第四章 考えてもいなかった

第四章 考えてもいなかった

麗華の屋敷。箏曲教室らしい日本家屋。

広い部屋がある。何面かの箏がおかれているが、これもほとんどはほこりをかぶっている。

ほとんど、出げいこを中心としているので、使用されるのは、ごくわずかなのだ。

その隣には、居間があり、食堂があり、風呂があり、いかにも普通の家庭という感じの家なのだが、、、。

二階は異質な空間になっている。

二階の奥の部屋は、開かずの扉という感じで、そこだけふすまの色が違っていた。

つまりどういうことかというと、そのふすまだけ張替えがされていない。その証拠に貼られた絵が色あせている。そのふすまだけ、何年も放置されたまま、何もされていないような、、、。

ふすまの前には、完食された、ご飯の皿がおかれていた。


今日も、水野麗華は、出稽古を終えて、家に帰ってきた。家に帰ると、只今も言わず家に入って、手早くシャワーを浴びて、冷蔵庫にあるものを簡単に料理して、テーブルに座って食べる。テーブルには椅子が二つ設置されている。一つは麗華が日常的に座っている椅子であるが、もう一つは、あるべき使用感がなく、長年使っていないのだろうか、新品のまま変わらなかった。

食べ終わると、麗華は手早く皿を片付ける。そして、簡単なレトルト食品で料理を作りさらに乗せる。

それをもって、彼女は例の開かずの間の前へ行く。

階段を上るだけでも、怖い。何をされるかわからないからだ。

張り替えられていないふすまの前に立ち、ご飯皿を床の上に置き、完食した皿をもって素早く逃げる。もう、ここが恐怖の絶頂。

とりあえず今日は脱出成功した。

皿をもって、一回の灯りが見えてきたときは心からほっとする。そして、皿を食器洗い機の中に突っ込み、手早くスイッチを押す。そうして、素早く台所の灯りを消し、一階の寝室に戻り、鍵をかけて身を守る。はじめは、鍵をかける必要はなかったが、今は自分を守るために必需品となった。

これで怪物は、もう襲ってはこない。

麗華はやっと安心する。

もう、疲れ果てて一日を振り返る余裕もなく、急いで寝てしまう。スケジュールの確認なんかは、家の中ではのんきにやってはいられない。そういうことは、出稽古帰りに喫茶店などで済ませてしまっている。布団の中に入ってやっと麗華は落ち着きを取り戻すのだ。

テレビを見たり、本を読んだりしている余裕などない。布団に入るときは加齢も手伝い、くたくたに疲れ果てている。今日一日生かしてくれてありがとう、明日も生かしてくださいませ、麗華は祈るようにそんな言葉を唱えて眠る。願わくは怪物が死んでほしいと願いたいが、そんなことを言ったら倫理的にまずいのは知っている。不思議なもので、怪物に対する同情は来るが、自分に対するものはない。もし、怪物を手で締め上げることはできても、きっと世論では悪い親として、自分を卑下する人のほうが多いだろう。それに、偉い人たちは、自分のことではなく、怪物のほうへの解説ばかりして、自分の苦労には評価はくれないだろう。これは親の宿命であると教わったことがあった。彼らは、親には報酬という物は何一つないと言ってきかせた。しかし、麗華は、この仕事という物は、きっとどこかの国の大統領のような、何でも欲しがる人であれば、何十億にもなるだろうなと自負していた。体力も、美貌も、能力も、すべて奪われた。それでも、私は、この仕事を続けている。偉いだろ、自分。

