第五章 ありえない話
第五章 ありえない話
池本クリニックの廊下。
看護師「それにしてもよかったじゃないの。」
看護師「よかったって何が?」
看護師「あの、厄介な患者、水野清華が、外へ出てくれるようになったんでしょ。」
看護師「たったの30分だけだけどね。行こうと言えば嬉しそうに出てくれるんだけど、中庭に出て、一通り歩いて帰ってきちゃうのよ。」
看護師「たったそれだけか。でも、閉じこもっているよりはましでしょ。」
看護師「そうねえ。部屋の中でずっと座り込んだまま泣かれていてはたまらない。かといって、保護室もいっぱいだから、入れておくわけにもいかないし。」
看護師「意思の疎通ができないとか、そういう事もないんでしょう?」
看護師「全然ないわよ。普通にしゃべっているし、食事だってきちんと食べているし、風呂だってちゃんと体も自分で洗っている。すべてを失くした、というわけではないわね。」
看護師「じゃあ、わざわざ病院に入る必要もないんじゃないの?だって、体が悪いわけではないのでしょ。」
看護師「そこは全然ない。まだ若いし、高血圧も何もないわよ。体のほうはね。」
看護師「具体的に困った症状でもあるの?幻覚に悩まされるとか。」
看護師「何にもない。」
看護師「じゃあ、もう家に帰ってもいいんじゃない?」
看護師「そうなんだけどねえ。母親が有名な演奏家だから、家に帰っても誰もいない状態でしょ。そうなれば、何も刺激のない場所に逆戻りしちゃってかえって意味がないって、先生言ってた。それに、母親のほうが、帰ってきてほしくないみたいで。」
看護師「母親ねえ。帰ってきてほしくないなんて、うちの病棟ではそういうケースはたまにしかないわよね。」
看護師「ところがどっこい、精神科では多いわよ。実の親でも、退院するのを喜ばないケースは。そして、子供もそれに固執し続けて、ここのほうがいいと言い張るケースだってまれじゃない。あたしたち看護師が、その間を取り持つなんて信じられる?ほかの科では、患者の世話をするだけで十分なはずなのに、あたしたちの科では、家族関係の調整まで看護師がしなきゃならないのよね。」
看護師「ええー!そんなことあるんだ!じゃあ、おかえりとか、治ってよかったとか、そういう言葉も言われないのかなあ。」
看護師「それはまるで魔法の言葉ね。」
看護師「そうそう。だから、彼女はその典型的なものと言われるの。安易に外へ出させたら、かえって悪化するかもしれないのよ。」
看護師「でも、他の患者さんだっているでしょ?」
看護師「勿論いるわよ。」
看護師「大変ね。単なる世話係というわけにもいかないのかあ。あたしだったら、絶対に配置されたくないだろうな。それじゃあ、体にも堪えるでしょう?」
看護師「そんな愚痴を言うのさえ、患者は許してくれないわよ。」
反対方向から、池本院長がやってくる。
看護師「あ、院長だ。」
看護師「今の、聞かれちゃったかな、、、。」
二人、廊下の端で立ち止まる。
二人に近づいてきて、その前で立ち止まる池本院長。
看護師「院長、おはようございます。」
院長「佐藤さん、看護師が患者さんの悪口を言ってはいけませんよ。患者さんは、それなりに苦しい思いをしているわけですからね。」
看護師「は、はい。申し訳ありません。」
院長「フローレンス・ナイチンゲールも、悪口を言ってはいけないと言っていましたよ。彼女を少し見習って、患者さんに対して偏見を持たないようにしてください。」
看護師「は、はい。わかりました、、、。」
院長「では、職務に戻ってくださいね。」
看護師「はい!」
再び、歩き出す院長。
院長が遠ざかっていくまで、二人の看護師は立ち止まったままでいる。
看護師「この程度でほんとによかった。でも、こういうときぐらい言わせてくれたっていいのに。」
看護師「そんなに大変なの?佐藤さんとこ。」
