第9話 大成、生徒会メンバーと一緒にめでたい焼きの店に入る
俺たちは店の横開きのドアを開けた。風除室になっている外側のドアを開けた途端、たい焼きのいい匂いが辺りに漂っていた。間違いなくたい焼きを焼いている匂いだ。これだけでお腹がいっぱいになりそうな気分だ。
青葉が先頭に立ってもう一つのドアを静かに開けた。
「いらっしゃーい、って
今日の『めでたい焼き』の店番は
「うん、生徒会の執行部のメンバーだよ」
「あらー、いつも娘がお世話になっています」
「あー、いえ、お世話になっているのはおれたちの方です。こちらこそよろしくお願い致します。自分は副会長の
あれー、珍しく恵比島先輩が超がつく程の丁寧なあいさつをしたぞ。いつもは
恵比島先輩たちは今から食べる分としてたい焼きを注文したけど、
「ところでお母さーん、折角だからみんなにサービスしてあげたいんだけど、何かある?」
「そうねえ、ちょっと待っててよ」
おばさんはそう言うと一度お店の奥に行った。
残された俺たちは店の中で待ちぼうけをくらった感じになったけど、折角おばさんがサービスしてくれるというんだから、待つ事にした。
カウンター席とでもいうべきイートインのスペースには広内金先輩、恵比島先輩、
「ところで会長、今月の限定味って何ですか?」
「あー、それは『よもぎ
「へえ、春らしい限定味ですね」
「たしかにね。東京はもう桜が散ってるみたいだけど、時期的には4月は『さくら餡』なんでしょうね。でも、こっちはまだ開花どころか蕾も出てないから時期尚早かしら?」
「限定味は毎年同じ物になるんですかあ?」
「うーん、正直に言うと決まってないのよねえ。定番になっている春の『さくら餡』だって、4月の時もあれば5月の時もあるよ。秋の『かぼちゃ餡』だって、ハロウィンに合わせて10月の時もあれば11月の時もあるからね」
「ところで、変わった限定味を出した事はあるの?」
「そうねえ、去年の9月に
「あー、さすがのわたしも聞かないでおきまーす」
「そう言えばボクの母は限定味しか買わないけど、たまに行って自分の気に入った限定味でないとがっかりして何も買わずに帰るけど、お気に入りの味の時は30個くらい買って冷凍庫で凍らせておくんだよね」
「冷凍たい焼きは軽くレンジで温めた後にトースターで焼けば、中はフンワリ、外はカリカリになって出来立てみたいな感覚で食べられるわよ」
「だけど祖父と祖母は『粒あん』しか食べないから、母は『他人が食べるたい焼きを買うためだけに足を運んだ』ってボヤくんだよねー」
「たしかにそうなるわよね。因みにわたしのうちはお爺ちゃんは『粒あん』オンリーだけど、それ以外の人は『カスタード』しか食べないからねえ」
「
「だー!お願いだから『キラキラちゃん』は勘弁してよお」
丁度その時、おばさんが店に戻ってきたけど、その手には紙袋を4つ持っていた。
「あのー、いわゆるたい焼きの失敗作なのよねえ。餡が飛び出していたりとか、焦げ目が強すぎたとか、まあ、そんな感じで商品として出せないから冷凍たい焼きにして自家消費している物だけど、こんな物でよければ差し上げますので」
「とんでもないです!こんな物を頂いてもいいんですか?」
「構いませんよ。たい焼きの餡の種類は指定できませんけど、どの袋にも4つ入ってます。まあ、自家消費と言っても全部うちだけで食べ切れないので、一部はお隣の
「それじゃあ、お言葉に甘えてさせて頂きます」
恵比島先輩たちはそれぞれ1袋ずつたい焼きを受け取ると「また明日、学校で会おう」と言って店を後にした。ただ、恵比島先輩が「虎杖浜はたい焼きを一人で全部食べるなよ」と念押しをしてたけどね。
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