第3話「三度目の正直?」
土曜日、
日頃から部屋は清潔に保っているつもりだが、今日は普通に小奇麗なだけではいけない。念入りに掃除をして、お茶とおやつの用意とバタバタしっぱなしだ。
そんな彼を尻目に、机の上のスマートフォンには二人の少女が浮かび上がっている。
ゲームを司る
二人はあれから、ことあるごとにいちいち張り合う姿を見せてくれる。それもどこか微笑ましいので、あえて楽巳は二人の好きにさせていた。
「くどいな、ロップル。戦いは常に、適切な戦術と戦略眼によって決まるものだ」
「もぉ、そんなの別にいいじゃない! レベルを上げて物理で殴ればいいのよ!」
「どんな敵にも、有利不利、得
「アンデットには火、海のモンスターには雷とか? 無属性魔法でオッケーです!」
普段はあまり使わない、部屋の20インチテレビを拭きながら楽巳は自然と笑みが零れる。
二人は今、初めて家を訪れてくれる楽巳の意中の人、
そして、二人の性格もここ数日でだんだんわかってきた。
「いい、シュミちゃん? 楽巳は日頃からコツコツやるタイプの子なの! 普段からレベル上げのように、ちゃんと好感度を稼いでるわ。平気よ!」
ロップルは快活で
「違うな……あくまで友人の弟、後輩としてしか見てもらえていないとみた。だから、今日は策略をもって奇襲し、
対して、シュミちゃんは状況下での最適解にこだわる、頭でっかちなところがあるみたいだ。だが、彼女は彼女なりに、心配してくれている。理知的で思慮深く、クールに見えて根が熱いのがシュミちゃんだ。
楽巳は掃除が終わると、二人に声をかけてなだめる。
「二人共ありがとう。でも、麒麟寺先輩が驚くと困るから、少しだけ隠れて見守っててね」
見上げてくるロップルとシュミちゃんは、元気のいい返事で大きく
だが、彼女達の論争は止まらない。
「楽巳は最近、スマホの
「いいや、ここは男としての器量を見せるために
二人共、
困ったなあ、と苦笑いしつつ楽巳は聞いてみた。
「えっと……麒麟寺先輩と一緒に遊べるゲームは、ないかな」
ロップルとシュミちゃんは、目を点にしてしまった。
そして、顔を見合わせてお互い黙る。
変なことを言ったのかなと思ったが、深刻な表情で不あたりは悩み始めた。
「アクションRPGなら、たまーに二人同時プレイのものがあるわ。でも、うーん」
「三国英雄伝や、信長の覇道を二人で……駄目だ! 長い! 絶対に今日中に終わらん」
どうやらRPGやSLGというジャンルは、一人で遊ぶゲームのようだ。
だが、あまり楽巳は気にしていない。
ゲームの話をする時、遊羽はとても嬉しそうだ。いつもの可憐な美貌も、二割増しで輝いて見える。普段の物静かなイメージが、少しだけ変わるのだ。
その表情を今、楽巳だけが知っている。
年上の少女は彼の前では、ときめきに火をつける眩しさを解放するのだ。
「そっかぁ、二人でできるゲームはないのか。でも大丈夫、二人共ありがとう。さて、と……ん?」
またしてもスマートフォンが光を放ったのは、そんな時だった。
振り向くロップルとシュミちゃんも、驚きに目を見開く。
そこには、またしても小さな人影が浮かび上がった。
二度あることは三度ある……またしても概念妖精の登場である。
「ちーっす、おまたぁ! あーしが来たからには、ゲームライフも大満足だしー?」
そこには、ピョンピョン跳ねた
水着みたいな姿でスマホの上から降りると、彼女は周囲を見渡し驚く。
「あれ? ロップルとシュミちゃんじゃん? どしたの、二人共」
「どしたの、じゃないわよ! えっ、なんで? えと……タイカ、だよね?」
「ロップル……このやる気のなさ、だるさ。間違いなくタイカだ」
どうやら新しい概念妖精はタイカという名前らしい。
彼女は楽巳を見上げて、けだるげに自己紹介してくれた。
「しくよろー、あーしは対戦格闘ゲームの概念妖精、タイカでーす」
「よろしくね、僕は坂下楽巳。あ! 対戦格闘ゲームって、もしかして」
「もち、二人で遊ぶゲームだしー? てゆーか、一人でやっても超タイクツだしぃ?」
すかさず、ロップルとシュミちゃんが口を挟んできた。
「楽巳、まずは
「違うな、まずは持ちキャラを決めて戦略を練るのだ。キャラクターの持つ技を全て
だが、ちょっと待って欲しい。
それって……自分が遊羽と戦うんだろうか?
そういうのはちょっと苦手だ。
楽巳は普段から、穏やかに静かに暮らしている。人との対立も、どちらかというと避けてしまう傾向があった。時には、自分の意見が言えずに譲ってしまうこともある。
しかし、ロップルとシュミちゃんを尻目に、タイカはゆるい笑みだ。
「
「あ、そういうのって本当にあるんだ……そっか、対戦ゲームかあ」
「ハメちゃえば楽勝だしー?」
「ハッ、ハハハ、ハメ……!?」
ハメ技というのがあって、つまりシステム的に絶対回避不能な技で強引に相手を倒すことらしい。他にもタイカは、無限コンボや台パンなんかを教えてくれた。
うん、無理だ。
対戦格闘ゲームはよそう。
そう思っていると、家のインターホンが鳴った。
「と、とりあえず三人は隠れててね! 色々ありがとう!」
楽巳はドキドキしながら、階段を降りて玄関へと向かう。
ドアを開けるとそこには、今日一番だと思える笑顔が花咲いていた。
「こんにちは、楽巳くん。ふふ、制服以外の姿で会うのって、初めてね。なんだか新鮮」
そこには、白いワンピースの遊羽が笑っていた。
とても綺麗だ。
まるで、
鼓動が跳ね上がる中、楽巳の特別な休日が始まろうとしていた。
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