第14話 大成、青葉との関係を進めたいと思うのだが・・・
「・・・遅いなあ・・・」
俺は更衣室で着替えて道着を鞄に詰めて道場の玄関で待っていたのだが・・・なかなか
やがて青葉が女子更衣室から出て来たのだが、出てきて俺と目が合った瞬間、右手を顔の前に上げて、いわゆる『ゴメン』のポーズを取った。俺はてっきり『遅くなってゴメン』だと思っていたのだが
「たいせー、お財布忘れてきちゃった」
「はあ?」
「今日は学校へ行ったでしょ?だからブレザーの内ポケットにお財布を入れたままにしてあったのをすっかり忘れてた。ゴメン」
「あおばー、嘘じゃあないよな」
「嘘じゃあないよ。ほら、鞄の中を見てよ」
そう言って青葉が道着を入れた鞄を開いて俺に見せたが、たしかに鞄の中には財布は入ってない。青葉が着ている服に財布を入れているような膨らみはない。という事は青葉が言ってるのは本当だ。
俺は「はー・・・」と短いため息をついた後
「じゃあ、俺が立て替えるから明日払えよ」
「サンクスであります!明日の朝、必ず払うよ」
「か・な・ら・ず・だ・ぞ」
「りょーかいであります!」
はああ・・・ぜーったいに明日の朝になったらさっきのセリフは忘れてるからなあ。俺は青葉の下僕だな・・・。
俺たちは道場へ来る時と同じように並んで歩いていたが、いつもと同じでずっと喋っている訳でもなく、かと言って肩を寄せ合うなどという事をしている訳ではない。ただ普通に歩いているだけだ。
青葉の表情もいつもと同じで特に変わっているようには思えない。
もう10年以上も続いてるから、これが当たり前になっている・・・でも、やっぱりこのままでは駄目だ。そろそろこの関係も終わりにしたい。やっぱり一歩踏み出すべきだ。それに俺たちは高校2年だ。変わったところで周囲が怒る事はない、むしろ、周囲の考えと俺たちの関係が同じになるだけの筈だ。
俺は今までにないくらいに心臓がバクバクしている。試合で、ましてや全国大会レベルの時でもここまでドキドキした事はない。高校入試の時だってここまで緊張した事はない。やはり、これを言うのは相当度胸がいる・・・でも、これを言わないと始まらない!
「・・・あ、あのさあ」
「ん?どうしたの?」
「青葉、お前さあ、高2になっても俺たちはこのままでいいのかなあ・・・」
「はあ?『このまま』ってなあに?何を言いたいの?」
「お、俺たちはさあ、幼稚園に入る前から、いつもこうやって一緒にいるだろ?でもさあ、俺ももうすぐ17だし、青葉だって半年後には17だ。そろそろこの関係も変わるべきじゃあないのかなあ」
俺としては青葉との仲を今の関係から一歩進めたい、幼馴染という関係から一歩進めて彼氏彼女の関係になりたい、だから青葉さえOKなら・・・そう思って
青葉は俺の顔を見ながら少しだけ考えていたけど、ニコッと微笑んだかと思ったら
「・・・そうねえ、やっぱり、このままじゃあ駄目だよねえ」
「そう思うだろ?」
「うん・・・やっぱり、変えないと駄目ね」
「そうだな」
「決めた!私、今までと変わるわ」
「ホントか!」
「うん、私、
「へ?」
「だーかーら、大成に頼り切った私から脱皮する!」
「・・・あ、あのー・・・それはどういう意味で・・・言ってるのかなあ」
「毎朝大成に起こされなくても起きるようにする。大成に生徒会の仕事を、クラスの仕事を任せるのではなく私自身でやるようにする。それに、
「・・・・・」
「だから、大成も明日からは私を起こさなくても大丈夫よ」
「・・・・・」
あのー・・・俺の言いたかった事とは全然違う方向へ話が進んでいったような気がするんですけど・・・それとも俺の言い方がマズかったのか?・・・。
俺は正直、かなり葛藤したが青葉の勘違いを正す方法を思いつかなかった。結局、俺は
「青葉がそう思ってるならそれでいい。明日から生徒会長らしくビシッとしろよ!」
「まっかせなさーい!」
「期待してるぞ!」
「じゃあ、あそこのセブンシックスに行こう!大成、立て替えてね」
「はあ?お前、俺に頼り切った生活を一変させるんじゃあなかったのかよ!?」
「それは明日から。それに約束は約束よ。だからカフェは大成が立て替えてね。明日払うから」
「はー・・・明日払えよ」
「大丈夫よ。私を信用しなさい!」
「・・・・・」
やれやれ、俺は青葉の幼馴染、青葉の下僕のまま変わりそうもないな。どうせ明日も俺が起こさないと起きてこないだろうからな。
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