第2話 ファーストショット!
――擬人ゴルフについて簡単に説明すると
・プレイヤーは擬人ゴルフクラブを14本まで”持つ”ことが出来る。
・キャディーとしてプレイヤーのそばにいる事が出来る、《キャディークラブ》は”1本”のみで、よほどの”銘品”でなければ通常は1番ウッドがキャディ、そして”ゴルフバック”を兼任する。
そしてショットの時には、キャディーとなったゴルフクラブの”中から”目的の擬人クラブが現れるのである――。
『ただいまより、エビスンエレクトロニクスカップの開催を宣言いたします!』
大会委員長の挨拶。
ティーグラウンド上でのテープカット。
そしてスモークボールによる始球式も終わり、予選第1組からスタートする。
第1組のメンバーは犬神、坂上と昨年度賞金ランキング12位で韓国出身の
そして昨年度賞金ランキング47位で、中堅女子プロの
蛇皮模様のシャツにゴルフキュロット姿の山太に向かって、犬神はにこやかに
「山太プロ、”今年も”よろしくお願いいたします」
坂上は淡々と
「よろしくお願いします」
と、握手をする。
SF映画に出てくるような銀色のシャツにゴルフスカート姿のパンは、韓国の新興企業、フォースター製最新1番ウッド、銀色のスーツを纏った《アンドロメダ・ワン》を
「ヨロシク、オネガイ、ヤマタプロ」
と握手をしながら挨拶した。
三人からの挨拶を受けた後、、山太はすぐさまその場を離れ涙目になる。
「”今年も”この三人と一緒に回るの~!? 《JWPGA(日本女子擬人ゴルフ協会)》は予選、決勝の組み合わせで絶対なんか仕組んでいるよね~!?」
「まぁそう気を落とすなぁ!。あのお三方と一緒に回るのが中堅女子プロたるあんたの運命だからよ! グワッハッハッハ!」
ぼさぼさの黒髪黒ひげ、
――時はさかのぼり、JWPGAビルのとある会議室。
「エビスンエレクトロニクスカップの予選の組み合わせだが、毎度の事ながら、犬神プロと坂上プロが同時に出場するんだ……」
開口一番、大会委員長の言葉に会議室は緊張に包まれる。
「“今年も”ですかぁ……下手にアクの強いベテランを放り込めば大荒れになるのは必至ですし、かといって勉強の為に期待の若手を入れると、二人の微妙な空気に絶えきれず、その年は再起不能になるとのジンクスが……」
「幸いにも無口でマイペースのパンプロが参加申し込みしてきたから三人目はいいとして、問題は四人目だ……」
「委員長!
”いつの間にか賞金ランキング50位以内に入った影の薄い”
山太プロが優先出場権を使って参加申し込みしています!」
「本当か! よぉし! これで最大の懸念である予選第1組は決まった! 後は適当でいいな!」
……てな事があったかどうかは定かではない――。
イン10番ホールへ向かう美華と武羅。
「最終組、しかも三人プレイでよかったですね美華様。いずれアウト第1組が追いついてきますが、お知り合いの犬神様や坂上様ですから、プレッシャーも少ないでしょう」
そして美華は他のプレイヤーと挨拶をする。
「
木藤の服装は、紫の中折れ帽子にマントのさしずめ魔女姿。
「
有戸の姿は王冠型のサンバイザーに騎士の鎧を思わせるシャツとパンツルック。
そして、それぞれの擬人ゴルフクラブ同士も、顔合わせと品定めが行われる。
武羅は木藤の横に控える、中折れ帽子とローブ、マントを羽織った魔法使い姿のクラブに目をやる。
(木藤プロは《
そして武羅の目は、有戸の横に控える水色の鎧を着た騎士の出で立ちをしたクラブに移る。
(有戸プロは《トネックス社》の限定モデル《サークルナイト》! その鉄壁の仕上げはボギー以上にはならない『ノンオーバー』の異名を持つクラブシリーズ。基本は確実にパーを取り、ここぞというところで馬上槍のように一気にバーディーを狙うプレイスタイルでしょうか?)