そんなことを考えながら、麗華は眠りにつく。


翌朝。彼女は目を覚ます。外を眺めると、まるで土砂降り。朝のシャワーを浴びて、化粧をしようと、布団から立ち上がって、風呂場に移動した。いや、移動しようとした。

その時、彼女の携帯電話が鳴った。

なんだろう、こんな朝早く。と思いながら電話を取る。

麗華「はい、水野ですが、、、。」

声「富士警察署の華岡ですが、お母さんちょっと来てくれませんかね。」

麗華「どうしたんですか?」

また悪い予感がした。

声「ええ、娘さんが、踏切で立ち往生していると通報がありました。今、うちの部下のものが、そちらへ向かっておりますので、お母様も来ていただけませんか。」

嘘だろう。玄関の鍵はちゃんと閉めたのに。どうしてこう簡単に錠前を破ってしまうのだろうか。

麗華「いえ、私は行きません。どうせ、またくだらない、自殺未遂か何かでしょう。娘をすぐに精神科へ回して、措置入院の手続きをして下さい。私は、今日はこれから合奏の練習がありますので、とてもそちらへ行く暇はありません。」

声「でも、唯一の家族である、お母さんですからね。」

麗華「親も金も期限付きと教えたいのになぜ邪魔をするのです!警察もずいぶん甘いんですね。私はそちらには行きませんよ。娘に、人に迷惑をかけているということを教える為のいい機会でしょ。」

声「しかし、清華さんは、、、。」

麗華「うるさい!」

と、電話を切り、携帯電話の電源を切ってしまう。彼女の家には固定電話はしいていなかった。普段不在にしていることが多いので、固定電話を敷いても料金がもったいないだけなのであった。麗華は、その日娘とは顔を合わせることはなかった。

杉三の家。

食事をしている杉三と蘭。

インターフォンがなる。

杉三「あれ、宅急便でも来たか。」

蘭「それにしては遅くないか。」

杉三「最近は、かなり遅くなっても来るぞ。」

声「おーい杉ちゃん。」

蘭「華岡だ。」

杉三「どうしたんだろうね。」

蘭「言われなくてもわかるよ。また長風呂だ。」

断りもなく、部屋の中に入ってくる華岡。

杉三「どうしたんだよ。」

華岡「ちょっと風呂を貸してくれ。」

蘭「どうせお前が来るんなら、またそれだよな。」

華岡「仕方ないだろ。独身男のマンションにある風呂は、窮屈すぎて全く寛げないんだぜ。」

蘭「だったら、銭湯へ行けば?」

華岡「金がかかりすぎるよ。それに、銭湯というよりレジャー施設だろ、あそこは。それに、何しろ暑くてたまんないよ。臭い汗ぐらい流させろ。」

蘭「男のくせにきれい好きなんだな。」

華岡「そんなことは関係ないの。じゃあ、借りるぜ。」

杉三「いいよ。ゆっくり入んな。」

華岡「ありがとな。」

と、勝手に風呂場に行ってしまう。

杉三「その間に食べよう。」

蘭「うん。急いで食べたほうがいいね。」

杉三「この後、何が待っているか、大体想像つくからな。」

蘭「そうだな。」

杉三「急ごう。」

風呂場から、華岡がでかい声で斎太郎節を歌っているのが聞こえてくる。

急いで食事をしてしまう杉三と蘭。食べ終わると、杉三は冷凍庫から、冷凍しておいたカレーを取りだして、パックごと湯せんにかける。電子レンジの操作はできないので、カレーの解凍は、常に湯せんなのである。蘭はその間に食器を流しへもっていって、そのあと、雑巾でテーブルを拭く。カレーばかり作っているので、冷凍庫の中は、余ったカレーを大量に冷凍しているのである。

