第5話 大成、生徒会メンバーの苦労を聞く

「おっはようございまーす!」

 青葉あおばが勢いよく生徒会室のドアを開けて威勢のいい声を上げた。

「おー、会長と駒里こまさとかあ。相変わらず元気だけはいいな」

「あー、恵比島えびしま先輩に虎杖浜こじょうはま先輩、おはようございます」

「まあ、お堅いあいさつは抜きにして座りましょう」

 俺と青葉が生徒会室の扉を開けた時、ここには2人の男子がいた。

 一人は生徒会副会長の恵比島八雲やくも先輩、もう一人は会計の虎杖浜勇知ゆうち先輩だ。

「恵比島先輩たちはいつ来たんですか?」

「来たのは僕が先ですよー。10分くらい前に来てたけど購買の自販機でジュース買って戻ってくるまでの間に恵比島君が来てましたー」

「そういう事だ。しっかし虎杖浜!お前は呑気でいいよなあ」

「そんな事ないですよー。僕だって苦労してるんですよー」

「どこがだ!おれを見ろ!副会長に正式に就任したのが今年の1月だけど、その時には体重が59キロあったのに今朝体重計に乗ったら54キロになってたんだぞ!」

 恵比島先輩はそう言うと制服のブレザーを捲り上げたが、たしかにズボンを無理矢理ベルトで縛り上げて履いているのが分かる。もう1サイズ細い物に変えてもいいくらいだ。

「あれ?そんなに痩せたの?もしかして恵比島先輩はダイエットしたんですかあ?」

「会長、それはないでしょ?」

「でもさすがに痩せすぎじゃあないですか?」

「駒里もそう思うか?」

「そりゃあそうですよ。だって恵比島先輩の身長は185センチでしたよね。これで54キロなんだから、えーと、スマホの電卓機能を使ってBMIを・・・はあ?15.8ですよ!」

「だろ?」

「あー、恵比島先輩はやっぱりダイエット好きなんですね」

「だーかーら、それは誤解ですよー。その理由は会長が一番ご存知の筈ですよ」

「????? (・・? 」

「はー・・・僕は恵比島君が羨ましいですよー。僕なんか去年の年末は108キロでしたけど、今は123キロですからねえ」

「はあ?虎杖浜、お前、そんなに体重があったのかあ!?」

「そうですよー」

「ちょ、ちょっと待って下さい。たしか虎杖浜先輩は177センチだから123キロという事はBMIにすると・・・マジかよ!?39.3ですよ」

「ここだけの話だけど・・・僕は入学した時には138キロでしたから2年間で頑張って30キロ落としたのに、たった3か月で半分リバウンドですよー」

「虎杖浜先輩、もしかして校内ナンバー1返り咲きですかあ!?」

「はー・・・体重が108キロになった事で柔道部の部長で110キロの目名めな君に校内一の座を譲ったけど、あっさり返り咲いちゃいました・・・」

「虎杖浜!お前さあ、間食しすぎじゃあないのか?『おいしい棒』の食べ歩きを控えたらどうだ?いくら10円とはいえ、1日に5本も10本も食べてたら太るぞ!」

「それはもうやめましたよー。さすがに今は1日2本と決めてますからー」

「せめて1本にしろ!!ところで何でリバウンドしたんだ?おれはお前が羨ましいぞ、ぬるま湯に浸かっている証拠だ」

「僕だって苦労してるんだからさあ、恵比島君だけが苦労してるわけじゃあないですー。それに好きでリバウンドしたんじゃあないんですからー」

「えー、なになに、リバウンドがどうしたのー?」

 その声に俺たちは後ろを振り向いた。いつの間にかもう1人の生徒会役員の女の子が生徒会室に入ってきていたのだ。

 その女の子が空いている椅子に座ると青葉が

「あー、キラキラちゃん、おはよー」

「ちょ、ちょっと会長!『キラキラちゃん』は勘弁してくださいって、いっつも言ってるのに2年生になっても言ってるって事は全然成長してないって事じゃあないですかあ!!ぷんぷーん!!!」

「まあまあ、折角の可愛い顔が台無しですよー」

「えっ?か、かわいい?ま、まあ、そう会長が言うならさっきの話は聞かなった事にしておきますけど、『キラキラちゃん』はもう言わないでくださいね」

「分かってるわよ、キラキラちゃん!」

「だー!全然わかってなーい!!」

 そう、この子は俺たちと同じ2年生の赤井川あかいがわ美利河ぴりかさんだ。美利河ぴりかとは「可愛い」とか「綺麗」とかの意味があるようだが、普通の人から見たらキラキラネーム以外の何物でもないから、青葉からは『キラキラちゃん』と呼ばれているのだ。

「ところで、恵比島先輩たちはわたしが来る前に何を話してたんですか?」

「あー、さっきの話だけど、おれは生徒会役員になってから体重が5キロ落ちたって話をしてたら、虎杖浜の奴は逆に15キロもリバウンドしたって言ってたから、ちょーっと驚いてたのさ」

「まあ、たしかに恵比島先輩は以前にも増して頬の肉が落ちたなあって思ってましたからね。以前からヒョロヒョロっていう感じでしたから、これじゃあ突風が吹いたら一緒に持っていかれるんじゃあないかって思うくらいにガリガリですよね。でも、虎杖浜先輩は生徒会役員になるまで知らなかったから昔の話をされても全然分からないですけど、先輩の体型だったら見ただけではリバウンドしたかどうか全然分からないですよ」

「赤井川さーん、あんまり悲しい事を言わないでくださいよー。僕、本気で悲しくなっちゃいますよお」

「まあ、わたしも正直に言いますけど結構苦労してますよー」

「どんなふうにですか?僕にも分かるように教えて下さいよお」

「だってー、わたしだって生徒会役員になってからブラジャーのサイズを1つ上げたんだからさあ。さすがに制服がキツクなってきたから困ってるのよ」

 でも、いきなり生徒会室のドアがここで『バターン!』と乱暴に開けられた。

「ちょーっと待ったあ!今、聞き捨てならぬ事をボクの目の前で言ったな!それは風紀委員長として見過ごす事は出来ない!!さっそく委員長権限で取り締まらせてもらうぞ!!!」

 いつの間にか生徒会室の入り口に一人の女子が立っていたが、明らかに目が血走っている。マジで殺気立っているとしか思えないぞ!

「まずい!駒里、虎杖浜!広内金ひろうちがねを止めろ!!」

「「分かってますよ!!」」

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