第98話 エルフ族の移送

 聞けば、このような通路は幾重にもあり、それをエルフ族が掘ったのかと思ったら、違うようだ。

 この地には昔、穴を掘る魔物が居て、それが穴を掘ったらしい。

 しかし、そのモグラのような魔物は、シュゲークラブの餌となり絶滅したということだ。

 シュゲークラブ、恐るべし。

「ですが、シュゲークラブは、この穴に入ってこれないのではないですか?」

「シュゲークラブはこの穴には入ってこれんが、モグラの魔物の餌は魚なので、どうしても穴を出て川に行く必要があったのじゃ。そこをシュゲークラブは餌として襲ったのじゃ。それも、もう遠い昔の事になってしまった」

 そのモグラのような魔物の名前さえも分からないということだ。

「我々も、その道がなかったら、ここに住んではいないじゃろうて」

 村に戻ると、一部のエルフ族が固まって何か話をしている。

「何を話しておるのじゃ?」

 長老が話をしていたエルフ族の集団に話しかけた。

「あっ、長老。実はエルバンテに行くという者とここに留まるという者がいる件で話をしていました。若い連中は、エルバンテに行きたいという者が多いですが、年寄はここに残るという者が多く、家族の中でも意見が統一していません。

 家族の中で揉めている状態です。正直、シンヤ殿がここに来なかった方が良かった」

 それは、正直な意見だろう。だが、俺も、ここにエルフ族が住んでいる事は知らなかったのだから仕方ない。

「ですが、世界は想像を絶するスピードで動いています。今回、我々がここに来なくても、いつかは誰かがやって来るでしょう。その時も今回と同じような事が起こるでしょうから、それは時間の問題だっただけです」

「たしかに、そうかもしれないが、そこは頭で割り切れないことだ」

 そうかもしれない。だが、俺にはどうする事もできない。


 約束の日になり、陸亀ホエールがエルフ族の村の上に来た。

 エルフ族は空を見上げてびっくりしている。

「すげー、これに乗って行くのか」

「これにどうやって乗るんだ」

 たしかに、地上からそのままでは、空中に浮いている陸亀ホエールに乗ることはできない。

「では、荷物を持って並んで下さい。今から、陸亀ホエールへの移送を行います」

 極地探検車で、ある程度の木を切り倒し、4軸垂直離着陸機を降ろすスペースを作って、そこから陸亀ホエールに移送する。

 4軸垂直離着陸機が地上に降りる度に大きな音と、プロペラによる爆風が吹き荒れるので、待っているエルフ族は大変だ。

「音と、風が凄いですが、ちょっとの間、我慢して下さい」

 乗組員が乗る住民を誘導している。

 4軸垂直離着陸機が3往復すると、移住を希望するエルフ族が全て乗り込めた。

 だが、長老はここに残ることを選んだ。

「長老、一緒には来られないのですか?」

「儂はもう歳じゃ。今更、エルバンテに行ったところで、そう大した仕事も出来ないじゃろうて」

「そうですか、それではお元気で」

「シンヤ殿たちも、これで帰るのかの?」

「いえ、我々はこのまま、この車で更に北に向かう予定です」

「そうか、それではシンヤ殿も良い旅を、旅が無事に終えるのを祈っておりますじゃ」

 移住希望の住民を乗せた陸亀ホエールは方向を変え、エルバンテ公都を目指して、飛び立って行った。

 それを見届けた俺たちも、極地探検車を発進させた。取り敢えずは、このまま川際を遡上させるつもりだ。


 小さな魔物は出るものの、シュゲークラブのような大型の魔物は出て来ない。

 なので、比較的容易に川際を遡上させることができた。そして、遡上させるごとに川幅が狭くなって来る。

 既に川幅も100mぐらいになっている。

「河口が広かった割に川の長さは、それほどでもなかったな」

 俺の言葉に嫁たちも頷く。

 100mほどになった川は砂浜がなく、川の土手にも木が生えている。こうなると土の上を走行できないので、川の中を潜水しながら進む。

 そのうち、木の高さが低くなってきて、頃合いを見て土手に上がった。この辺りは木ではなく、既に草になっている。

 川幅も50m程になってきた。

 川際に生えていた草は、それほど奥の方には生えておらず直ぐに荒れ地になっている。

 どうやら、水のある所だけに植物が生えている。ドローンを飛ばして確認してみると、川以外は、ほとんど荒れ地になっている。

 その荒れ地を川に沿って行くと、最後に小さな池があった。

 極地探検車を降りて確認してみると、その池からは水が湧いていた。恐らく、サン・シュミット山脈からの湧水だろう。

 そして、そこから先には植物のない、荒れ地になっている。

 俺たちはGPSで示す北へ、荒れ地を進む事にした。

 荒れ地を進むとアスファルト道路がある。その道路を長大なトラックが高速で行きかっている。

 その道路を東に向かってみる。しばらく、行くとサービスエリアのような所があったので、そこに入り、休憩する事になった。

 サービスエリアの名前は「メンバウラー」と書いてある。

「メンバウラーは国道39号線にあるサービスエリアです」

 クラウディアが説明してくれる。

「その先はどこになる?」

「例の『東部指令長官』の街で、『イリシーゲル』という街になります。そこは、この辺りで一番大きな街です。

 荒野の中に出来た街で、主な産業は金鉱山です」

「金鉱山ということとは、シードラか?」

 シードラはキバヤシ商事の社長で、資源開発をやっている。なので、当然、金鉱山はシードラの会社の開発範囲だ。

「そうです。キバヤシ商事が金鉱山の開発を行っています」

「それじゃ、シードラに挨拶でもして来ようか」

 俺たちは、シードラが行っている金鉱山に向かう事にし、国道39号線を東へ向けて走った。

 その翌日には、荒野の中にポツンとある街が見えて来た。どうやら、あそこが「イリシーゲル」という街のようだ。

 街に入ると、高くても3階建てくらいのビルしかない。だが、資源を積んだトラックが通るために道幅は広い。 極地探検車と同じようなトラックもある。

 トラックモーテルと書かれた宿があったので、極地探検車をそこの駐車場に停めて、滞在することにした。

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