第96話 エルフ族の村

 地下に降りて行くが、ほんのりと明るい。

「長老、地下だと言うのに明るいですね?」

「『タオヤ』でいい。ここは光苔があって地下でも明るいのじゃ」

 光苔でもかなり明るい苔だ。足元も暗くはない。

 どれくらい階段を降りただろう。ようやく地下に着いた。

 ここも光苔があるために、部屋全体が明るい。

 タオヤ長老は俺たちの先頭を歩いて行き、地下の部屋から延びる洞窟に入った。

「ここが儂の家になる。ここは各洞窟がひとつの家になっておるんじゃ」

 たしかに、隣には別な洞窟があって、そこからエルフの女性がこっちを見ている。

 洞窟の入り口は狭かったが、奥は意外と広い。そこに案内されてテーブルについた。

「さて、シンヤ殿と言われたか。聞きたいことがある。我々エルフ族は500年前に戦争が起こり、人族に加担して悪魔族と戦った。

 悪魔族は強大で、我々も多大な被害を出したものの、どうにか勝利することができたのじゃ」

 長老の話は続く。

 悪魔族に勝利した人族は戦争で破壊された国を建国することになったが、その矢先、中立を守っていた鼠族、豚族、鼬族の連中が勇者を殺して、その国を奪ってしまった。

 だが、それは勇者の妻であった女性を怒らせる事になり、鼠族たちは追いやられてしまうが、その時、北の守護をしていたエルフ族を襲い、エルフ族を北へ追い払ってしまった。

 エルフ族は戦死した者が多かったので、無傷の鼠族たちに攻められると、ほとんど相手に成らなかった。

 エルフ族は徐々に北に逃げたが、勇者の妻たちに追われた鼠族たちは、エルフ族を追うように北に逃げて来た。

 鼠族に追いつかれたエルフ族は、鼠族に迫害され小競り合いが起こることになるが、そこでも鼠族に負けてしまう。

 特に鼠族に見た人を石に変えてしまう悪魔が味方に付くようになってから、エルフ族に勝ち目はなくなった。

 人が少なくなったエルフ族は更に北の方へ逃げたが、そこでは生活も厳しいので、艱難辛苦の果てにこの地に流れて来た、というのが、長老の話だった。

「これは500年前の話で、儂らも爺さんの爺さんの話としか聞いた事はない。だが、子供が物心つくようになると、必ず親がこの話をしてくれるもんじゃ」

「鼠族の国は無くなりました。人を石に変えると言う、メドゥーサという悪魔も居なくなりました」

 俺が鼠族の国を滅ぼした事を説明した。

「おお、おお、そうであったか、そうであったか」

 長老が何度も頷く。

「それで、いかがしますすか?エルバンテで暮らしますか?」

 エルバンテでは国民に教育を施すこと、反対に労働の義務があることを説明する。

「うむ、みんなに聞いてみよう。正直、ここは魔物が多くて、生きるのも大変じゃ。特にシュゲークラブには武器も役に立たないので、逃げるしか方法がないが、女子供は逃げ切れんのが現実じゃ」


 その日、俺たちは中心の広場にカイモノブクロのテントを張って泊まる事になり、フェイユさんとアールさんは長老の家に泊まる事とした。

 翌朝、目が覚めるが、光苔の光なので、明るくならない。なので、時計を見なければ何時なのかも分からない。

 俺はカイモノブクロの中にあるベッドで時計を見ると、7時を過ぎていた。

「おい、みんな起きろ、7時を過ぎているぞ」

「うーん、旦那さま、まだ暗いじゃないですか?」

 ラピスが言うが、ここは地下であって地上じゃないから、お日さまの光はない。

 だから、朝が来ても暗い。

「ほら、起きろ。朝だぞ」

 嫁たちは、まだ眠そうだ。


「大変だぁー、川の畔にある鉄の家がシュゲークラブに襲われているぞ」

「何?あそこにはクラウディアが留守番をしているはずだ」

 嫁たちも急いで起きて、地上に出る。

「ミュ、ネル、エリスもいいか?」

「「「はい」」」

 ミュとエリスが翼を出し、ネルは箒に乗った。

 俺はエリスに抱えられて、4人で空に上がり、極地探検車の方に向かう。

 川が見えて来ると、そこに何かを襲う、シュゲークラブが居た。

 シュゲークラブには、クラウディアが撃っていると思われる、レールガンが当たっているが、シュゲークラブの甲羅には傷ひとつつかない。

「俺たちが囮になる。その隙に極地探検車に戻り、シュゲークラブを倒してくれ」

 エリスが俺を抱いたまま、シュゲークラブの前を通ると案の定、シュゲークラブがこっちについて来る。

 その隙にミュとネルが極地探検車に降りた、ネルは急いで、箒の枝を取り外す。

 それを確認して準備が出来た頃に急いで極地探検車に戻り、ネルの箒の枝のミスリルをゴッドアローに番えた。

「ゴッドアロー」

 俺がゴッドアローをシュゲークラブの弱点である脚の関節部分に打ち込む。

「「サンダーボルト」」

 ミュとネルが特大の雷をミスリルに落とすと、シュゲークラブが動かなくなった。

「プスプス」

 カニの焼けるいい匂いが、辺りに漂う。

 極地探検車に戻ると、クラウディアがネグリジェのまま、髪を振り乱し、肩で息をしていた。

「シンヤさま、見てはだめよ」

 エリスが俺の目を手で塞いだ。

「こら、エリス、手で塞がれると何も見えないじゃないか」

「いいんです、何も見えなくても、何か見えるとまた妻が増えるかもしれませんから」

「キャー」

 クラウディアが叫ぶが、今更「キャー」じゃねえよ。

「へ、陛下、見ました?」

「い、いや、見てない」

 エリスに手で塞がれたまま、クラウディアの問いに答える。

「ほんとですか?怒らないから本当の事を言って下さい」

「ちょっとだけ」

「ええー、やっぱり。もう、お嫁に行けない」

 この流れは危ない。これはどうにか流れを変えないと。

「嘘だ、クラウディアのネグリジェ姿なんて見ていない」

「ああ、やっぱり見たのですね」

 俺はまた、地雷を踏んでしまった。

 その後、極地探検車に戻って来たラピスたちに怒られる事になったのは、言うまでもない。

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