看護師「そうよ!もう切なくてやりきれなくなるくらい!ほかの子に言わせれば、さっさとやめたいみたい。まあ、あたしは中年のおばさんだからまだいいけどさ、若い女の子の看護師は辞めちゃうんじゃないかなあ。あたしを含めて、看護師はナイチンゲールみたいな振る舞いは、通用しないのが精神科というもんでしょうが。」
看護師「そうかあ、それくらい大変かあ。じゃあさあ、もしも、看護師として、願いがかなうなら、何を願う?ちょっと子供っぽい質問だけど。」
看護師「とにかくね、怒涛の如くやってくる患者さんの愚痴を聞いてくれる人材が一人でもほしい!」
看護師「うちの科でも、そういう願いを持つと思うけど?」
看護師「いえいえ、それどころじゃないわよ。そういう人がいてくれたら、私、100万円支払ってもいいくらい。それくらい、うちの科は大変なの!」
看護師「なるほどねえ、、、。あ、もうこんな時間。早くしないと外来の患者さんも来ちゃうわよ。」
看護師「本当だ、急がなきゃ。看護師は、愚痴を言いあう暇もないのか。」
廊下を走っていく二人。
数時間後、病院の中庭。
看護師に連れられて、庭を歩いている清華。
嬉しそうに庭を見渡すが、一通り歩くとがっかりした様子で、どんどん入り口の方へ向かってしまうのである。
看護師「いったいどうしたの?嬉しそうに出てくれるのに、戻ってくるときはしゅんとしちゃって。」
清華「いや、何でもありません。」
看護師「言ってみなさいよ。まあ、あたしは看護師だから言えることだけど、ここでの患者さんは、大体感じていることが顔に出ちゃうのよ。隠そうとしても、難しいの。あなたもそうなんじゃない?それだったら、言っちゃったほうが早いわよ。」
清華「本当に何でもないんです。」
看護師「いいえ、隠しておくと、また症状が出ちゃうかもしれないわよ。言っちゃいなさいよ。」
先ほどの佐藤さんではない、優しいおばさんだった。この病棟の看護師さんは、そういう中年以上のおばさんでないと、難しい。特に、若い女性の患者さんを相手にする時には。佐藤さんのように、愚痴っぽい人ではなく、本当に奉仕精神がある人でないと、難しいのだ。だから、若い女性の看護師が、長続きする職場ではないと言われても仕方ない。
清華「そうですね、、、。お話しても年代が、、、。」
清華自身も言葉を選んで丁重に返したつもりだが、若い看護師では、ムキになるかもしれない。しかし、そうなれば、患者は傷つく恐れもある。だから、看護師はわざとおどけて、こういう言葉を返す。
看護師「そうか。こんなおばさんじゃ嫌かあ。」
清華「はい。すみません。」
彼女がその程度の返答で看護師もほっとする。他の患者であれば、人を馬鹿にしていると言って暴れる可能性もある。
看護師「じゃあ、どうする?帰る?」
気持ちを切り替えて、優しく聞き返す。常に笑顔で、常に優しくと池本院長は繰り返し説くが、その作業は非常に難しく、緊張感のある言葉だということを知っていないと、看護師の勤めはできない。
清華「そうですね、、、。」
また三十分だけかあ、と内心がっかりしていたところ、外来棟へつながるドアから、
声「あーあ、またここで待たされるのかあ。」
と聞こえてきた。すると、清華は、急にはっとしてドアの方を見る。
声「いい、杉ちゃん、中庭であんまりしゃべらないでくれよ。中庭は、精神病棟と直結しているそうだから。」
ドアがガチャンという音を立てて、杉三と蘭が入ってきたのだ。清華もその場面をはっきり目撃していた。みるみる彼女の顔が明るくなっていくというか、期待を込めた表情になっていくのを、看護師は見逃さなかった。
声「すみませんね。わざわざ中庭まで一緒に来てくれるなんて。」
その声を聞きつけると、清華は待ってましたと言わんばかりに、明るい表情になる。看護師も、彼女が何を考えていたのか、はっきりと理解した。
看護師「なるほど、恋か。」
