第121話 不明になった貴族たち

「そのとおりです。ナルディが行方不明となっている貴族と関係しているのか、どうかは現時点で分かっていません。彼の家族については、親は既に亡くなっていますが、長男と妹二人はクーデターの際に行方不明になったままです」

「その者たちの年齢は?」

「長男はナルディより3つ年上でしたので、現在、40歳です。妹二人はそれぞれ、35歳と33歳です」

「ナルディの家族は?」

「家族はいません。独身です」

「兄弟も独身でしょうか?」

「長男は結婚していましたが、クーデターの際に、妻と幼い子供二人が遺体となって見つかっています。死亡原因は刺殺です。

 妹二人は当時は、まだ未婚でしたが、長女の方は同じ貴族の家と婚姻が決まっていたそうです」

「それで、何故ナルディだけがクーデターの影響を受けなかったのだろう?」

「彼は次男でしたから、どこかの貴族の家に婿に行くしかなかったと思われますが、何故か官僚試験を受験しています。

 その点、目先が利いたのか、それとも何か意図があったのか、現時点では不明です」

 アリストテレスさんの説明は、ここまでだった。ここから先は調べ切れていないという事だろう。

「代官って、シンヤさまが任命するのですよね。だったら、シンヤさまが解任すれば良いだけの問題じゃないの?」

 アリストテレスさんの説明を聞いていた、エリスが聞いてきた。

「一度、任命したからには、何か不祥事がないと解任できない。しかも、証拠がなく、怪しいというだけでは、なかなか難しいだろう」

「エリスさま、そうじゃよ。気分で解任して、何もなければ、国民の不満を買う。しかも、そのナルディという者はこの地で不手際がないのだろう。だったら、尚更、解任は難しいだろうじゃて」

 エリスの言葉に、ご隠居さまが答える。

 その横にいるポセイドン王も、ご隠居さまの言葉に頷いている。

「その時の貴族の資産が、あの建物に使われている事に間違いはありません。しかも、その資産は莫大だったのですから、資金的には十分でしょう」

「その時に仕えていた者たちの行方は、分かっていますか?」

「実は、それも分かっていません。総勢1000人にもなる人が消えてしまいました」


「それで、陛下はどうしますか?」

 アリストテレスさんが聞いてきた。

「アロンカッチリアさんに協力して貰おうと思っている。だから、ここに来て貰った」

「へっ、俺か?シンヤよ、また、俺を使うつもりだな」

 エルバンテ帝国の皇帝をシンヤと呼び捨てにする人は、この人しかいない。

 俺も、この世界に来て散々世話になっているアロンカッチリアさんには、頭が上がらない。

「キバヤシ商事が有している鉱山からあの建物の下にトンネルを掘って、直に乗り込んでみるしかないでしょう」

「はは、かなり、力技ですね」

 アリストテレスさんに笑われてしまった。

「ですが、それしかないでしょう」

 アリストテレスさんも同じ考えだったのだろう。

「……、分かった。そのウラン爆弾ってのが現実だとすると、大変な被害になるだろうから、ここはシンヤの指示に従おう」

「私も手伝います」

 そう言って来たのはミュだ。

 アロンカッチリアさんほどではないにしろ、ミュも土魔法が使える。

「あら、私も手伝うわ」

 ネルも土魔法を使う事ができるので、手伝ってくれるようだ。

「あと、マリンにも頼みがある。もし、あの建物でウラン爆弾を製造しているとなると、それを潰す必要がある。その時にアロンカッチリアさんが作ったトンネルから地底湖の水を通して、あの建物を潰して欲しい」

「でも、私だけの魔法じゃ、あの地底湖の水を全て操るのは無理。あの地底湖って奥がかなり深いもの」

「それなら、我が手を貸そう。可愛い娘とその婿のためだ。父親である我が力を貸さずにどうするか」

「義父上、ありがとうございます。その時は、お力添えをお願いします」

「その時は、ノイミにも頼みましょう。人が多い方が効果があると思います」

 作戦は決まった。シードラに連れられ、地底湖のあった処に移動し、アロンカッチリアさんが土魔法でトンネルを作って行く。

 相手の建物に侵入できればいいので、そんなに大きなトンネルはいらないが、それでも、街の外れから、街の外れまで横断するトンネルを掘らなければならないので、かなりの日数がかかる。

 土魔法の使い手であるアロンカッチリアさんといえど、その作業は楽ではない。それに1日に使える魔力にも限界はある。

 アロンカッチリアさん、ミュ、ネルが交代でトンネルを掘るが、正体不明の建物の下まで行くには2週間程度かかるだろう。

 アロンカッチリアさんたちがトンネルを掘っている間はする事はないが、相手に察知されてはならないので、あくまで観光客を装うために、あちらこちらに出かけては観光の振りをする。

 だが、一人だけ情報を共有する必要がある。

 夜中にクラウディアが居る極地探検車に転移し、クラウディアにウラン爆弾の事と不審な建物の事を話した。

 クラウディアはスクランブル機能をかけられる情報端末を持っているので、それで俺たちは会話できるが、どこに盗聴器があるか分からないので、簡単に連絡はしないように言う。

 だが、いざとなれば極地探検車は有力な武器となるだろう。

 そうしている間に、2週間が経過し、不審な建物の傍までのトンネルが完成した。

 俺たちはアロンカッチリアさんとそのトンネルの先端に来た。

「この上あたりが例の建物になるはすだが…」

「なるはずだが、どうしたのです?」

「いや、この先に既にトンネルがあるんだ。俺は土魔法が使えるからある程度、土の中の様子が分かるんだが、建物から下に延びるトンネルがある」

「では、そのトンネルまで掘って確認しましょう」

 アロンカッチリアが言うトンネルまで掘ってみたが、そのトンネルは縦に掘られており、下の方は底が見えない。トンネル自体は1mぐらいであり、そんなに大きなトンネルではない。

「ここは何か通すための穴だな。人が通って降りるのはかなり無理がある」

 アロンカッチリアさんが言うが、俺は一つ気になっている事がある。

「ここは、核実験用の坑道ではないだろうか?」

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