第8話 大成、自分の家が美容室だと語る

 結局、俺たち生徒会メンバーが生徒会室を後にしたのは午後1時過ぎだった。

 講堂の飾りつけや椅子並べ、さらには昇降口前廊下へ机や椅子を並べたり配布物の用意、新1年生の各クラスの机にプリントや冊子を乗せる作業などをして、それが終わった後に新入生歓迎オリエンテーション用の案内の手直しなどやって、色々手分けして頑張ったけどこの時間まで掛かってしまったという訳だ。

「はー、さすがに疲れましたね」

「体力が有り余っている駒里こまさとクンが疲れたなら、恵比島えびしまクンや虎杖浜こじょうはまクンは疲労困憊じゃあないのかあ?」

「ああ、広内金ひろうちがねの指摘通りだぞ。おれはこの場で横になりたいくらいだ」

「僕も同じですよお」

「あのー、いくらなんでもここで寝てたら風邪をひきますよ」

「まあ、さっきのは冗談だ。虎杖浜、帰るぞ」

「あー、ちょっと待ってよー。お腹が減って死にそうだよ」

「ったくー、お前は喰う事と寝る事しかやる事がないのか?」

「それは言い過ぎだよお」

「わーかった。とにかく行くぞ」

「はいはい。仕方ないから途中のサコマで何か買って・・・」

「「「「「だからリバウンドするんです!」」」」」

「うわっ!全員でハモらないでくださいよお」

「まあ、折角だからうちの店のたい焼きでも食べる?何かサービスしてあげるよ」

「「「「えー!会長が『めでたい焼き』のたい焼きをサービスしてくれるんですかあ!?」」」」

「いいわよー」

「ぜーったいにわたしは行きます!」

「じゃあ、おれも寄り道していく事にするよ」

「ボクも行く」

「じゃあ、僕も」

「虎杖浜先輩は控えめにして下さいね」

「分かってますよ。お店で食べるのは1個だけにしておきますから大丈夫ですよ。あー、でも折角だからテイクアウトして今夜にでも・・・」

「「「「「だからリバウンドするんです!」」」」」

「うわっ!また全員でハモらないでくださいよお」


 めでたい焼き・・・元々この店は青葉あおばの母さんの父さん、つまり青葉の爺ちゃんである串内くしない天幕てんまく爺ちゃんが今から30年以上も前に脱サラして始めた個人経営の小さなたい焼き屋さんだ。今でも昔と変わらない製法で作り続けていて、北海道十勝とかち産小麦100%使用の生地が謳い文句のたい焼きは今ではネット販売も手掛けているほどで、楽園市場のネット通販でもかなり上位にランクされる程の人気商品にもなっている。

 この店のたい焼きの種類は基本的に4つだ。創業以来変わらない北海道十勝産小豆あずき100%と同じく北海道十勝産甜菜てんさい(ビート)100%使用の砂糖を使って作られた粒あんが入っている『粒あん』は、頭の先から尻尾の先まで粒あんが入っている事で物凄く評判が高く、今でも一番人気だ。二番人気は日本一の生乳の産地である北海道・別海べつかい町産牛乳を使って作られたクリームチーズを使った『チーズ』だ。三番人気は、これまた北海道十勝産小麦と同じく北海道十勝産甜菜(ビート)使用の砂糖と、北海道産の卵と牛乳を使って作られたカスタードクリームを使った『カスタード』だ。この3つは創業以来変わらぬレシピで作られている。これに加えて、今から15年前から月替わりの『限定味』を出している。この限定味は、例えばチョコであったり、カボチャあんや抹茶、ブルーベリーであったりその月によって餡が変わるのだ。中には限定味を楽しみにしていて毎月1日に必ず店に来るという常連さんもいるほどだ。でも、残念ながら限定味はネット販売しておらず、お店でしか買えない。

『カスタード』も『チーズ』も95%以上北海道産原材料使用なのだが、残念ながら餡の一部原材料が北海道産ではないので、100%北海道産と名乗れないが悔しい。だけど、『粒あん』だけは正真正銘100%北海道産、しかも十勝産100%なので、それが一番人気の理由ではないかと思っている。

