第11話 大成、微妙なお年頃の妹と話をする

 結局、青葉あおばは俺を店から追い出すようにして帰した。まあ、あいつにとって不都合な事を藻琴もことおばさんが言い出しかねない事態だったから、ある意味正解かもしれないけど。


「ただいまー」


 俺は結構大きな声で言ったつもりだったが、何の反応もなかった。

「・・・誰もいないのかな?」

 俺は一人でリビングに行ったけど、予想に反して一人だけいた。

「あれ?みどり、お前だけかあ?」

「・・・そうだ」

「母さんたちは?」

「・・・じいじとばあばは出掛けてる。母さんは店に出てる。姉貴はさっき一人で出て行った」

「・・・そうか、分かった」

 相変わらずの不愛想な返事だな、と言いたかったけど、それを言った所で変わらないから俺は冷凍庫にタッパーごと入れた後は自分の部屋へ行って制服を脱いだ後にもう一度リビングに戻ってきた。

「・・・緑、メシは?」

「・・・食べた」

「・・・そうか。じゃあ、適当に食べるぞ」

「・・・冷蔵庫に炒飯チャーハンがある。食え」

「・・・分かった」

 俺は緑に言われた通り冷蔵庫を開けたけど、そこに炒飯は入っていた。しかもご丁寧にラップを掛けてあった。

「・・・みどりー、餃子ギョーザも食べていいのか?」

「・・・いい」

「・・・誰が作ったんだ?」

「だ、誰でもいいだろ!」

「・・・分かった。有難くいただく」

「有難く食べろ!バカ兄貴」

 はー・・・こいつと話すのは疲れる。でも、それを言うと不機嫌さが倍増するだろうから、黙って緑の言う通り昼飯にした方が良さそうだな。それにあの態度でだいたいの事は読めた。この炒飯と餃子は緑が作った物だ。

 俺は冷蔵庫に入っていた炒飯と餃子をそれぞれレンジで温めた後にテーブルに乗せた。冷蔵庫から烏龍茶を取り出して自分でコップに注いだ後は適当に食べたけど、その間に緑は何かを喋る訳でもなく、ただひたすらソファーに座ってテレビを見ていた。いや、正しくは録画してあったアニメを見ていたのだが、俺はあまり興味がない分野なので適当にスルーしていた。ただ・・・なんとなくだが、俺が緑の方を見ない時に限って、緑が俺に鋭い視線を向けているように思えるのは気のせいか?

 緑が作った炒飯の味付けは決して濃くなく、かといって薄いという事もない。パサパサしている訳もなく、かと言ってコッテリしている訳でもない。火もよく通っているし出来栄えとしては上出来だ。恐らく俺が帰ってくるのが想定していたのより遅くなったので、やむを得ず冷蔵庫に入れたのだろう。それは餃子も同じだと思う。本当はニンニクを入れた方が好みなのだが、わざと使ってない。多分、俺がこれから道場へ行くのを分かってるからだと思う。

「・・・みどりー、結構美味しいぞ」

「そ、そうか!どのくらい美味しい?」

「レンジで温め直さなければ120点を上げたいけど、今はレンジで温め直してるから110点といったところだな」

「110点・・・十分過ぎる程の合格点という意味に捉えていいんだな?」

「まあ、そこはお前の判断に任せる」

「・・・分かった。じゃあ早く食って道場へ行け!」

「はいはい、でもまだ早いぞ」

「・・・兄貴がいると落ち着いてアニメが見れないから、いない方がいい」

「じゃあ、食べたら自分の部屋にいるから」

「・・・皿はこっちで洗うからキッチンに戻しておくだけでいい」

「分かった」

 やれやれ、素直じゃあないなあ。まあ、仕方ないかあ、微妙なお年頃と良い方向に解釈しておこう。

 俺は緑が作った炒飯と餃子を食べ終わると「ごちそうさまー」って言ってから立ち上がった。食べ終えた皿とコップはテーブルからキッチンの流し台に戻しておいたけど、戻すフリをしながら緑の様子をチラッと観察したらニコニコしていた。俺は食べてる間に緑の方を何度か見てたけど、緑の方も俺が自分を見ているって分かっていたのかムスッという表情を崩してなかったというのに、食べ終わった後の表情は全く別人だぞ、ったくー。

 俺は青葉との約束通り4時少し前に道場へ行くつもりで部屋を出たが、途中キッチンを見たけど皿は丁寧に洗ってあった。その時には緑は、というよりリビングもキッチンも誰もいなくて無人だった。

 どう見ても緑は俺が食べた皿を洗ってから出掛けたとしか思えない。恐らく、はずだ。律儀な奴ではあるけど素直じゃあないなあ。まあ、この辺りも微妙なお年頃と良い方向に解釈しておこう

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