杉三が、カレーを解凍して、ご飯も新たに炊きなおししても、まだ華岡は風呂に入っていた。

蘭「全く長いな。ご飯が炊きあがるまで入ってる。杉ちゃんは時間短縮モードをしないから、少なくとも、一時間はご飯を炊いていることになるな。」

ご飯を器に盛り付けて、カレーをかけたころ、華岡がやっと風呂から出てきた。

華岡「あーあ、久しぶりに、気持ち良い思いをさせてもらったぜ!これでやっと、粗末な風呂から、解放されたってもんよ。」

蘭「もう、何分風呂に入ったら気が済むんだ?一時間近く入っていたな。」

華岡「いいじゃないか。それより、風呂から出たら、何か食べさせてくれ。もう、この一週間カップラーメンしか食べていない。」

杉三「それを言うと思って、カレー作っておいた。ルーを新しく買ってこなかったので、前に作った冷凍だけど、それでよろしければ。」

華岡「おう、冷凍でもOK!それでいいってことよ!独身男には、冷凍でも十分な栄養がえられるぞ。」

杉三「まあ、そこに座ってくれ。じゃあ、カレーを食べて。」

華岡「おう、ありがとうな。」

どさどさと椅子に座る華岡。

杉三「はい、カレーどうぞ。」

皿が目の前に置かれると、かぶりつくように食べ時始める。

杉三「いただきますくらい言ってよ。」

華岡「すまんな。一人ものだから、壁に向かっていただきますを言っても、つまらないので、いつも口にはしないのさ。それに、カップラーメンにいただきますをいう事はあまりないだろう。」

杉三「でも、カップラーメンだって食べ物なんだから、いただきますくらい言うべきなんじゃないの?」

華岡「そうだなあ。杉ちゃんみたいにすぐに食べ物への感謝ができればいいのになあ。」

杉三「と、いうより当たり前のことだ。」

蘭「で、用件は何なんだ。お前のことだから、すぐに長い身の上話を始めるだろう。僕らも忙しいんだから、手っ取り早く言いな。明日も、彫るお客さんいるんだから、なるべく早く家に帰るよ。」

華岡「そうか。お前も忙しいな。体に気をつけろよ。彫るのって、結構体力要るんだろ?」

蘭「だから、そういうこと言う暇があったら早く身の上話をしてくれ。」

華岡「すまん。実は今日、とんでもない親子と話をしたんだ。」

杉三「へえ、どんな感じなの?」

華岡「なんでも、今は、片親家庭は多いのだが。母親と娘だけの家庭なんだ。娘は、高校を辞めて以来、犯罪組織に手を染めたことも少しあり、そのせいで母親が、まるで座敷牢のように娘を閉じ込めている。悲観した娘は、時折家を脱走して、自殺を図ることがある。今朝、まさしくそれがあって、富士駅近くの踏切で立ち往生しているのを発見された。俺たちは、身柄を確保して、母親に引き取りを求めたが、母親は応じなかったんだ。」

蘭「まあ、今そういう親は多いよな。まず、困るよな。まるで自分が被害者であるような顔をして。」

華岡「そうだろう!本当は責任とってもらいたいんだけどさあ!それができないで逃げてしまうようなものだ。」

蘭「父親がいてくれたら、そういう役目を担うことができるが、母親はもともとその役割には向かないって、テレビでもさんざん言っているよな。本当は、よほどのことがない限り、両親揃っているほうが幸せになれるんだけど。」

華岡「そうなんだよ!彼女もまさしくそうだ。なんでも、夫とは、離婚したというのさ。自分の芸道に無理解で、かえって邪魔な存在になるから、養育費だけもらって離婚したという。」

蘭「それってある意味ずるいような、、、。」

華岡「そうなんだよ!女はそういうところは得をするようにできているからね!全く、そのうち男っていうのは、子種と、金の製造マシーンにしかならなくなる時代も、そう遠くないかもしれないぞ!」

杉三「とっくになってるよ!その被害者は誰なのか、全く気が付かないでな。で、その娘さんはどうしている?」

華岡「とりあえず、池本クリニックにひきとってもらったよ。他に、親類もいないようだし、彼女が信頼できる友人も誰もいないようだからねえ。」

杉三「そうか。そうなるか。精神科もある意味、現代版座敷牢と言えそうだな。」

華岡「まあなあ、、、。とりあえず、俺たちにしてみれば、安全なところにいてもらわないと、これからの捜査に支障も出る。警察なんて、次から次へと事件の次々販売をさせられているようなものだから。一個解決したと思ったら、すぐにまた次がやってくるものね!」

