういうところは女子の特権だな。
まあ、俺も青葉も昔はジイではなく、鵜苫さんの息子、つまり俺の従兄である
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