第25話 みんな

「いたぞ!」

 大声。

「こっちだ!」

 懐中電灯の光が、合図の円を描く。



「ミ…。」

 揺すられる。

「ミサ…!」

 あれ? お母さんの声?

「ミサキ!」

 やっぱり、お母さんだ。


 目を開くと、お母さんの顔があった。

「どうしたの? お母さん。」

 その目には涙が溢れていた。

「心配したんだからね。」

 喜んでいるのか、怒っているのか判らない複雑な表情。


「あれ? 皆は?」

 キョロキョロと辺りを見る。

「あれ? 真っ暗…。」

 驚いた。いつの間に、時間が…。


「皆って誰?」

 お母さんが、涙を拭いながら聞いた。

「ウサちゃんとか、ケンちゃん…。」

「誰? それ。」

 ふと、右手に当たる冷たい感触。あの宝箱だった。

「これ、貸してくれたの。」

 宝箱をお母さんの前に持ち上げた。

「何これ?」

 受け取ったお母さんは、宝箱を開けた。


 今でも覚えてる。宝箱を覗き込んだお母さんの顔を…。

 忘れていた大切なものが、一気に蘇った顔。

「これって…。」

 そう言うと、箱の裏を見た。そこには、【ミサコ】と書いてある。

「やっぱり…。」

「知ってるの、お母さん。」

「うん。」

とだけ言い、立ち上がっり、

「本当にすみませんでした。」

 周りにいた大勢の人達に頭を下げた。


「見付かって良かった。」

「本当に。」

 周りの人達も安堵した。


 私は、知らない大人の人におんぶされて広場を出た。


 お母さんは、広場を出る時に振り返り、

「皆。ありがとうね。」

と、頭を下げ、

「ごめんね。皆、来れなくて。」

 謝った。



『また、おいで〜。』

『また、遊ぼうぜ。』

『またね〜。』

『またな。』

『またね。』

 確かに聞こえた、皆の声。私も振り向くと、そこには…。


 手を振る皆がいた。


 たぶん、お母さんにも見えてたと思う。



 それは、夏の暑い日の思い出。


 楽しかった昔の遊び。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遊び ノザ鬼 @nozakey

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