第10話 大成、たい焼きを持ち帰る事になる

 青葉あおばはここが家だから帰る必要はないし、俺はおばさんに「ちょっと待っててね」と言われたから恵比島えびしま先輩たちが帰った後も店に残っていた。

「おばさーん、何かあるのー?」

「あ、忘れてた・・・ちょっと待っててね」

 そう言うと、おばさんは再び店の奥に姿を消した。だから店に残っているのは俺と青葉だけになった。

「・・・たいせー、今日は何時に行くのー?」

「うーん、午後4時頃でいいか?」

「私は構わないよ」

「じゃあ、後でそっちへ行く」

「りょーかいであります!」

「さすがにジイが今日は来いって言ってるみたいだぞ」

「あー、春休みになってからは1回しか行ってなかったからねー」

「誰かさんが行かせてくれなかったからだぞ」

「まあ、あれは子供が熱を出して沼ノ端ぬまのはたさんが休んだとか、法事が入って黒松内くろまつないさんが帰ってしまったとかで、パートさんがいなくなっちゃったから大成たいせいにやってもらったんだから、私のせいではないわよ」

「本来、俺はバイト禁止だぞ!」

「まあまあ、あれはバイトじゃあなくてお手伝いでしょ?」

「・・・だから半分か?」

「半分とは失礼です!バイト扱いにすると校則違反になるから、お小遣いを渡しただけです!」

「しかも、俺のバイト代の半分を毎回毎回全部郵便局で貯金してるだろ?何に使う気だ?」

「あ、あれは全部私の嫁入り資金の足しにする為よ!」

「お前さあ、自分の結婚資金に俺のバイト代を使う気か?」

「大成はバイト禁止です!それにこれはお母さんとおばさんの間で決めた事です!」

「勘弁してくれよお。俺のバイト代でウェディングドレスでも買う気かあ!?」

「そうだよー」

「だー!勘弁してくれえ」

「まあまあ、結婚式には招待してあげるからさあ」

「はー・・・」

「私なんか店番をやっても、たい焼きを焼いても小遣いが増える訳じゃあないのよ!大成は小遣いがもらえるだけありがたいと思いなさい!」

「はいはい、わかりました」

「これからも『めでたい焼き』をよろしくね。まあ、私だって大成に任せっきりじゃあないわよ。ちゃんと手伝ってるでしょ?」

「どこがだ!さっき恵比島先輩たちに渡した冷凍たい焼きだって、お前が大量に作った失敗作だよな」

「うっ・・・違うわよ!あれは私や大成のおやつ用としてわざと作ったのよ!!そのおかげでBOUQUETブーケの美容師さんたちも喜んでるんだよね」

「はーーー・・・お前、自分の行動を正当化するのが上手くなったな」

「正当化とは語弊があります。生徒会長に向かって失礼です!」

「・・・これを全校生徒が知ったら嘆くぞ、ったくー」

「まあまあ、そこは私と大成だけの秘密という事で。ね、ね、いいでしょ?」

「『私と大成だけの秘密』ねえ・・・俺はお前の下僕か?」

「私は大成を下僕にした事は一度もないわよー。そんな非人道的な事をする生徒会長はどの学校にもいません!」

「はいはい、まさに全校生徒の鏡、清風山せいふうざん高校の象徴ともいうべき存在ですね」

「その生徒会長の下で、学校の中でも学校の外でも働ける事を感謝しなさい」

「はいはい」

「はいはーい。お二人さん、きょうだいのお話はそのくらいでお終いね」

 いつの間にかおばさんが俺たちの背後に立っていてニコニコしながら俺たちを交互に見ている。しかも手には大きなタッパーを持っている。

「大成くーん、悪いんだけど、これを奈井江ないえちゃんに渡してね」

「あー、はい、母さんに渡しておきますよ」

「頼んだわよー」

「これって、冷凍たい焼きですよね」

「そうよー。奈井江ちゃんから頼まれた奴ね。お金は別にいいから」

「それじゃあ悪いですよ、俺が立て替えておきますから」

「あー、そんな事されたらこっちが逆に貰い過ぎよー。昨日、奈井江ちゃんにタダで髪をセットしてもらってるからさあ」

「うわっ、言われてみれば少しおばさんのヘアースタイルが変わってる。俺、全然気付かなかった」

「あらー、大成君も女の子のちょっとした変化に気付いてあげないと駄目だよー」

「そうだよ。お母さんの言う通りよ」

「じゃあ、大成くんに質問でーす。青葉はいつ髪を切ってもらったのか知ってる?」

「4日前だ」

「せいかーい。さすがに妹の事はチェックしてるのねー。関心関心」

「おかあさーん、私は大成の妹じゃあないよー」

「まあ、それは冗談だから。それより、さすが大成君は青葉のチェックを毎日怠ってないみたいね。さすがは青葉の保護者!」

「あー、それは違う。かえでの練習台になっていたから知ってただけだ」

「うっそー、楓ちゃんがやったの?奈井江ちゃんか茅沼かやぬまさんがやったと思ってた。青葉、それってホント?」

「そうだよー。大成が言ってる事は本当だよ」

「あいつ、カリスマどころか神になれるかもしれないぞ」

「へえ、さすが奈井江ちゃんの娘ね。それに引き換え・・・」

「さあさあ、たいせいー、早くご飯たべてきてね。なんならウチで食べていく?」

「あおばー、うまくおばさんの話を遮ったな」

「さあて、何の事ですか?」

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