第10話 社

 たぶん、森の中を歩いているんだろうけど、よく分からない。男の子はスタスタ行くし、付いていくのがやっとだ。


 あっ! そんな所通らなくても…。


 男の子が茂みと茂みの間に割って入り、見えなくなった。

「はぁ…。」

 子供なのに、ため息って…。


 覚悟して、追い掛けた。


 小枝に引っかかりながら、抜けた先は開けた場所だった。


「おーい。」

 男の子が呼び掛けると、小さな建物の前に集まっていた子供達が一斉にこっちを見た。全員の服装は、やっぱり昔の感じだった。


「遅〜い。ケンちゃん。」

「遅いよ。」

 等と言いながら、向かって来た。


 やって来た子供達の中の一人の男の子が、私に気が付くと、

「誰? その…」

と、言いかけたのを遮り、

「ミサちゃん!!!」

 女の子が大声で、

「久し振り、髪型が変わったんだね。」

 その一言をきっかけに、

「本当だ! ミサちゃんだ!」

「髪型変えたんだ。」

「久し振りだね。」

 子供達は口々に、久し振りの再開を喜んだ。


 凄い、言い出し難くなってしまったけど、

「あのぉ…。」

「何、ミサちゃん。」

 最初に言い出した女の子。

「私、ミサキなの…。それに、あなた達と会うのは初めて…。」


 女の子は残念な様な、からかわれているような複雑な表情で、

「ケンちゃん。どういうこと?」

 ここに連れて来てくれた男の子に言った。

「この子は、ここに来る途中で寝てたんだ。」

 寝てた訳じゃ無いけど。

「最初はミサちゃんかと思ったけど、オラの事しらないみたいだったから…。」

「そうなんだ…。」

 子供達全員に広がる失望感。申し訳なかったけど、後で知るよりは良かったと思う。


「ウサちゃん…。」

 連れて来てくれた男の子…、面倒だからケンちゃんで良いか。

「何、ケンちゃん?」

 私を最初にミサちゃんって呼んだ女の子。こっちもウサちゃんって呼ぶね。

「怪我してるから、手当てしてやって…。」

 改めて私を見て驚くウサちゃん。

「なんで、早く言わないの! ケンちゃんはもう…。」

「いや、あの…。」

 ウサちゃんに睨まれたケンちゃんは、

「ごめん…。」

とだけ…。


「ミサキちゃんは、こっち来て。後の皆は分かってるわね。」

「うん!」

と、森へ散った。



 連れて行かれたのは、最初に皆が集まっていた小さな建物(?)…小屋(?)の所。よく見るとあちらこちが朽ちていた。本当は小屋じゃくて[社(やしろ)]だった。


「そこには座ってて。」

と、ウサちゃんは小屋の裏手に消えた。


 直に戻って来たウサちゃんの手には濡らしたタオル(?)が握られてた。

 これも後で知った、タオルじゃなくて、[手ぬぐい]だって。


 ウサちゃんは直に私に付いていた泥を拭き始める。

「痛いところは無い?」

「擦り剥いたところが痛いぐらい。」

「判った。」

と、続けた。


 小屋の裏へ行き手ぬぐいを濡らす、私を拭くを繰り返した。


「あったよ〜。」

 森から皆が帰って来た。


「ありがとう。」

 ウサちゃんは皆が持って来た葉っぱを受け取った。


 そして、

「これを、こうして…。」

 葉っぱを両手で揉み、磨り潰す。そこからの青い匂いが、鼻を刺激した。


「よし、良いでしょ。」

 手を開くと、葉っぱの団子。

「ミサキちゃん。ちょっと我慢してね。」

と、団子から出た青い汁を傷口に塗り込む。

「しみるぅ!!!」

 思わず上げた声が、面白かったようで皆が大声で笑い始めた。

「笑っちゃ駄目でしょ。」

 ウサちゃんが皆を怒ったが、本人も笑っていた。


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