そんな武羅の脇腹に美華からの肘鉄砲が突き刺さる。
「ちょっとポンコツ! ボケーとしてるんじゃないわよ! 気候、気温、風向き、湿度! 刻一刻と変わるコースの状態! 前の組のショットのトレース! やることは多々あるのよ!」
「ご安心を美華様。すでにわたくしの誇る演算装置、《
――擬人ゴルフクラブによって放たれたショット、たとえばヘッドスピード、飛距離、高さ、フックかスライスかの各データーは、ツアーに参加している擬人ゴルフクラブ同士で共有されており、それ以降のプレーヤーはそのデーターを元にしてプレイすることが出来る。
よって、後の組ほど前の組のショットを参考に出来る為、スコアの差はそれほど広がらない……とおもわれがちだが、実際は各プレーヤーの力量が大部分を占めてる。
もっとも、どのスポーツにおいても大どんでん返しがある為、データーを参考に下位プレイヤーでも一発逆転のチャンスが狙えるのである――。
日が高く昇り、やがて美華達最終組もスタートする。
通常、擬人ゴルフクラブを打つ基本の型は《正面打ち》と呼ばれるモノである。
これは擬人クラブの正面から両足首を持ち、体をまっすぐ伸ばさせ、顔を空へと真上に向けさせてから振りかぶり、ボールめがけて擬人クラブのこめかみをぶち当て、ボール飛ばすのである。
――イン10番ホール 421ヤード。パー4。
オナーは木藤、次に有戸の順にティーショットを放った。
「「ナイッショ!」」
「ありがとうございます」
二人のボールは220ヤード先のフェアウェイベストポジションに落ちる。
その二人のショットを武羅は分析する。
「さすがミドルツアー上位経験者のお二人、隙のないショットですね。そして名品クラブのいい仕事っぶりですね」
――ミドルツアーとはメジャーである七福神カップの下位に位置するツアーである。このEEカップ出場を掛けた対象ツアーもいくつか存在し、そこでの上位者や高額賞金プレイヤーはEEカップ出場優先権が得られるのである。
そのほかにもメジャー、ミドルとは独立しているツアーが存在する。
独立ツアーの中には優勝すると七福神カップのうち一つを無条件で出場できるものもあり、美佳が優勝したステップアップツアーがこれに該当する――。
そしてティーグラウンドに立つ美華。
その姿に有戸、木藤は軽く目を見開く。
(《背面打ち》!?)
美華は武羅の背中から両足首を持つと、背中を上にむけたまっすぐな姿勢、そして頭を上げさせ、後頭部を真上に向けさせた構えをとる。
「さあ美華様のメジャーツアーのファーストショット! 派手にぶちかましましょう!」
「武羅いくよ……にゃん」
美華は武羅のこめかみをボールに近づけると猫の鳴き声を発っし、そしてゆっくりと武羅を天へと振りかぶり
「にゃ~~~~」
振り下ろし!
「ニャーーー!」
インパクトの瞬間! 武羅のお尻から異音が轟く。
”ぷぅ~!”
”えっ!”
”!””!”
”スパーーーン!”
美華のボールは突き抜けた音を発し、有戸や木藤を超え、230ヤード先の、フェアウェイグッドポジションに飛ばした。
「「ナイッショ!」」
「あ、ありがとうございます!」
二人に向かって軽くお辞儀をする美華。
ボールへ向かって歩く三人と”三本”の擬人ゴルフクラブ。
木藤は魔法使い姿で横を歩く、キャディクラブであり1番ウッドの《ワドナー》に問いかける。
(ワドナー、猫又プロのあのショットは?)
(まぁ背面打ちは特別珍しいわけではありませんぞ。御祖母の猫又珠代永世名誉プロも使っておりましたしな。おそらくこれが猫又流ですな)
有戸もまた騎士姿で横を歩く、キャディクラブで1番ウッドの《パーシヴァル》に尋ねる。
(パーシヴァル、ショットの際、武羅が放った”異音”は? 貴方の見立てでは、武羅に何か異常が見受けられて?)
(共有されております猫又プロのショットのデーターに誤りは見受けられません。むしろあらゆるデータが私より精度が高く驚いております。さすが伝説の銘品と言ったところです。ですが、あの”異音”は……音の”出所”。ガスの噴出速度、成分の分析。以上の結果から導き出される答えは……)
(いいわ。続けなさい)
(失礼いたします。”おなら”としか思えません)
(はぁ~?)
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