第112話 ポセイドン王とご隠居さま

 ご隠居さまは、折角エマンチック国に来たのに、俺たちと一緒に1週間程で再びエルバンテに戻る。

 これにはポセイドン王も同行している。

 ご隠居さまとポセイドン王の二人は、満月のお酌ですっかり意気投合しており、今回は、ご隠居さまがポセイドン王を誘う形になった。

「ラピス、マリン、二人の義父上はどうしている?」

「すっかり意気投合して、またバルコニーで、お酌されている様子です」

「兄さまは行かれないのですか?」

「ここで俺が行くと、説教大会になるかもしれない。ここは二人に悪口を言わせておこう」

「ホホホ、そうですね」

「ウフフ、今頃、『あの婿めー、うちの大事な娘を奪いやがって』って言っているかもしれませんよ」

「そんなところに行ったら、俺はどうなるか分からん」

「ご主人さま、それでは私たちはこれから、子作りでもしましょうか?」

 ネルよ、何という事を。

 ネルの一言で、嫁たちが一斉に俺を見る。

 これはやばい、話をはぐらかさないと、このままでは拉致される。

「今日は、疲れたな、義父上たちに呼び出されないうちに、さっさと寝ようじゃないか?」

「そうですわね、さっさと寝ましょう」

「そうです、そうしましょう」

 嫁たちが目を輝かせて、俺に同意する。それと、同時に両側から腕を掴まれた。

「ちょ、ちょっと待て、今日は寝るんじゃないのか?」

「そうです、今日は寝ましょう」

「そうです、そうです」

 結局その夜は、血が高ぶった嫁たちに、俺の体力は削られる事になった。


「ふわぁー」

「シンヤさま、お疲れのようね」

 何が「お疲れのようね」だよ。大体、疲れる事をしたのは誰だよ。

「ヒール、どう、回復した?」

 おおっ、身体の中から、力が湧いて来る。エリスの回復魔法で俺の体力は回復するが、これは絶対、身体に良い事はないと思う。

 これじゃ、栄養ドリンクを飲んで、「24時間、働けますか?」の状態だ。

「それでは婿殿、行こうか」

 これからポセイドン王を連れて、街の中を見て回る事になっている。

「婿殿、儂も同行するからの」

 やっぱり、来ると思ったよ、ご隠居さま。

「シンヤさま、私は学院で授業があるから行けないわ」

 エリスは学院で医学部の講師をしているので、今日は来れないようだ。

「私も憲兵庁舎で武術指導がありますので、今日は行けません」

 残されたのは二人を除いた5人だ。

「それじゃ、5人で行くか、あっ、ネル、箒は置いていってくれ」

 人混みの中で箒はじゃまにしかならない。ここは置いて行って貰う。

 また、5人は俺と嫁たちであり、それ以外にも、ご隠居さま、ポセイドン王、ノイミ、マシュードたちが一緒に来るので総勢12人にもなってしまう。

 俺たちは、ジェコビッチの運転する車で、セントラルシティまで行って、そこから地下鉄で下町に出る。

「お父さまは、プライオリティシートの方へどうぞ」

 ラピスが、ご隠居さまをプライオリティシートへと誘う。

「儂はまだ、足腰は大丈夫だ」

「ははは、我も大丈夫だ。我々をそんな老人扱いするもんじゃない、のう、ご隠居殿」

「おお、正にポセイドン殿の言う通りじゃ、老人扱いするでない」

 二人共、吊革に捕まって地下鉄に乗っている。

 だが、空いているから座ればいいものを。俺たちは普通の座席に座った。

 下町の駅に着いて、階段を登って行く。エスカレーターもあるのだが、階段の方が近かったので、階段を使った。

「はあ、はあ、婿殿、ちょっと待たれよ。老人を無碍にするでない」

「はあ、はあ、そうだぞ、婿殿。ご隠居さまの言うとおりじゃ」

 さっきは年寄り扱いするなと言っていたのに、今度は労われとは、なんと我儘な。


 俺たち12人で旧市街のメインストリートを歩く。ここは、昔の街並みが残っているので、大きなビルはなく、あっても3階建てくらいの石造りの建物ばかりだ。

 一度、大きな地震があって、壊れたがそれも既に復旧している。

「ここが私が一番最初に店を開いたところです」

 俺が指差す先には、それほど大きくない店があり、看板には「ミュ・キバヤシ」と書いてあった。

「まだ、この店は営業しているのか?」

 ポセイドン王が聞いてきた。

「一度職員のための厚生施設としましたが、店自体を別場所に移設してから、厚生施設とする必要もなくなったため、現在は、商品だけ展示する施設になっています。

 もちろん、購入も出来ますが、ここで販売はせずに注文頂いた物は後日、配送にてお届けする仕組みとなっています」

 一時期、俺の店は帝国の各地に出店したが、ネット通販が充実してきた事もあって、最近は、閉店したところも多い。

 だが、実物を見ないと抵抗があるというお客さまもいるので、小さい店舗で代表的な服を展示、試着できるようにしている。

 なので、店の運営に係る費用が大幅に低減された。

 もちろん、店員も少なくてすむので、その分はキバヤシロジテックで配送の仕事に回って貰っている。

「ここが、2番目の店になります。元はアールさんとフェイユさんの店でしたが、私が譲り受け、ここで本格的に商売を始めました」

「さすがにこの店は大きいのう」

「ポセイドン殿、これで驚いていてはいかんぞ。婿殿は、まだ大きな店を持っておるからのう」

「なんと、それは本当ですか?さすがは、婿殿じゃ」

 そんな二人を見て、ラピスとマリンが苦笑している。

「ここを一度、本部にしましたが、立地条件が良いので、再び店舗に戻しました」

 ショッピングセンターを造った際に、ここをキバヤシグループの本部としたが、拡大する事業はさすがにこの店舗の大きさがあってもダメだった。

 今では、トウキョーとエルバンテ旧市街の中間にあるセントラルシティというところに100階建のビルを造り、そこにグループ企業が入っている。

 その上の階に、キバヤシホールディングスの本部がある。

 もちろん、1階から10階は商業施設が入っており、隣にはホテルまであるという充実ぶりだ。

 俺たちは店の中に入ってみる。

「いらっしゃいませ」

 直ぐに店員が応対してきた。さすがに高級店だけあって、店員の対応も優れているのが実感できる。

「あっ、ミュさま」

 ミュに気が付いた店員が、深々と頭を下げた。

 それを聞いて店の奥から出て来たのは、キバヤシ販売社長である、アールさんとフェイユさんだ。

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