看護師の注意も聞かずに、彼女は、入口の方へ歩き出してしまったことが、それを決定させることになった。
入り口では、杉三が友助に手伝ってもらって、中庭へ出してもらっているところだった。
杉三「すみませんね。わざわざ出してもらって。次に蘭を頼む。」
そこへ、たたたたっと若い女性が駆け寄ってくる。
女性「あ、あたしも、手伝っていいですか?」
杉三「ぜひ、お願いしますよ。」
女性「じゃあ、お手伝いします!」
杉三「頼むよ。蘭は重いけどな。」
蘭「杉ちゃん、それ、悪口か?」
杉三「違うよ!友達なんだからそれくらいは言うだろうよ!じゃあ、このかわいいお嬢ちゃんにてつだってもらえ。」
友助「じゃあ、僕が蘭さんを出しますから、ドアを開けておいてあげてください。」
女性「はい!わかりました。よろしくお願いします。」
と、ドアに手をかけて、全開の状態にする。友助は、蘭の車いすに手をかけて、彼を中庭へ出す。
蘭「どうもすみませんね。全く、歩けないとこうして誰かに手伝ってもらわなければならないことが多すぎて、困ります。」
友助「いいじゃないですか。それで商売をする人もいるんだから。」
蘭「商売ねえ。本当は、お金なんか要らないで、すぐに手を出してくれたほうが、こっちも楽なんですけどねえ。」
友助「でも、それだから気軽になんでもやれるという事にもなるんですよ。そうは思わないんですか?」
蘭「うーん、親切心からやっていただけるのと、金のためにやるのとでは、受ける側の印象も違うんですよ。」
友助「そうですか、、、。」
杉三「おい、蘭。」
蘭「なんだよ杉ちゃん。」
杉三「ちょっと二人だけにしてやろうぜ。このかわいいお嬢さんと。二人のお邪魔虫おじさんは、どっかへ行ってよう。」
蘭「へ?どういう事だ。」
友助「それに、お二人とも、手伝いがないと庭は移動できないのでは?」
杉三「いいの!きっと、こんなチャンスはめったにないだろうから。早くしないと、お嬢さんの方も、タイムリミットが来てしまうかもしれないしさ。とりあえず、僕らはどっかへ言ってよう。じゃあ、二人とも仲良くな。命短し恋せよ乙女。頑張って告白しろよ。」
蘭「なんだよ杉ちゃん。」
杉三「いいからいいから。」
と、車いすを動かし始める。
蘭「どこへ行くんだ!」
杉三「たとえ若い娘じゃとて、なんでその日がなかかろう、、、。」
蘭「おい、どこ行くんだ。赤いサラファン何か歌って、、、。」
と、杉三の後を追いかける。
杉三と蘭の姿が見えなくなると、友助をじっと見つめる女性。
女性「は、初めまして。私、水野清華というものですが、、、。」
友助「僕は、市川友助です。」
清華「ご、ごめんなさい、いきなり話しかけられて、変な人だと思いましたよね。」
友助「まあ、そうおもわないわけでもないですが、顔を見れば、悪い人だとは思えないし、それに、あそこから出てきたわけですから、相当傷ついているのでしょうし。」
清華「じゃあ、わかってくれるんですか?」
友助「まあ、詳細はわからないですけど、あの病棟から出てきたわけですから、相当傷ついているんだろうなというのは理解できます。僕は幸い外来で大丈夫ですが、入院していられるのは、きっと、ものすごく辛いんだろうなって。」
清華「あ、ありがとうございます。私もね、ほ、本当はいたくないんですよ。あんなところ。だって、刑務所みたいだし、何もすることがないし、看護師さんからは、冷たくされるしで。」
友助「誰だってそうだと思いますよ。病院のほうが快適だなんて言ったら、それこそ世の中終わりだって、うちの家族は言ってますよ。」
清華「そうですか。友助さんは、ご家族がいるんですか。」
友助「ええ。まあ、一応ね。」
清華「私は、母しかいないし、その母が、私の事を疎ましく思っていて、家にいるのを良しとしないので。帰ろうと思っても、帰るべきところがないんです。」
