第114話 凋落した貴族

「分かった、後は憲兵庁舎で調べる。ところで、あなた方はこの泥棒を捕まえておられるし、またこの者の素性も知っている様子。申し訳ありませんが、憲兵庁舎にご同行願いたいのだが、よろしいでしょうか?」

 二人の若い憲兵は俺たちに言った。

「分かりました、一緒に行きましょう。我々もその者に興味がありますから。義父上、そういう事になってしまいました。私たちはこれから憲兵庁舎まで行かねばなりません。義父上はマリンとネルに送らせますので、それでよろしいでしょうか?」

「いや、婿殿、我も行くぞ」

「お父さま!」

「マリン、いいではないか。我もそこの者に興味がある。一緒に行こう」

 結局、全員で憲兵庁舎に行く事になった。

 すると、先ほどの憲兵が呼んだのだろうか、パトカーが5台程サイレンを鳴らしながらやって来た。

 犯人と若い憲兵二人が1台のパトカーに乗り、俺たちは残りの4台に分乗し、憲兵庁舎に行く。だが、マシュードたちとはここで別行動とした。

 既に連絡が入っているのだろう、玄関先は物々しい雰囲気だ。

 俺たちは犯人に続いて、憲兵庁舎に入った。


 コルネリスは取り調べ室に連れて行かれて、これから事情聴取のようだ。

 俺たちは、その隣の部屋から、マジックミラー越しに事情聴取の様子を見る。

 取調官が、コルネリスに聞いて行く。

「名前は?」

「……」

「どうして、盗んだ?」

「……」

 どうやら、黙秘するようだ。

 ここに連れて来られた時に身体調査を受けているので、それを見て取調官が更に聞く。

「所持金は、ほとんで無いな。腹が減って、盗んだということか?昔は貴族だったのだろう。それが今では落ちぶれたもんだ」

「キバヤシが、キバヤシが来なかったら、こんな風にならなかったんだ」

 呟くように言う。

「そうか?陛下がこの世界を変えてくれたからこそ、文明は発達し、個人の所得も増え、奴隷は解放され、庶民は自由になった。それに政治も今では民主主義だ。

 そして努力しただけ報われる。国民の誰に聞いても昔より今の方が良いと言うだろう」

「それはお前たちの理論だ。キバヤシが来なかったら、俺は今頃副将軍ぐらいにはなっていて、お前たちが会う事も出来る存在ではなかたったんだ」

「そうだな、それもお前の理論だな。その理論を誰が認めるというのか。貴族だって、努力して今ではちゃんとやっている人はいる。

 どうして、お前はそれが出来なかったんだ」

「……、どうしてって、国を売った犯罪者の息子を誰が受け入れる?」

 コルネリスは、自分をシミラー将軍の息子と認めた。

「お前は、シミラー将軍の息子、コルネリスということでいいんだな」

 取調官が言うと、コルネリスは一瞬、しまったという顔をしたが、そのまま下を向いた。

「それで、腹が減っての窃盗だな。違うのであれば、聞こう」

「……」

 コルネリスは返事をしない。

「黙っているという事は、否定しないということだな。なら、調書にサインして貰おう」

 取調官が隣で調書を書いていた別の取調官から、その調書を受け取り、サインをするように迫った。

 だが、コルネリスはサインをしようとはしない。

「どうした?まだ、何かあるのか、言いたいことがあるなら言え。だが、お前が窃盗したということは、覆せない事実だからな。現行犯だしな」

 それを聞いて、コルネリスは調書にサインをした。


「犯人の取り調べが終わりました。犯人逮捕に協力いただいたという事で、表彰されますので、申し訳ありませんが、身分証を提示して貰えませんか?」

「そんな大した事はしていないから、表彰なんていりません」

「いえ、そういう訳にもいかないので、長官のアルジオからも言われておりますし…」

「なら、アルジオさんに不要だって、言って貰っていいよ」

「えっ、長官のアルジオをご存じですか?」

「ああ、一応」

 この前、憲兵長官がエミリーの父親であるチェルシー長官から、アルジオ新長官に交代した。

「アルジオが長官をやっとるのか。それを先に言えば良かろうに」

 ご隠居さまが、また出張って来た。

「あなたたちは何者ですか?」

「いえ、名乗る程の者ではありません」

「儂が隠居じゃ、そして、こっちは婿殿で、こっちは娘たちじゃ」

 ご隠居さまが紹介するが、それは紹介になってないだろう。

 ただならぬ雰囲気を感じた別の憲兵が部屋から出て行ったと思うと、アルジオ長官が呼びに行った憲兵と一緒に入ってきた。

 すると、直ぐに片膝をついて、挨拶する。

「皇帝陛下には、ご機嫌麗しく…」

「アルジオさん、俺がそういうのを嫌いだって知ってやっているでしょう」

「ははは、そうでした。陛下はいつも突然ですから、たまにはいたずらしてやろうと思いまして」

「チェルシー元長官はアルジオさんは真面目だと言っていましたが、そんな意地悪をするんですね」

「歳を取ると人間丸くなったということで、ご理解下さい」

 俺たちがそんな話をしていたが、周りでこの話を聞いていた憲兵や取調官はその場に跪いた。

「もう、アルジオさんがバラすもんだから」

「まあ、いつかはバレますから」

「仕方ないですね。ところで、コルネリスと話をしたいんですが、よろしいでしょうか?」

「また、陛下の悪い癖が出ましたな。まあ、いいでしょう。おい」

 アルジオ長官から指示された取調官が、あわてて部屋の扉を開けた。

「それでは、こちらへどうぞ」

 取調官に誘導されて隣の部屋に入った。

「コルネリスさん、私がシンヤ・キバヤシ・エルバンテです」

「……」

 コルネリスは目を大きく見開き、俺を見つめた。

「隣の部屋で聞いていましたが、私に不満があるようなので聞いてあげよう」

 それでも、コルネリスは何も言わない。

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