第2話 大成、朝から目一杯疲れる

 俺はそう思って青葉あおばのベッドの脇に置いてある目覚まし時計を手に取った。

 この目覚まし時計は去年、コップヌードル販売開始50周年の景品で当たった目覚まし時計だ。これを当てる為に俺の家も、青葉の家も家族総出でコップヌードルを食べまくって頑張ってたけど、結局当てたのは青葉だけ。全国でもたった100人にしか当たらなかった、まさに超がつく程のプレミア目覚まし時計だ。ネット上では「50万円で買い取ります」とか「言い値で買い取ります」などという文字が溢れているマニア垂涎の代物で、俺が普段使っている青葉からのプレゼントの目覚まし時計から見たら超の文字が3つも4つも付くレア物以外でも何でもない、まさに宝物というべき目覚まし時計だ。

 でもなあ、いくら何でも鳴らないのはおかしい、この時計は電波時計だから時間が狂う事は有り得ないし・・・はあ!マジかよ!?になってる!青葉の奴、今日が何の日が分かってるのかあ?春休み気分のままなのか?


 やっぱり青葉を起こしてガツンと言うしかなーい!仕方ないから俺は青葉を何が何でも起こす事にした。

「おーい、青葉、朝だぞー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「おーい、あーおーばーさーん、あーさーでーすーよー」

「・・・・・(-_-)zzz」

「青葉!起きろー!!」

「・・・・・(-_-)zzz」

 駄目だこりゃあ、全然起きる気配がない。まあ、この程度で起きるなら俺ものだが・・・

 仕方ない、起きない奴が悪い!ちょっと荒業になるけど・・・起こす事にするかな。

 俺はクマちゃん人形を抱えている青葉の右の脇の下に手を伸ばした。

「アーハハハハ、ヤ、ヤメテー!」

「どうだ!起きるのか?それともまだ寝てるのか?どっちだ?」

「起きる!起きるからお願いだからヤメテー!」

「じゃあ起きろ!」

 そう言うと俺は青葉の右の脇の下から手を引っ込めた。青葉は笑死にするんじゃあないかってくらいに笑ってたから目から涙が出てるくらいだけど、ようやく上半身だけをベッドから起こしてベッド脇に丸めてあったセーターを上に羽織った。

「たいせー、朝からコチョコチョ攻撃は酷いわよお、ぷんぷーん!」

「そーんな事を言われたって、俺が部屋に入ってきたのにも気付かないで爆睡している奴が悪い」

「だったら、もう少し優しい起こし方って物があるでしょ?」

「優しい起こし方?」

「例えばさー、耳元で優しく『お嬢さん、朝になりましたよ』とささやくとか、軽く肩を揺すって起こすとかさあ」

「却下。お前は耳元で囁いた程度では起きない。肩を揺すっても寝返りするだけだ」

「えー、嘘でしょ?」

「お前さあ、このやり取り、何回目だ?十回どころか、百回でも少ないよな、何百回もこのやり取りをやっていて、まだ学習できないのか?昔のRPGのゲームのAIじゃあないんだから、すこしは学習してくれよお」

「それは言い過ぎよ!学年トップを独走する才女を相手にしてそのセリフはないでしょ?撤回して欲しいわ」

「その学年トップの才女にして昨年末の生徒会長選挙で信任率99.88%の史上最高の信任率で史上四人目の1年生の生徒会長、史上初の1年生女子の生徒会長になった串内くしない青葉さんともあろう人が、今日持って行くはずの在校生代表挨拶の原稿も作ってないんだからさあ。どうするつもりでいたんだ?」

「そ、それは・・・在校生代表の挨拶をするのは生徒会長の役割ですが、挨拶文を作るのは会長の仕事ではありません!生徒会書記の仕事です!!」

「俺はそんな話は聞いてないぞー」

「私がルールブックです!」

「勘弁してくれよお。そのを使われたら俺は何と言えばいいんだ?」

「だーかーら、生徒会書記の仕事です!」

「はいはい、分かりましたよ、ったくー」

「まあ、わたしがで生徒会に持ち込まれた校内の諸問題を全部解決してあげたんだし、それに新聞部のアンケートでも『不満がある』『やや不満がある』の人は0%で、『満足』『ほぼ満足』が100%なんだから、大成たいせいも私を見習いなさい」

「新聞部のアンケートは抽出だからな。全校生徒にアンケートを取ったら100%にならないぞ」

「あれえ?何か大成の言い回しが物凄く気になるんだけどお」

「当たり前だ。信任率99.88%、就任以来二度の新聞部アンケートで2回連続不支持率0パーセントを記録した生徒会長ともあろう人が、目覚まし時計で起きれず俺が起こしてやらないと毎日遅刻確定だって知ったら全校生徒が興醒めするぞ」

「まあ、それはこっちに置いといて」

「勝手に動かすな!」

「別にいいでしょ!」

「はーーーー・・・」

「それにさあ、99.88%の信任率って事は、計算したら1票だけ不信任があったって事になるけど、だいたい、私のどこに不信任になる要素があるの?その人物は堂々と名乗り出て私に不信任の理由を言って欲しいわ」

「あおばー、これだけの信任率があった中で『不信任のところに〇をつけたのは自分であります』と堂々と名乗り出る馬鹿がどこにいると思う?仮に俺が不信任に〇をつけた奴だったとしても絶対に名乗り出ないぞ。下手をしたら青葉の親衛隊を自認している連中から何をされるか分からないからな」

「それもそうよね、自分から言う人がいるとは思えないわよね。大成のツッコミも的を得ているわ」

「・・・・・」

 スマン、青葉・・・俺は本当は。だけど誰が投票したのかは口が裂けても言えないんだ・・・のと理由は同じだ。

「それより清風山せいふうざん高校生徒会長として大成たいせいに質問です。ちゃんと作ってあるんでしょ?」

「そ、それは・・・ある」

「さっすがー!頼りになるわねえ。早速見せて」

「じゃあ、パソコン立ち上げてもいいか?」

「いいわよー」

 はーーーー・・・こうなるとは思っていたけど、朝から目一杯疲れたぞ。

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