○○箱のいいところ4 『色々な種類がある』
「ほら太郎! 誕生日プレゼントだ!」
「えっ? ほんとー? ありがとうお父さん!」
あれは小学二年生の頃だったか……
「ほら、早速開けてみろ」
「うん! ………………これ何?」
父親が俺に渡したのは、真っ白な円筒形に青の水玉模様がついた、蓋もついていないシンプルなゴミ箱だった。
「誕生日プレゼントだ!」
「…………うん! だからこれ何?」
「お、お前……父さんにそんな目はやめなさい」
子どもながらにあれを初めて見た時の気持ちを忘れない。その時の俺が欲しがっていたのはゲーム機であり、ましてやゴミ箱など間違っても誕生日プレゼントの候補には挙げていなかった……
「……で、これ何?」
「それ、何回言うの!? 分かった、分かったから父さんの話を聞いて! あと、その目を止めて!」
詳しくは覚えてないが、別に睨んでたとかそういう訳じゃない。ただ期待を裏切られた俺は、憂いを帯びた目をしてたんだと思う……
「このゴミ箱は、ただのゴミ箱じゃない」
「えっ、本当に!? もしかして変形したり?」
ペタペタとゴミ箱を触って見るが、そんな感じはしない。
「いや、そんな機能はない! ……だから、その目止めて! お願いだから最後まで話を聞いて!」
「分かったから、さっさと話せよ」
「口調が荒い! 何? もう反抗期来ちゃったの!?」
俺の豹変に驚く父だが、一つ咳払いをしてから話を始めた……
「これから、お前が生きていく上で色んな事に向き合う事になると思う。それは勉強の事か、友達の事か、はたまた恋人や、進路、夢の事かも知れん」
人が生まれてから歩む道――それこそ人生だ。誰もが色々な事と向き合う……
「その中で取捨選択して、何かを選ぶ時も沢山あるだろう……このゴミ箱は、その時お前が選ばなかった方が入るゴミ箱だ!」
「でも、選ばなかったんだよね?」
「そうだ! でも選ばなかったからといって、お前にとって必要のないものとは限らない!」
「どういう事?」
「どうしてもどちらかを選ばなくちゃ行けない時や、辛くてやめてしまった事、いつの間にかやらなくなった事、他にも沢山! ハッキリ選ぶ事もあれば、無意識に選んでる事もある」
そして父はゴミ箱を持って、こう続けた……
「選んだ方だけじゃない、選ばなかった方も、お前にとっての糧なんだ! 色々な理由があって選ばなかった……そこから学べる事もある!」
この話は父が亡くなった今でもたまに思い出す。そして最後にこう締めるのだ……
「だから、このゴミ箱と一緒に過ごせ太郎! お前が捨てた物はこいつが絶対に拾ってくれる。そしてそれはお前が迷った時、いつか助けになってくれるはずだ!」
子どもながらにその時は感心していた。貰ったゴミ箱は一生大事にしよう! なんて思ってたっけ……
(まぁ、実はただギャンブルで使っちゃって、ゲームを買うお金がなかったから、ゴミ箱で何とか誤魔化そうとしてたんだよな……)
我が父ながら情けない話だが、少なからず今でもあの言葉は心に残っている。
「俺が迷った時は……ねぇ?」
「……なんですか?」
「いや、何でも」
学校の図書室の椅子に座りながら、隣にいる彼女を見る。まさか、あのゴミ箱がこうなるとは……
時刻は昼をまわっていたが、アイデア出しを区切りのいい所までやりたくて、飯も食べずに進めていた。
その間何をするでもなく、彼女は俺を待っていた。
(あぁー! ダメだ、ダメだ! 集中しないと!)
主人公は名門サッカー部のエースだったが、足を骨折、そこから弓道部に……違う、違う!
メモを書いた紙を丸め、家と同じように捨てる。投げたゴミは隣の彼女がキャッチして口に放り込んでいる。
宇宙からやってきた侵略者。凄まじい技術力を持つ彼らだったが、体は昆虫サイズだった……これもダメだ!
メモを書いた紙を丸め、家と同じようにまた捨てる。投げたゴミは隣のツインテールの彼女がキャッチして口に放り込んでいる。
道を歩くイケメンに一目惚れした女子高生。恋をした男子は実は女子だった……これでもない!
メモを書いた紙を丸め、家と同じようにまたまた捨てる。投げたゴミは隣のポニーテールの彼女がキャッチして口に放り込んでいる。
神の力を手に入れた少年が、欲にまみれた大人達を懲らしめる……何だこれは!
メモを書いた紙を丸め、家と同じようにまたまたまた捨てる。投げたゴミは隣のモヒカンの彼女がキャッチして口に放り込んでいる。
「さっきからどうしたの!!」
「…………?」
「いや、逆に何で不思議そうな顔してるんだよ! 髪型だよ、髪型!」
「……イメチェン?」
「何で、疑問系なんだよ!」
「……気付いたら」
「勝手になってたの!? 何があったらこんな短い間にそんなころころ髪型変わるの!」
アイデアを書いて捨てて、どれも一分くらいしか経ってなかった気がするが?
「……何となく」
「何となくでモヒカンは攻めすぎだろ!!」
綺麗な白い髪を、見事にトサカみたいにしながらこちらを見てくる彼女。
「……ゴミ箱って色々種類あるし……」
「それ選ぶ前に検討する奴だよね? しかもそれ髪型とは関係なくね?」
「……じゃあ、やっぱりイメチェン?」
「だから、何で疑問系なの!?」
悪気は無いみたいだが、この子といると余計に集中出来ない!
学校でのアイデア出しは諦め一旦家に帰る事にしたのだった。
「これは」
学校から帰宅した俺を待っていたのは、ずっと心待ちにしていたアレだった……
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