第115話 コルネリスの情報

「どうしました。言いたい事があったのでしょう?」

「あ、ああ、お前がいなければ、こんな事にはならなかった」

「そのとおりです。私が居なければ、市場で捕まる事もなかったでしょうし」

「そんな事を言っているんじゃない。お前が居なければ、俺はラピスさまと結婚して、この国を治めていたんだ」

「国を売って、自分が領主になれると思っていたのか?」

「ハルロイド領主はそう約束してくれた。王女は助けると、そして俺が王女と結婚して、この領土を治める予定だったんだ」

「なんと、浅はかな、あのハルロイドが手に入れた領土を『はい、どうぞ』と差し出す訳はなかろう」

 そう言ったのはご隠居さまだ。

「何故、そう言える。ハルロイド公は、確かにそう約束した」

「それは、ハルロイド公の口から直接聞いたのか?」

「い、いや、使者からだ」

「そんなのは、後から何とでも言える。使者が勝手に言ったと言えば済む事じゃ」

「それに、父上も『ハルロイドと戦っても勝てる見込みはない。今から、相手側について生き延びるしかない』と言っていた。

 私も、武力を考えたら父上の判断は間違っていないと思ったんだ。だから、父上に従った」

「仮にも将軍だぞ。敵前逃亡してどうする?いや、今更、シミラーを責めても仕方ない。貴族連中の力加減を恐れて、何も出来なかった儂の責任じゃて」

「儂?あんたはいったい誰なんだ?」

「ジェームス・エルバンテじゃよ、先の領主じゃ」

「えっ、ご領主さま?」

「そして、私が、ラピスラズリィです」

「えっ、ラピスさま?」

「あなたが軍隊に入って、騎士として領主邸に挨拶しに来た事を私は覚えています。

 真新しい棋士の服に身を包んだあなたはすごく立派で輝いていました。それが今では…、可哀そうに…」

 ラピスも「可哀そうに」の後の言葉が出てこない。

 騎士の服を着て領主邸に上がった時は、ほんとに立派だったのだろう。それが今は見すぼらしい服と薄汚れた顔、そして死んだ目をしている。

 昔の栄光を知っているのであれば、ほんとに可哀そうとしか言葉が出ないだろう。

 だが、それは自分で努力すれば良かった事だ。努力すれば、自分の未来も変えられたのにその努力を怠ったのが、現在の状況を現している。


「トントン」

 扉をノックする音がする。

 扉の近くに居た、取調官が扉を開けると、そこには、コルネリスの姉であるアンジェリカが居た。

「コルネリス…」

「姉さん…」

 久々の対面だろう。最も、シミラー将軍が裏切る前にアンジェリカは他家に嫁に行っていたが、シミラー将軍が裏切った事で、アンジェリカはその家から絶縁宣言をされていた。

 そのアンジェリカを拾ったのが、アリストテレスさんだ。

 アンジェリカは最初、アリストテレスさんの世話人という事で、侍女のような扱いだったが、その後結婚し、今では子供が二人居る。

 この世界は多夫多妻制であり、男性は複数の女性を妻とすることが出来るが、反対に女性も複数の男性の妻となる事が出来る。

 だが、この世界には離婚がない。なので、一度結婚すると、一生婚姻関係は続く事になる。アンジェリカのように家族の中から犯罪者が出た場合は、絶縁とする事になるが、婚姻関係はそのまま継続することになる。

 現在は、アリストテレスさんの第一夫人はアンジェリカだが、アンジェリカにとってはアリストテレスさんは第二夫ということになる。


「あなた、どうしてこんな事を…」

「姉さん、ごめん。心配をかけて」

 アンジェリカの目からは涙が出てきている。犯罪を犯した弟を見て泣いているのだ。

「ちゃんと、刑期を終えて、そして自分で努力しなさい。あなたはちゃんとした教育を受けてきたのだから、ちゃんとすれば、どうにでもなるハズよ。この世界では努力をすればしただけ返って来るの。あなたも努力しなさい」

 その後はアンジェリカも言葉にならなかった。

「姉さん、今はどうしているんだ?」

「私は、アリストテレスさんが妻にしてくれたおかげで、不自由なく暮らしているわ。だから心配しないで」

 アンジェリカはそう言って弟の手を取った。

「姉さんの手、昔と違って、ゴツゴツしている」

「フフフ、ちゃんと家事をしていますからね。料理に洗濯、掃除に子育て。自分の事なんかかまっていられないもの」

「姉さん、子供がいるんだ」

「そうよ、あなたは叔父さんよ。だから、子供の為にも立派な叔父さんとして紹介したいわ」

「そうか、あの智将と言われたアリストテレス家宰の嫁さんか。だったら、侍女とかに任せればいいじゃないか?」

「ううん、夫や子供と一緒に居るのは凄く幸せだし、家族のために自分の手で何かしたいの。その為に、いろんな事を学んだわ」

「そうか、だから手が荒れているのか」

「そうね、この手が荒れているのは、幸せの見返りかもしれないわ」

「姉さんが幸せなら僕は何も言う事はない。僕ももう一度、出直してみるよ」

「なら、刑期が終わって出所する事に成ったら、新しい名前を差し上げよう。それで、身分証も造れるだろう。それからは別人として生きていけばいい」

「陛下、ありがとうございます」

 アンジェリカがお礼を言って来た。

 コネルリスは黙って、頭を下げた。

「では、新しい名前のお礼に僕の方から一つ、情報を差し上げます。東部の方でなにやら、ウラン爆弾という強力な爆弾を開発しているらしいです。

 僕にも仲間に加わらないかと打診がありましたが、僕はその時こんな格好でしたので、とても仲間に加わる気になりませんでした。一度、調査された方が良いと思います」

 ウラン爆弾だと。東部といえば、現在、アリストテレスさん、ゴウ、ルルミが情報活動中だ。

 直ぐに連絡を入れてやる必要があるだろう。

「その情報を得たのに、良く無事でしたね」

「ええ、断って直ぐに、命を狙われるようになりました。今まで無事だったのが奇跡ですが、この格好だったので、見つからなかったのでしょう。でも、これで刑務所に入れば、ある意味命は狙われないでしょう」

 そんな事があった散策日だったが、ポセイドン王も楽しんだみたいで、帰りは満足そうな顔をしていた。

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