友助「そうですか。それもまた辛いですね。じゃあ、僕も、辛いことあるけれど、あえて我慢しなければなりませんね。僕はまだ恵まれているほうだと解釈して。僕も、本当はつらいですけど。」
清華「だって、友助さんは、アドバイスをくれる家族がいるのに、私はそういう人がいなくて、出て行けと言われる、、、。」
友助「すみません。僕は、失礼な発言をしてしまいました。ごめんなさい。」
急いで敬礼する友助。
清華「あ、こちらこそ、ごめんなさい!あたし、何を言ったんでしょうね。そんな発言してしまって。ほ、本当に、、、。」
友助「無理しなくていいですよ。ねたみたければ、ねたんだほうがいい。でも、ある人からこういわれたことがありました。人間、いくらねたんではいけないと思っても、ねたんでしまう生き物だから、素直に表せるほうが自然なんだって。だから、誰かと比べられて、ねたんでいるその人は幸せな人であるって。だって、ねためる安全が確保されているわけですからね。きっと、危機的な状況に立たされている人であれば、自分と他人を比べることはまずできないでしょう。それができるってことは、ある意味平和なんですから。」
清華「じゃあ、あたしは、母に捨てられていることは平和なのでしょうか。」
友助「うーん、具体的な状況がわからないので、はっきりとは言えないですけど、他人の事をうらやましく思える、ということは、自分の安全はしっかり確保されている環境にあるという事ですからね。」
清華「じゃあ、私は、安全なの?」
友助「だって、お母さんといると軋轢が絶えないわけなのなら、その時は他人の事など考えていられないのではないですか?」
清華「あ、ああ、ご、ごめんなさい。何か悪いことを言ってしまったような。私、どうかしているわ。やっぱり、精神的にどこかおかしいのかしら。ほ、本当に、ご、ごめんなさい。」
友助「いや、僕も変なこと言ってしまって、申し訳なかったです。混乱させるつもりではなかったのですけど。」
清華「私、やっぱり、変だったのかしら。本当にへんだったのかな。」
友助「気にしないでください。変なことではありません。誰だって、失言というものはありますよ。そんなに自分を責めなくとも。」
清華「は、はい、、、。」
友助「気にしないでくださいね。」
清華「ありがとうございます。」
友助「だって、誰だって、そういう事はあるんですから、仕方ないじゃないですか。いいんですよ!」
清華「私、、、。」
友助「だから、もういいじゃないですか。もう終わりにしましょうよ。」
清華「でも、もう、話しかけてはくれないわよね。」
友助「そんなことありませんよ。」
清華「でも、ほとんどの人間関係はそうなる物でしょう。一度間違えると、二度ともとには戻れないでしょう。」
友助「いや、人付き合いは、ハンプティダンプティではありませんから。」
清華「残骸さえもなくなるわ。砕けた殻さえもなくなっちゃう。」
友助「それ、誰から学んだんですか?」
清華「ええ、私が今までしてきた付き合いはそういうものだったから。インターネットとかでは、すぐそうなるから。」
友助「まあでも、インターネットの世界ではありませんよ、ここは。」
清華「私、そういう媒体しか、友達を持ったことないの。そうするしかできなかったの。」
友助「それはどうしてなんですか。」
清華「ええ、どこへ行っても、母が知られている人だから、私、母の娘ということで、現実ではきらわれるの。インターネットでは、それがないでしょ。だから、私、そこしか普通の会話ができなかったのよ。」
友助「ああ、なるほど。確かにそういうつらさはありますよね。親が有名な俳優とか、そういう人だと、居場所がなくなってしまうっていうのは。」
清華「少なくとも、この辺りでは、母の事を知らない人はまずいないわ。」
友助「そうですか。確かにそうなると難しいですよね。」
