第117話 イリシーゲルへの旅

「と、いう訳で土魔法を使えるアロンカッチリアさんに一緒に来て貰いたいのです」

「シンヤは、また俺に無理難題を吹っ掛けるな。まあ、この寄宿舎があるのもシンヤのおかげだし、ミュも幸せにして貰った恩があるから、今更、嫌とは言わないさ。

 それにお前とだと、何かしら面白い事がありそうだしな」

 だから、俺はトラブルメーカーじゃない。

「アロンカッチリアさんが、来てくれるなら百人力です」

「ところで、どうやってその東部のイリシーゲルって街に行くんだ。また、エリスさまの転移魔法でパッと行くのか?」

「いえ、今回は飛行機で行こうと思います。その東部の先のエマンチックという所に新しく飛行場が出来たので、そこまで飛行機で行き、そこからは車で行く予定です」

「ゲッ、あの鉄の塊に乗るのか?大丈夫なんだろうな」

「ええ、ほとんど落ちる事はありません」

「待て、今、『ほとんど』って言ったな。と、言う事はたまには落ちるって事か?」

「まあ、飛んでいる以上は、何らかの不具合によっては落ちますが…」

「それじゃ、今度乗る飛行機が落ちたらどうするんだ?」

「落ちたら、無事では済まないでしょう」

「そんなモンに乗って行けるか」

「いや、必ず落ちる訳ではないですし、落ちるにしても、何憶分の一の確率ですから」

「今回が、その何憶分の一の確率に当たる事だってあるだろう?」

「もちろん、ありますが、ミュも居るし、エリスも居るし、ネルも居るし、マリンも居ますから」

「ミュとエリスさまは分かるし、その新しい妻のネルってのも只者ではないのは知っている。だが、何故、マリンなんだ?」

「海に落ちた時はマリンが力になると思って…」

「……。やっぱ、行かねえ」

「そ、そんなぁ。アロンカッチリアさんが来てくれないと困るんです」

「いや、俺は行かねえぞ」

「それじゃ、最悪の事態になってしまうかもしれません。それこそ、飛行機が落ちる以上に大変な事になるかもしれません」

「そんな事は俺の知った事じゃねぇ」

「そんなぁ…」


「ホホホ、アロンカッチリアさん、ここは手助けしてあげれば良いではないですか?」

 声のする方を見ると、アーデルヘイト司教が居た。アーデルヘイト司教は盲目の司教なので、付き添いのシスターが隣に居る。

「アーデルヘイトさん、どうしてここに?」

「今日は、道徳の授業だったので、臨時講師として来たのです。帰り際に学院長にご挨拶をと思って来たのですが、そしたら、お二人のお声が聞こえて来たので、聞いておりました」

「立ち聞きですか?」

「立ち聞きしなくても、向こうまで聞こえていましたよ」

「そんなに大きな声で話していたとは、思えねぇがな」

「飛行機が嫌なら、鉄道でも車でもいいじゃありませんか?」

「は、はあ」

「そうだ。鉄道で行こう。だが、イリシーゲルまではかなりかかるんだろう?」

「途中のサンドロースで乗り換えて、4日ですね」

「4日か、まあ、それぐらいは仕方ないか。よし、鉄道で行こう。

 と、言う訳で、エルザさん、ちょっくら行ってくらあ」

 今までの話を傍らで聞いていた副学院長のエルザさんが顔を上げた。

「はい、はい、どうぞ、いってらっしゃい」

「エルザさん、すいません。アロンカッチリアさんをお借りして」

「まあ、学院長はさほど戦力にはなりませんから、問題ありませんよ」

 アロンカッチリアさんの仕事は、花壇の整備ぐらいだからね。


 翌日、セントラル中央駅に行くと、アロンカッチリアさんの他にアーデルヘイトさんと付き人のシスターも居る。

「アーデルヘイトさん、お見送りですか?態々、すいません」

「いえ、私たちもご同行します」

「「「「「「えっー」」」」」」

 俺と嫁たちが一斉に声を出した。

「アーデルヘイトさん、大丈夫ですか?」

「私の目が見えない事を言っているのなら、それは私に対して失礼ですよ」

「そうですね、すいません」

「では、一緒に行きます」

「はあ、はあ、お待たせ」

 来たのは、ミスティとミントだ。

「ミスティとミント、何だ?」

「私たちも一緒に行くの。エルバルト提督に話したら、『是非、行ってこい』って言ってくれたの」

 だから、それは単なる邪魔者扱いだ。お前たちもそれに気づけよ。

「ははは、いやすまねぇ遅くなっちまった」

 この声は、やっぱりセルゲイさんだ。

「セルゲイさんまで、何で?」

「いや、ミスティとミントから聞いてな。シュバンカに話したら、是非行ってこいと、言うもんだからな。これは身体をほぐす絶好の機会だと思ってやって来た」

 俺は項垂れた。一体、何人来るつもりだよ。

「婿殿、ポセイドン殿、儂も行くでの」

 ご隠居さままで来るつもりかよ。

 思わず周りを見渡すが、他には誰もいない。ホッと胸をなでおろす。

「さて、乗り込むか」

 俺の言葉を合図に全員が客車に乗る。この客車は1輌しかない特等車に乗るが、俺たちが乗ると満席になった。

 この特等車は夜には寝台列車になる。ここから、1泊2日でサンドロースまで行き、そこからは乗り換えて、イリシーゲルに向かうが、こちらも同じく1泊2日となるので、やはり寝台車で行く。

 列車は8時丁度にセントラル中央駅を出発し、一路南へと向かう。夜には俺の領地であるヨコハマ領の首都、その名もヨコハマ市に着くことになる。

 ヨコハマ市はさらに南に向かう路線が分岐しており、ショウナン領へ向かう事も出来る。

 しかし、我々は砂漠方面に行き、翌朝にはサンドロースに到着できるだろう。

 そこで、2時間ほど待ってから、イリシーゲル行の列車に乗り換える事になる。

 こうやって、流れる車窓を見ていると、昔キチンで通った道がいかに変わったかを実感する。

 昔の建物は無くなり、今では、近代的な建物が線路沿いに見える。

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