第3話 大成、青葉と並んで家を出る
結局、俺は
青葉は俺が作った挨拶文を眺めた後に少しだけいじって印刷し、これを学校へ持って行く事になった。まあ、正しくはこの挨拶文を生徒会顧問の先生に提出して確認を取る事になるのだが、卒業式の時もそうだったが百パーセントこの文章で挨拶する事になるのは間違いない。俺は完全なゴーストライター、いや、生徒会長の秘書以外の何者でもないぞ、ったくー。
「おーい、着替えてからメシ食べるのか?」
「面倒だからこのまま食べる。着替えるのは食べ終わってから」
「分かった。じゃあ行くぞ」
「たいせー、あんた、ご飯は食べたの?」
「もう食べたぞ」
「えー、どうしてー。折角起こしてくれたんだから一緒に食べればいいのにー」
「却下。それをやるとお前の事だから『たいせー、パン焼いてー』とか『たいせー、牛乳持ってきてー』とか言われて俺が食べる時間が無くなる」
「そ、そんな事はありません。それは小学校か中学校の時の話です」
「それに俺は朝は銀シャリと決めている。朝からパンは俺の性に合わん」
「じゃあ、明日はお母さんに頼んで朝食はご飯とみそ汁にしてもらう。ね、ね」
「却下。青葉さあ、お前、ほとんど毎週のように言ってるけど、ほぼ百パーセントの確率でパンだよなあ」
「えー、でもさあ、私のせいじゃあないわよ。お母さんが忘れてただけで、お母さんがちゃんと謝ってたでしょ?」
「まあ、たしかにいっつもおばさんが忘れてたのは認めるけど。ホントに大丈夫かよ?」
「大丈夫大丈夫。私を信じなさーい!」
「はー・・・母さんに聞いてみる」
「期待してるわよー」
「・・・・・」
どうせ母さんに言えば諸手を上げて賛成するだろうし、黙っていても青葉がおばさんに話をすれば母さんに筒抜けになるから「たいせー、朝ご飯は用意してないからねー」と言われるのがオチだ。しかも、そう言われた時に限ってパン食だからな。俺をパン食に変えたくて三人掛かりで仕組んだ罠としか思えないぞ。
「「行ってきまーす」」
俺たちは並んで青葉の家を出た。
別に俺たちは並んで歩いて登校していても、ペチャクチャお喋りしながら歩いている訳ではない。かと言って肩を寄せ合って歩いているような事もしない。普通に並んで、普通に歩いているだけだ。まあ、たまに喋る事もあるけど、お互い、ほとんど空気のような存在なのかもしれない。幼稚園の頃からの光景だから、それが当たり前になってしまったのかもしれない。
でも、周りはそう思ってないのだと思う・・・俺はこの関係を変えたいと思っているのか?それともこのままの関係を続けるべきなのか?俺自身に聞いても答えがある訳ではない。それに青葉はどう思っているのだろう・・・。
そんな俺の声が聞こえたかのように青葉がこちらを見てニコッとしたが、それ以上の事はしなかった。俺は青葉と目が合った瞬間『ドキッ』としたが、それを表情に出す訳にはいかなかった。
俺は青葉の本心を聞くべきだったのだろうか、それとも聞かなくて正解だったのだろうか・・・。
そんな葛藤を他所に、雪解けが進んだ春の道を並んで学校へ向かっていく俺と青葉であった。
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