第116話 不審な建物

 コルネリスは身の安全の事もあるので、裁判も長くなるようにし、その間にウラン爆弾を開発しているグループを潰す事にする。

 コルネリス自体の罪は重くないし、初犯なので恐らく執行猶予ぐらいだろう。それに、アンジェリカが店の主人に賠償をしているので、店の主人からの訴えもない。

 東部で情報収集活動しているアリストテレスさんに連絡を取る。

「そうでしたか、その情報はかなり有益な情報でした。実は、街外れに正体不明の建物があって、それがかなり大きな建物なんですが、何の建物か不明だったのです。

 そこが怪しいのですが、警備も厳重で手を拱いていた次第ですが、今後はそこを重点的に監視するようにしましょう。

 それで、今の人数では足りないので、ゴウの部隊を訓練と称して送って下さい。

 ルルミの部隊からは20人ほど、シードラの会社の従業員として送って下さい」

 アリストテレスさんの要望に沿って、部隊を送る事にした。


 俺は、東部の街イリシーゲルへ派遣される兵士を見送りに駐屯地に行く。

 そこには、ゴウが隊長として指揮を執っている部隊が整列してしていたが、ゴウは既に東部へ行っているため、ゴウに代わって、副隊長のヘンリー・ザンクマンが指揮をしていた。

「陛下、態々お越し下さって、ありがとうございます」

「ヘンリー、スノーノースから態々来て貰って申し訳ない。何分、事情が事情だ。事は秘密で頼む」

「そこは分かっております。いざとなれば、お任せ下さい」

 ヘンリーは引退したザンクマン将軍の次男で階級は少尉だ。

「アシュクも行くのか?」

「はい、ホーゲン隊長から応援に行けと言われましたので、ゴウ隊長にはご迷惑になるでしょうが、こうして出張って来ました」

「いや、アシュク少尉が来てくれるのであれば、こんなに心強い事ない」

 ヘンリーがアシュクの言葉に返礼したような形になった。

「ヘンリーは軍事学校の同級生になります」

「アシュクは入学した時から、剣の腕は一級でしたから、それこそ、大船に乗った気でいますよ」

「いや、ホーゲン隊の中では、まだまだです」

「アシュクの腕で、まだまだなんて、ホーゲン隊の隊員の剣の腕はいったいどれくらいなんだか…」

 そんな話をしていたが、隊列が組み終わったところで、駐屯地に引かれた鉄道の駅に行く。

 この駅は軍専用の駅になっていて、ここから直接移動が出来るようになっている。

 隊員たちは荷物を持って順序良く、列車に乗車して行く。

 今回、軍用列車は使わずに、一般客として、普通の列車で行くことにしてあり、これは、相手の目をはぐらかす目的からだ。

 もし、相手のスパイが居て、軍用列車が出発した事が分かると、相手方に作戦を悟られる事になる。

 列車は途中の街である、サンドロースという街で乗り換える必要がある。ここは昔、シードラたちが資源開発の拠点としていたオアシスの畔にあるが、今では砂漠の中の奇跡と言われるぐらい大きな街になった。

 隊列の中には女性も居る。そのうちの一人には見覚えがある。

「ウェンティではないか?」

「へ、陛下!」

 ウェンティが陛下と呼んだので、周りに居る隊員が全員膝をついた。

「そんな事はしなくていいから、ほら立って」

 俺は膝をついた隊員を立ち上がらせる。

「ウェンティ、君も行くのか?」

「はい、軍事学校を卒業して、この部隊に配属されましたので、今回、初出動です」

 鳥人である彼女は、一般のOLや侍女よりはゴウの部隊に居る方が向いているだろうと思われる。

 移動は全員が私服を着用して行く。ちょっと、見た目には会社の慰安旅行ぐらいにしか写らないだろう。


「3番線からサンドロース行き特急発車します。お見送りの方は黄色い線の内側でお見送り下さい」

 ホームにアナウンスが流れると、列車のドアが閉まった。

「ファン」

 列車は警笛を1つ鳴らすと、静かにホームを離れる。

 ゴウの部隊は東部にあるイリシーゲルを目指して出発した。

「陸亀ホエールや航空隊をいつでもイリシーゲルに行けるように、準備しておいてくれ」

 俺は、陸軍大将の「ソイトキル・キミッド」に指示をする。


 ゴウの部隊を見送った俺は、駐屯地からセントラルシティにある中央指令所に顔を出す。

 黒塗りの車はジェコビッチが運転し、俺の横にはミュ、ラピスが座る。2台目には、ネルとマリンが、3台目には、陸軍大将のソイトキルに、ご隠居さまとポセイドン王が乗った。

 ソイトキルが乗った車を先頭にして、隊列を組んで中央指令所の地下駐車場に入り、隔離された降車場で降りて、直ぐ近くにあるエレベータで、更に地下にあるCICに行く。

 このCICは帝国各地から入る情報を分析し、様々な危機に対応する。

 災害が発生した際も監視衛星を使い、災害場所の特定や避難経路の策定を行うと伴に、現地部隊への指示や支援物資の輸送などあらゆる対応が可能だ。

 もちろん、一番の目的は軍事利用に他ならないが、災害への対応と、軍事利用は表裏一体であることも事実だ。

 俺がCICに入ると、ここに詰めている全員が敬礼する。

「ご苦労、それでは、今までの情報について教えてくれ」

 CIC所長の「メリック・シュア」少将に訪ねた。

 メリックが指示をすると、正面のモニターに衛星写真が映った。

「これが問題の建物です。縦150m、横80mほどある、かなり大きな建物です。しかし、これだけ、大きな建物にも関わらず、窓がひとつもありません。

 それに従業員もまったく見当たりません。当然、何を目的として建てられたのか不明です」

 モニターには白い工場のような建物が映し出されているが、窓は見当たらないし、動く人影もない。

「車とかはどうだ?」

「時々、食材を積んだトラックが出入りしています。運転手を捕まえて、話を聞きましたが、運転手も何かは分からないそうです。

 ですが、食材の量から推定して、少なくとも1000人は居るのではないかということです」

 1000人が働く工場にしては、人の動きが無さ過ぎる。

「どうやら、ここがウラン爆弾に関係すると見て良さそうだな?」

「ほぼ、間違いないでしょう。ですが、この中に入り込めません。出入口が1か所しかないのと、その出入口は常時閉まっていて、そこを開けて入るのはかなり難しいです。

 それに周辺には5mの塀が築かれており、その上には監視カメラを確認しています。

 近くも見張られていると考えた方が良いと思います」

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