清華「時々私、思うの。この世に自分だけならいいのになって。でも、そんなことはまずできないでしょ。だからちょっとというか、居づらくて。でも、そんなわがままなことは言ってはいけないわよね。本当は、母がいてくれなければ、って思ったことも本当にたくさんあったけど。自分が消えることもいけないし、相手を消すこともいけない。どっちか一つ、許してくれればいいのに。」
友助「でも、思わざるを得ない感情かもしれないですね。お母様が、そういう方であれば。きっと、財力はすごくあるし、能力だってかなり高い方だと思うんですけどね。」
清華「そうなの。お箏の世界では、母の名を聞けば誰でも恐れ多いという態度をとるわ。逆を言えば、そうしない人はいないと思うの。」
友助「そうですか。そこから逃げるためには、外国へでも逃げるしかないですよね。例えば、有名な俳優の子供さんが、海外へよく留学したりしますけど、それって、財力の力もあるけど、ある意味、親から逃げたい気持ちも少しあるのではないでしょうかね。それとか、全く親御さんが手を出せない分野に行ってしまうとか。例えば、うーん、そうだなあ、西郷隆盛の子孫である方は、政治家をやっているのかなあと皆さん推量すると思いますが、そうじゃなくて、今は陶芸家として活動しているそうですし、、、。」
どこかで正午を告げる鐘が鳴る。
清華「本当にありがとう、うれしいわ。友助さんが、一生懸命たとえを考えてくれて。きっと、私のような悩みなんて、遭遇したことないでしょう。口調でわかるわよ。でも、うれしいの。ありきたりの答えを出さないでくれたでしょ。」
友助「あ、ばれちゃいましたか。すみません、、、。」
清華「ううん、本当にうれしかった。みんな我慢しろ金持ちなんだからとか、片親でも十分やっていけるのに、わがままを言うなとか、親御さんになんでも解決してもらえるんだから、そんなこというもんじゃないとか、そういう事いうんだもの。私、それほどつらい返答はないわよ。」
友助「そうですか。正直に言うと、どうこたえようか、さんざん頭を悩ませていて、本当に困っていたところでしたけど、、、。」
と、ハンカチで額の汗を拭く。
友助「でも、親が有名すぎて、かえって幸せがえられなかったんだなということは理解できました。」
清華「それだけでも、十分よ。たぶん、外来の方だから、きっと、私より軽いんでしょうから、私より先に、病院も卒業できるんでしょうね。私は、退院しても受け皿がないから、そこを考えることから始めないと。だから、きっとまだまだかかる。もう会えなくなっちゃうのかな。」
友助「そうかもしれませんね。」
清華「今は、携帯も何も持ってないし、連絡先も交換できないわ。それに、住所を交換しても、看護師にとられてしまう事でしょうよ。そういうことはトラブルのもとになるんだって。」
友助「一期一会ですか。」
清華「でも、私、忘れないから。一度だけ、ありきたりでない答えを出してもらったこと。」
友助「そんなに、役に立つことをしたでしょうかね。」
清華「ええ!あり来たりじゃない答えを言ってもらえることが、私にとっては何よりの宝物になるのよ!」
友助「そうですか。縁があればまた会えるかもしれないですね。」
清華「あり得ない話かもしれないけど。でも、本当にお話しできてうれしかったです。ありがとうございました。」
友助「またどっかでお会いできるといいですね。」
清華「遠い将来にね。じゃあ、これで失礼します!もう、時間になっちゃうの。一度だけでも、ありえない話をしてくれた人がいれば、私、その思い出を頼りにして生きていくことはできますから。」
彼女は一礼して、病棟の方へ歩き始めた。昼食の時間だと言って、看護師が迎えに来たのだ。
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