第123話 突入

「これは以前、建物の周辺を赤外線カメラで撮影したものです。この写真から見ると、この北側にある辺りが熱が高いようです」

 アリストテレスさんがタブレットを示しながら説明した。

「現在地は、どこら辺りだろう?」

 俺の疑問にはアロンカッチリアさんが答えた。

「今は北側から掘って来て、現在地はこの南側にいるから、若干戻った辺りでいいだろう」

 アロンカッチリアさんの指示で俺たちは、トンネルを戻った。

「この辺りだと思うが…」

 アロンカッチリアさんが示す所を上に向かってトンネルを掘る。

 すると50mぐらい掘ったところで、床にあたった。

「エリス、この上の部屋を鑑定してくれ」

 言われたエリスが床に向かって手を翳す。

「この上の部屋の温度は約50℃あるわ。それと放射線が10Sv/hあるから、このまま部屋に出ると、危ないわ」

「しかし、核分裂電池だって、正常動作しているなら放射線は強くないだろう」

「何か事故があったんじゃないかしら。それで人が大量の放射線を浴びて、死亡した。さっきの人がそうじゃないかしら」

 エリスの説明は、辻褄が合う。そうだとすると、直ぐにこの上の部屋に出るのは危ない。

「すると、環境へも放射能が漏れ出るかもしれない。直ちに対応する必要がある」

「放射能漏れを口実に、この建物に捜査をかけましょう。公害ですから、立ち入りは可能です。ゴウの部隊を使いましょう」

 俺たちは直ちにその場から、エリスの転移魔法でキバヤシ商事の事務所に転移し、シードラに事情を話した。

「分かりました。直ちにセントラルシティに連絡します」

「この通話は傍受されている可能性が高い。極地探検車の通信装置を使おう」

 俺は携帯端末で極地探検車に待機しているクラウディアに連絡をする。クラウディアはそれをセントラルシティに連絡したので、今頃は軍基地の輸送機が離陸準備をしている事だろう。

 それと同時にゴウの部隊に命令が発せられた。ゴウの部隊は戦車と化学処理車で郊外にある建物に向かう。

 もちろん、放射線測定器も持参している。

 ゴウの部隊は全員が防護服を着て、マスクを装着しているが、防護服で放射線は防護する事が出来ない。

 なので、捜査する方も危険が伴う。だが、それを見越して訓練をして来たのだ。

 俺たちも防護服に身を包み、マスクをしてゴウの部隊に加わっている。


 ゴウの部隊は、不審な建物の正門に来た。ここでも既に放射線量は通常の10倍くらいある。

「ここを開けろ、労働基準法、労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則違反で捜査する」

 憲兵が捜査令状を提示した。すると、警備員らしき者が応対する。

「何かのお間違いではないでしょうか?我々のところは、そんな法律に違反した覚えはありません」

「これを見ろ」

 放射線測定器を見せると、その数値が何を物語っているか、警備員は直ちに理解したようだ。

「お、お待ち下さい」

 警備員はインターホンでどこかと連絡をしているようだが、連絡がつくまで、待っている訳にはいかない。

「直ちにここを破って、中に突入する。いいか、放射線量に注意しろ」

 ゴウが叫ぶと、それがマスクに内蔵されたトランシーバを通して聞こえた。

 戦車を先頭に建物の入り口に向かう。

「あっ、ちょっと待って…」

 警備員が引き留めるが、それにはお構いなしで進む。建物の入り口は厳重な扉があり、人の力では動きそうもない。

「よし、戦車の砲撃で突破する。撃ち方用意」

 ゴウが指示すると、戦車の砲塔が扉を向いた。

「撃て!」

「ドーン」

 扉が破壊された。そこから中に入ろうとすると、中から、銃弾が飛んで来て、戦車に当たった。

「チーン」

 それを見たゴウが指示をする。

「もう一度、撃つぞ。撃て!」

「ドーン」

 今度は建物の中に向かって、砲弾が放たれた。

 すると、建物の中からの銃撃が止んだ。俺たちは戦車に続き、建物の中に入った。

 中に入ると、銃撃した兵士だろうか、血を流して死んでいる。

 砲弾は中の機械も破壊したようで、中もめちゃめちゃになっている。

 放射線測定器を見ると、建物の中は放射線量が高い。やはり、放射線が漏れる事故があったようだ。

 建物の奥を見ると、いくつものタンクのような機械がある。あれが恐らく遠心分離機だろう。

 今は電気が止まっているので、遠心分離機も動いてはいない。

「よし、ドローンを飛ばせ」

 ゴウの指示でいくつものドローンが飛び立った。

 操縦している者の中には、ミスティとミントも居る。

 ドローンは建物の隅々まで飛んで行って、放射線量を測定し、リアルタイムで送ってくる。

 ドローン3号の方の線量が高いようです。

 操縦していたミントが報告してきた。

 どうやら、そこの奥に事故を起こした核分裂電池がある部屋のようだ。

 だが、今更そこを壊しても仕方ない。反対に壊すと漏れだした放射能が環境に出る可能性もある。

「では、ドローン3号の方には近づかずに、建物内を捜査。爆弾らしく物を探し出せ」

 隊員が、放射線測定器を身に着け、建物の中の四方に散った。

 しかし、従業員1000人と言われた建物の中にしては、人が少ない。

 先ほどの銃撃してきた警備兵以外の人は見当たらない。

「陛下、ナルディ・キロルを逮捕しに行った憲兵から連絡が入りました。ナルディは既に逃走した模様です。

 現在、憲兵隊が家宅捜査を行っていますが、ウラン爆弾に関する証拠は見つかっていません」

 ナルディは優秀な人物だ。今更、証拠を残しているとは思えない。

「セントラルシティに連絡し、衛星画像からこの地から出る車輛を洗い出せ。それと、道路、空路、鉄路を直ちに閉鎖」

 ゴウが次から次へと指令を出す。

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