○○箱のいいところ2 『生でも大丈夫』
結局母さんにはまともな説明が出来なかった――当たり前だが、いきなりゴミ箱が美少女になった! なんて言い出した日には病院に即連れていかれるだろう。
とりあえず、母さんの目を真っ直ぐ見て……
「やましい事はしてないから!」
「……あっ、う……うん、し……信じる」
「全く信じてないよね!?」
母さんのあんな目は十七年間生きてきて初めて見た。正直、あそこまで悲しそうと言うか、何とも言えない目で見られるとは……
「あの子はただの友達だから!」
「へぇー! ふーん。ただの友達とあんな事するんだ……」
「だから信じてないよね!? 俺の話聞いてくれてる?」
「やましい事したんだっけ?」
「してないよ! 何で全く真逆に聞き間違えてるんだよ!」
「ただの友達とワンモーニングラブっと……」
「悪化してるじゃねーか! 何だよワンモーニングラブって! ちょっと上手い事言いましたみたいな顔止めろ!」
「まぁ、あんたがそこまで言うなら信じるけど……私が今日仕事の追い込みで帰って来れないからって、あの子に変な事しちゃダメよ?」
「だからしてないし、何にもする気はありません!」
ちょっと誘惑に負けそうにはなったけど……
「じゃあねミオちゃん! 太郎をよろしくね~」
「……はい!」
そんな事を言いながら母さんはドアを開けて出勤していく。彼女が見つかってから、軽く自己紹介(勿論ゴミ箱って事は伏せて)はさせたが、早くも名前呼びとは……母さんのコミュニケーション力の高さに驚かされる。
――ガチャリ
「ゴムはしなさいよ?」
「さっさと仕事に行けよ!!」
わざわざそんな事を言いに戻ってくる母親を無理矢理ドアから追い出す。というかあの人していいのか、しちゃダメなのか意見がブレブレ過ぎだろ!
「とりあえず、朝ご飯食べるか」
「……うん」
母さんが用意してくれたご飯を食べにダイニングまで行く。
メニューは白飯、味噌汁、焼き魚、漬け物にホウレン草のお浸し――普段家にいない事が多いからか、いる時にはこうやってしっかりしたご飯を用意してくれるのは非常に有りがたい。
「というか君はご飯食べるの?」
そう言えばそうだった。ゴミ箱である以上、食べても俺のメモの時と似たような事になるんじゃ?
「……大丈夫。ゴミは別腹だから!」
「どんな別腹!? それデザートの時とかに使う奴!」
そんな別腹聞いたことない。いや、むしろゴミ箱ならメインがゴミで、別腹がご飯なんじゃ?
「……いただきます」
「あっ、俺も頂きます」
ゆっくりと手を合わせる彼女につられて、俺も普段より丁寧に挨拶する。
「そういや、
「……そうです。名前があった方が太郎さんも呼びやすいかなって」
「だから設定とか言ってたのか……」
それを聞いて、元はゴミ箱なのだとしても、ちゃんとした人間なんだと思わされる。
ご飯の食べ方すらとても綺麗で、一つも溢さず、残さず、器用に全て平らげる。箸の使い方なら、普段の俺より上手いんじゃないか?
「うおっ……」
焼き魚の脂で艶っぽくなった唇を見て、つい言葉が漏れる。まるで口紅を塗ったかのように艶やかになった唇――何これ? 新しい何かに目覚めそう!
「……どうしました?」
「いや……何でもない!」
まさかこれだけでこんなにドキドキさせられるとは……落ち着け、俺! 相手はゴミ箱だぞ! 危うく焼き魚フェチという新ジャンルを開拓しそうになる所だった。
「ゴミを片付けないとな」
食べ終わった皿を纏め流しに持っていく。
「うわっ! 生ゴミ大分貯まってるな」
「……! 私に任せて下さい!」
そう言って自分が食べ終わった皿を持って台所まで走ってくる。
「いや、でもこれ生ゴミだぞ?」
「……大丈夫です。私、生もいける口なんで!」
「いや、どんな口だよ! その言い方だと、ただ生ビールもいける人みたいになってるから!」
勢いよく生ゴミを口に頬張り、一気に呑み込む。またメモを食べた時のようにお腹がぽっこり膨らんだ所を見ると、ご飯とゴミが別腹なのは本当らしい……
「…………うっ!」
「どうした? …………うおっ!」
彼女を見ると口の端から、魚の尻尾らしき物が出ている。皿の上の残りはまだ捨ててなかったので母さんが今朝食べた分だろう……
「これ、どんな状況!? 漫画とかでも中々見ないんだけど!」
「……うっぷ! 生ゴミの臭いが口いっぱいに広がって」
口から魚の尻尾を飛び出させた美少女が、生ゴミの臭いと戦っている――何だこの状況。
そういや、生ゴミ用のゴミ箱って、臭いが漏れないようにしっかり蓋が閉じられるのが殆どだし、傾けたら中身溢れるタイプのゴミ箱じゃこうなるよな……
「……ウッ!………………オエッ! オロロロロロロローーー!」
「ゴミを増やしてるじゃねーかぁぁぁ!」
俺の朝は美少女の吐瀉物(比喩などではございません)の掃除から始まったのだった……
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