蘭「大変だね、お前のところも。で、そのお嬢さんは、とりあえず医療保護入院では、保護者とかそういう人の許可が必要だよね。その許可は出てるのか?」

華岡「とっくに出てるよ。むしろ、待っていましたと言わんばかりだった。」

蘭「なるほど、、、。これでは、解決なんて永久にしないよね。」

杉三「その娘さんの名は?」

蘭「僕らが手を出すことじゃないよ、杉ちゃん。」

杉三「そうかな。誰も寄り付かないほど、寂しいことはないぞ。」

蘭「何ができるのさ。もう、保護入院になってしまえば、面会なんてできないよ。」

杉三「そうじゃないかもしれないから。僕らも、池本クリニックに通っているんだし。偶然会うかもしれないじゃない。」

蘭「どうしてそういう発想になるのかなあ、杉ちゃんは。」

華岡「いや、杉ちゃんの話は、俺たちにとってはぜひやってもらいたいことだ。それによって、捜査に必要なものが見つかるかもしれないからな!」

蘭「お前はすぐそれだ。」

華岡「いいじゃないか。捜査に協力してくれているんだぜ。よし、教えよう。彼女の名は、水野清華だ!」

蘭「水野清華?なんか聞いたことある名前だな。」

杉三「華岡さん、もしかしたら、彼女の親というのは、水野麗華?」

蘭「どうしてそんなことがわかるんだよ!」

杉三「いや、何か直感でさ。」

華岡「まさしくその通りだ。水野麗華だよ。あの高慢な箏の演奏家として名をとどろかせている!」

杉三「やっぱりね。有名人の娘ってそうなりやすいよ。親が経済力あるから、ちょっとした喧嘩で離婚してさ、親は好き勝手してるけど、娘の方は本当に傷ついているんだぜ!ほんと、大人というものは、偉くなると、わがままになるんだねえ!」