 ネット通販を始めたのは今から6年前。でも、たい焼きをそのまま発送できないから冷凍した物しかネットでは販売していないが、たい焼きの殆どの原材料で北海道産の物を使っていて、それでいて頭の先から尻尾の先まで餡がギッシリ詰まっているので、他の大手のたい焼きに混じって毎月のように人気ランキングのベスト5に名を連ねる程だ。だから製造が追いつかず、今から4年前に元々の『めでたい焼き』の店舗兼住宅の横の更地を買い取って、そこに1階が店舗兼工房、2階が住宅の新『めでたい焼き』をオープンさせた。でも、店でたい焼きを焼く道具は昔のものをそのまま使っているし、通販用の冷凍たい焼きのレシピも店で作っているたい焼きと同じ物を使っている。

 昔と変わったのは、以前の店にはイートインできるスペースが全然なかったのだが、今は小さなカウンター席のような物が4席あり、また、商品待ちのスペースが以前よりも広くなって、ここで立ち食いする事が可能になった事だ。それ以外は基本的に創業時とほとんど変わっていない。

 そんな話を青葉が恵比島先輩たちに話しながら歩いていたが、やがて店の前に近づいて行った。

「あれ?『めでたい焼き』の隣にある美容室は『ヘアーサロン BOUQUETブーケ』だよねえ。わたしは知ってるわよ」

「あれ?美利河ぴりかさんは常連なんですか?」

「ん?わたしじゃあないわよ。わたしのお母さん。わたしは小学生の頃からの馴染みの店から変えてないけど、お母さんは2年くらい前からBOUQUETに行くようになったのねー。ここにはお母さんのお気に入りの美容師さんがいるんだけど、ママ友の間でも結構知られていて、お母さんもママ友に勧められてBOUQUETに変えたって言ってたし、他にもこの店に変える人が増えているんだって言ってたよ」

「あー、それって手宮てみやさんの事?それとも茅沼かやぬまさんの方?」

「うーん、名前を言われても困るんだけど、とにかくイケメンの男の人で、結構指名する人が多いみたいですよー」

「あー、じゃあ手宮さんですね。茅沼さんは女性ですけど、この二人は結構この業界では有名な人ですから」

「ふーん、手宮さんって言うんだ。その人の名前を知ってるって事は駒里君も常連なの?」

「知ってるも何も、二人共うちの店の主任さんだぞ」

「えーー!!駒里君、『うちの店』って事は、『BOUQUET』の社長の息子だったのー!?」

「違う違う、息子じゃあなくて孫だよ」

「マジい!?華苗穂かなほ先輩たちは知ってたんですか?」

「あれえ?赤井川あかいがわクンには言った事がなかったかなあ?ボクは知ってたぞ」

「僕も知ってたよー」

「おれも知ってた。というより、かなり有名な話だぞ」

「ちょっと待って下さい!という事は、会長は『めでたい焼き』の創業者の孫娘、大成たいせい君はBOUQUETの社長の孫・・・じゃあ、隣同士だったんですかあ!?」

「「そうだよー」」

「うわっ、わたし、本当に知らなかった。幼馴染っていう話は何度か聞いた事があったけど、家が隣同士だとは全然知らなかった・・・」

「まあ、知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らないからね」

「という事は、小学校も中学校も同じですよね」

「そうだぞ」

「じゃあ、小学校や中学校でも同じクラスになった事があるんですか?」

「うーん、大成と同じクラスになったのは・・・というより、一緒のクラスでなかったのが、小学校3年生と4年生だけかな。小学校に入ってからは殆ど同じクラスと言っても過言じゃあないわよ」

「あおばー、幼稚園の3年間も同じクラスだぞー」

「あー、言われてみればそうだったわ。忘れてたあ」

「ついでに言えば、俺の出席番号はいっつも青葉の後ろだからな」

「あー、それもそうだったわね」

「それじゃあ、会長と大成君は、幼馴染どころか、それ以上の関係ですかあ!?」

「キラキラちゃーん、大成とは昔も今も全然変わらないよー」

「かいちょー、こんな時までキラキラちゃんは勘弁してくださいよお・・・」

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