第5話「ゲームも色々あるけれど」

 坂下楽巳サカシタラクミは驚いた。

 全くの不意打ちだった。

 我が家を訪れてくれた憧れの先輩、麒麟寺遊羽キリンジアスハ……そのテンプレな御嬢様感あふれる白ワンピのポケットから、見慣れた小さな少女達が飛び出してくる。

 全身ピッチリ、なだらかな起伏が浮き出た宇宙服の子。

 中身が見えそうで見えないミニスカに、見せブラ風な子。

 レースとフリルでゴテ盛りな、女子力の高そうな子。

 それは三人共、ゲームのジャンルを司る概念妖精プレイマーだ。


「あ、あの……遊羽さん。これは」

「うふふ、紹介してなかったわね。さ、みんな。楽巳くんに挨拶してね?」


 遊羽の膝の上で、新顔の三人娘が声をあげた。


「しからば拙者せっしゃから……STGシューティングの概念妖精、ナガレと申す。縦シューも横シューも、勿論もちろん3Dシューも拙者に任せてもらおうか!」

「わたくしはACTアクションの概念妖精、アクアですの。ジャンプ、ダッシュ、スライディング、どんなアクションでもわたくしがサポートしますわ!」

「最後はボクだね? ボクは音ゲーの概念妖精、シンフォ君だよっ! リズムに乗れば、どんな音楽もゴキゲンなんだからね?」


 い。

 また微妙に、濃ゆい小さな女の子が三人。

 それを見たからか、隠れていたロップルやシュミちゃん、タイカもおずおずと出てくる。

 やはりかと思ったが、お互いに顔見知りのようだった。


「嘘、なんで? えーっ、ナガレにアクア、シンフォ君じゃないの」

「そういうお主はロップル! 相変わらずの脳筋のうきんプレイをしているのか?」

「脳筋じゃないわよっ! RPGロールプレイングはレベルを上げてちょっとずつ進んでもいいの!」

「いいや、ゲームに大事なのはスピード……高速スクロールの中、弾幕を避け続ける快感こそが醍醐味だいごみなのだ」


 なんだか六人は、ワチャワチャと再会を喜んだり、早速張り合ったりし始めた。

 それを横目に、遊羽はいつもの天使の笑顔だ。


「あのね、楽巳くん……驚かないでほしいんだけど、あのね?」


 あのね、と小首を傾げて覗き込まれると、どきりとする。

 長い黒髪がサラサラと流れて、光沢が艶めいていた。

 だが、遊羽は真剣な表情で言葉を神妙しんみょうに硬くする。


「実はね、楽巳くん。世の中には、ゲームの妖精さんがいるの。驚いたでしょう?」

「あ、いえ……最初は驚きました、けど……知ってたというか」

「まあ! ふふっ、そうなの。真喜マキちゃん、楽巳くんが全然ゲームしない子だっていうから」


 姉の坂下真喜が言うことは、もっともだ。

 楽巳は一人で楽しむ趣味しか持っていないし、それに不自由を感じなかった。

 姉は「このっ! ひとり《じょうず》め、グヘヘ」と下品な笑みを浮かべるが、意味がわからない。だが、遊羽はにっこり笑ってゲームの接続を終えた。


「わたし、今日は沢山ゲームを持ってきたから、安心してね。それにほら、ナガレやシンフォ君も友達に会えて嬉しいみたい。ね? ゲームっ


 そのことについては、酷く実感なので楽巳は頷く。

 スマートフォンの購入を契機に、ゲームの話題で遊羽に近付いたのは楽巳の方なのだ。

 だが、どういう訳か先程からロップル達が騒がしい。それは遊羽が言うような、友達同士の再会には思えない声色を響かせていた。


「馬鹿を抜かすな、ロップル。お前達では無理だ……お前達三人ではな!」

「ちょっと、どういう意味よっ! ほら、ちょっと、シュミちゃんも言ってやって!」

「……あ、いや……すでに論理的に敗北しており、その被害を最小限にすべくだな」


 なんだか、揉めてる。

 そして、その理由をシンフォ君が教えてくれた。


「ボク達は、STG、ACT、そして音ゲー……二人同時プレイ、それものジャンルだよっ! でーも、RPGは一人用だし、STGや格ゲーは対戦がメインだよね?」


 ふむ、と楽巳も唸ってしまう。確かに、ロップル達とゲームをしていても、基本的に皆の勧めてくれるゲームは一人で遊んでばかりだ。勿論、楽巳に普段から趣味を共有する人間がいないのも多分にあるが。

 チラリと楽巳は遊羽を盗み見る。

 だが、彼女は自分の荷物から広げたゲームの数々に目を輝かせていた。

 そして、ロップル達はいよいよヒートアップしてゆく。


「もぉ、ナガレの分からず屋! ペチャパイ!」

「きっ、貴様! 拙者のこれは、これは……が小さいだけだ!」

「いっつもボム残してやられるくせに」

「ハイスコアのための、ボム残数ボーナスの方が大事だ!」


 楽巳にはチンプンカンプンなのだが、ロップルとナガレは同時に言い放った。


「いいわ……こうなったらで勝負よ!」

! 概念妖精だけが持つ古来よりの戦い……受けてもらうぞ!」


 ――プレイゲーム。

 なんだかよくわからないが、どうやら彼女達にとっては歴史ある問題解決法らしい。

 そして……ふと見れば、隣で遊羽はプレイゲームという言葉に瞳を輝かせていた。清楚で可憐な楽巳の初恋の相手は、ゲームと聞くと目がないゲーム少女なのだった。

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