蘭「それより杉ちゃんがどうしてわかってしまうのかがすごいよ。理論も何もなく。」

杉三「いや、これまでそういうパターンはよく見てきたじゃないの。」

蘭「どこで?」

杉三「製鉄所に行けばわかる。」

蘭「杉ちゃんは、本当にへんなことばっかり見てるんだな。視点がずれているというか、なんというか、、、。」

華岡「それは、俺たちとは違う視点ができるという事じゃないか?」

蘭「そうだな。」

杉三「まあいい。今度池本クリニックに行ったときに、会えるかもしれない。会えたら、話しかけてみよう。」

華岡「ある意味すごいぞ。」

蘭「確かに。」

と、一つため息をつく。


数日後。池本クリニック。

正面玄関から、病院内に入る杉三と蘭。

また、待合室に行くと、たくさんの人が待っている。

杉三「また、こんなにたくさんの人が待っているな。」

蘭「前より増えた気がするよ。」

杉三「僕らは座ったままだからいいが、立てる人は、疲れるだろうな。特に精神科のひとは、怪我もないのにダメージは大きいから、余計に疲れるだろうよ。」

蘭「本当だね。そう考えられる杉ちゃんもすごいよ。」

杉三「いや、馬鹿の一つ覚えだ!」

蘭「すごい一つ覚えだよ。」

声「杉ちゃん。」

杉三「へ?」

後を振り向くと、友助がいる。

蘭「ああ、友助さん。なんかこないだよりさらに顔色がよろしくなってきたようで。」

友助「ええ、おかげさまで、一人で病院にも来れるようになりました。家族同伴から卒業したのかな。今は、診察も、薬を少しもらってくるだけになりましたし。」

蘭「そこまでよくなったんですか。」

杉三「で、若きヴァニュハル君、新しい曲はどうしたの?」

友助「時々、書いてます。その程度です。」

杉三「なんだ、もったいないじゃないか!」

友助「ええ。今は資格試験の勉強もしているので。なかなか曲はかけません。」

杉三「そうか。その苦労も曲にしてしまえたら、本当に作曲家の域に到達したことになるな。」

友助「まあ、そういう事もありますが、音大を出たわけじゃないので、そういう仕事はできないなと思います。」

杉三「ゴドフスキーは、音楽学校を三か月でやめている。だから、学歴なんて必要ないの!大事なことはね、あきらめずに続けていくことだよ!」

友助「杉ちゃんは、本当に音楽のことなら、何でも知っているんですね。」

看護師「あの、すみませんがね。ここはデリケートな患者さんもたくさんいるんですから、そういう話は、病院の外で話してくださいませ、杉様!」

杉三「なんだ、今いいところだったのに!」

看護師「だから、そういう話をうんと嫌う患者さんもいるんです。」

杉三「わかったわかった。とりあえず、中庭へ出るか。」

蘭「うん、呼び出されるまでには、まだ二時間近くかかるだろうよ。この込み具合では。」

杉三「そうしよう。じゃあ、中庭に出よう。」

三人、病院の中庭に出る。一種の植物園のようになっている中庭。

中庭を少し歩いて、小さなベンチの前へ出る。

蘭「友助さん座ります?」

友助「いや、大丈夫ですよ。」

杉三「でも、立ったままというのもおかしいんじゃないの?」

友助「そうですね。じゃあ、座らせていただきます。」

ベンチに腰を下ろす。

と、病棟のドアが開き、看護師に連れられて、若い女性が現れた。ツインテールの髪を三つ編みにし、何かおどおどしている感じもあり、別の意味では何か怖がっているような雰囲気もあった。

看護師「中庭を歩いてみましょうね。いつまでも閉じこもっていくわけにはいかないと、先生もおっしゃっていたでしょう。ここは、いつまでもいられるところじゃないのよ。」

彼女は、従順に中庭を歩き始める。

看護師「もう法律も変わったのよ。ここにいつまでもいてはいけないということになったの。だから、できるだけ外に慣れて行きましょうね。」

そうやって、だんだんに杉三たちの方へ近づいてくる女性。

蘭「かなり重症だったんかな。」

杉三「若いのに、たくさん傷ついているんだろう。若いということは傷つきやすいからな。」

友助も、彼女を見つめる。

看護師「みな、悪い人たちじゃないわ。ここに来ている人たちは、怖い人たちではないのよ。」

優しく説明してくれているが、彼女は、本当に怖がっているようだった。

看護師「大丈夫よ。」

しかし、杉三たちの前で彼女は止まってしまう。

杉三「やあ、こんにちは。僕は影山杉三だ。そして、こっちは僕の親友の伊能蘭と、市川友助君だよ。」

びくっと反応する女性。

杉三「安心しな。僕、馬鹿だから、文字を書くことも、読むこともできないんだ。だから、君の話を聞いても、すぐに忘れちゃうの。安心していいよ。」

看護師「もう、杉様、いきなり話しかけないでください。余計に怖がるかもしれないじゃありませんか。」

杉三「でも、思いがけない出会いに慣れさせておくことも大切ではないでしょうか。」

看護師「それは健康であればですよ。彼女はそうはいきません。」

杉三「偽桃源郷にいる間はそれでいいかもしれないですけど、現実の世界はそうはいかないでしょう。いずれは、彼女もそうなるんだから、今から話しかけたっていいんじゃないの?」

蘭「あんまり議論すると、彼女がかわいそうだぞ。」

杉三「うるさい。だって、いずれは、現実で暮らしてもらわなきゃならないじゃないか。」

蘭「ここは、製鉄所さえも来れない人がいるんだぞ。」

杉三「そんなこと関係ないの!」

看護師「二人とも、そんな出口の見えない漫才はやめて、もう外来棟に帰ったらどうですか?」

杉三「でも、あっちは、深刻な顔して待っている人が大勢いるよ。」

杉三たちが、こんな話をしている間に、女性は友助と目を会わせた。友助も彼女の方へ眼を合わせ、にこ、とほほ笑んだ。

それが彼女には衝撃的だったらしい。少し考えて、結論を出すのに時間がかかった。

彼女は戸惑った笑顔で、微笑み返した。

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