第122話 電力製造方法

 俺の言葉に全員の動きが止まった。

「なんだって、ここで爆発実験をするというのですか?」

 アリストテレスさんが声を抑えつつ聞いてきた。

「もし、ここで、核実験などしたら、イリシーゲルの街はどうなるか分からないぞ」

「アロンカッチリアさん、急いでこの坑道を塞いで貰えないですか?」

「あ、ああ、そういう事なら塞ごう」

 アロンカッチリアさんが土魔法で坑道を塞いで行くが、穴がかなり深いので、そう簡単には塞がらない。

 ミュとネルも強力しているが、それでも作業は進まない。

 そうこうしている内に上の方で何か音がする。その音を聞いて俺たちは一旦、アロンカッチリアさんが掘った穴に身を隠した。

 すると、何か上から落とすようだ。

 爆弾だとまずい。

「マリン、ポセイドンさま、ここに水のクッションを出して貰えますか?上から落ちてくる物をキャッチしたいです。

 もし、爆弾だったら起爆装置を外せば爆発は起こりません」

 マリンとポセイドン王が協力したウォータークッションが坑道に現れた。

 その瞬間、上から何か落とされた音がする。

 落ちて来た物体はウォータークッションに捕らえられると、そこに留まったが、爆弾ではない。人間だった。

「人だわ。助けないと」

 ラピスが言い、近寄ろうとするのを俺が止めた。

「待て、何かおかしい。エリス、この人間を鑑定してくれ」

「エキストラサーチ」

 エリスが手を出して鑑定する。

「これは…、」

「何だ、どうしたんだ?」

「所々、皮膚が破れているのは怪我じゃない、放射線火傷よ。被ばく量は10Sh/hを超えるわ。即死の状態ね」

「我々の被ばくの危険は?」

「今は水の中なので、水の遮蔽効果のおかげで、私たちへの被ばくはほとんど無いわ。だけど、水から出すと危険よ」

「仕方ない、このまま坑道の底に落とそう」

 マリンとポセイドン王は遺体を水のベールで覆ったまま、坑道の底に落としていった。

「ここは、遺体の捨て場だったのでしょうか?」

 ラピスが聞いて来るが、そうではないだろう。

「いや、爆弾を落として、その時に処分するつもりだったのだろう」

「なんと、酷い事をするんじゃ。とても人間とは思えん」

「そのとおり、ご隠居さまの言うとおりだ。我はこのまま、この上の建物を壊しても良い」

「ここを壊すのは簡単です。しかし、ここに爆弾があるとは限りません。もし、爆弾の製造が完了して、それがエルバンテ首都に既に持ち込まれいたら、それこそ一大事です。

 ここは、情報を収集して、確実に爆弾がないと分かったら、潰す事で良いでしょう」

 アリストテレスさんの言う事は最もだ。

 万が一、もし爆弾が完成していて、それが既にエルバンテ首都のセントラルシティで爆発されたら、大変な被害になる。

 爆発させなくても、それだけで、住民を人質に出来る。ここは情報を得る事を一番に考える事だ。


「こうなると、是か非でもここの穴の上に出たいな」

「しかし、上には人が1000人居るからな、出た途端に見つかるぞ」

 アロンカッチリアさんが言うが、その通りだろう。

「一瞬、停電でもしてくれないかな」

 俺が言った言葉に反応したのはアリストテレスさんだ。

「そう言えば、ここに変電設備はありませんでした。ウラン濃縮をするとなると莫大な電力を使いますが、その電気はどうやって作っているのでしょうか?」

 俺たちは目を合わせた。たしかに、ここの電力はどうしているのだろう。

「ディーゼル発電機を使うなら外に燃料タンクが必要ですが、それも見当たりませんでした。屋上に太陽光パネルを設置したとしても、それだけで、この規模の工場の電気は賄いきれません。後は、魔石発電か原子力発電しか…」

「だが、原子力発電は作った蒸気を冷やすために大量の水が必要だ。この地ではそんな大量の水は確保できない。

 そうなると、後は魔石発電しかない」

「ですが、キバヤシ電機やキバヤシ電力は魔石発電技術を外に出さないでしょう」

 俺とアリストテレスさんは、頭を抱えた。

「エリス、俺たちが今言った以外に電気を得る方法はあるか?」

「ひとつだけあるわ。核分裂電池を使うのよ」

「核分裂電池?」

「原子力発電なんかは一度熱エネルギーを取り出し、蒸気を作ってからその蒸気で発電機を回すことによって、電気を作っていたわ。

 でも核分裂電池は発電機を使わない電池なのよ」

「でも、どうやって電気を作れるんだ?」

「電気が電子の動きによって、流れるって知っているわよね」

 いや、知らん。初耳だ。

「核分裂電池はウランを負極であるエミッタに使って、そこから出る核分裂片を正極にしたコレクタに当てる事によって、4MeVもの莫大な電力を生むことができるわ」

「エリス、それって俺の時代にもなかっただろう」

「いいえ、原理だけはあったわ。でも、まだ原理までの段階だった。それが、この時代にはそれを作っていたということね」

 この時代は俺が居た現代より、文明が進んでいる事になる。

 10数年前に中世のような暮らしをしていたのが不思議になるほど、文明の発達が著しい。

「その核分裂電池を実用化して、電力を作っているというのか?」

「それしか考えられないわ」

「まずは、その核分裂電池を壊すのが先決か」

「だけど、核分裂による放射線が出るわ。下手に壊すとその放射線が漏れる事になる」

「すると、どうやって壊すんだ」

「ウランだけなら、中性子が出ていてもそれほどの被ばくがないから、電池からウランだけ抜けばいいのよ」

「よし、では、まずはそのウラン電池がある場所を特定しよう」

「でも、どうやって?」

 ラピスの言葉に全員が首を捻る。

「核分裂電池だって、排熱が出るだろう。この建物をサーモカメラで撮影すれば、排熱の大きいところが分かる。そこが発電設備があると思っていいだろう」

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