第95話 話し合い
「ははは、なかなか正直者の悪魔族だな」
「そうだ、俺自身は悪魔族ではないが、この横に居る俺の妻のミュとネルとマリンの3人は悪魔族だ。だから、否定はしない」
それまで、ざわついて居たエルフ族が、俺の言葉を聞いて黙った。
「お前自身は人族だと言うのか?それが悪魔族の女を妻にしているだと。そんな事が信じられるか」
「先程も言ったように、俺は嘘は言っていない。信じて貰えなくて残念だ」
「もうひとつ、聞きたい。お前たちがここに来た理由は何だ?」
「ひとつは、我々の仲間のエルフ族がどうなっているか、調べるためだ。我々の仲間のエルフは最後の一人と言われている。できれば、同じ種族の人と合わせてやりたいと思った。
そしてもうひとつは、俺の好奇心のだ。俺はこの世界に興味があり、この世界を見てみたいと思っている。その通過地点にここがあったと言うだけだ」
「その話を信じろと?」
「それならどうだろう、今から我々の仲間のエルフの人を連れて来よう。それで信じて貰えるか?」
「「「「「ははははは」」」」」
俺たちを囲んでいる集団から笑い声が起こった。それはそうだろう、ここからどうやって連れてくるというのだ。
「ははは、面白いやつだな。そうだな、連れてきたら信じてやろう。おっと、1年後に連れて来るなんてのはなしだからな」
「分かった、今からこの嫁のエリスを迎えに行かせる。それまで俺たちはここに居る。エリス、フェイユさんを連れて来てくれ」
「そうね、では行って来るわ」
エリスが魔法陣を広げると、エルバンテのフェイユさんの所に転移して行く。
「い、今のは転移魔法か?あれを使うのは神のみのはずだ」
「エリスは女神だ。それは見ての通りだ」
「我々の世界でも、たしかに女神の名はエリスだが…」
エリスの転移魔法を見たエルフ族が、再びざわつき始める。
そんな中、再び魔法陣が現れ、フェイユさんとアールさんが姿を現した。
「ただいま」
エリスが家に帰って来たように言う。
「わあ、本当に暑いわ。エルバンテはこれから冬なので、厚着してたのに、信じられないわ」
フェイユさんの第一声がこれだった。
「あっ、会長、ごぶさたしています」
「フェイユさん、お忙しいところ、態々すいません」
「いえ、いえ、話はエリスさまからお伺いしました。会長も中々、大変なようですね」
「はあ、それで、フェイユさんを連れて来いという事になって、申し訳ありませんが、ベールを取って貰っていいですか?」
「はい」
フェイユさんがベールを取るとエルフ族独特の長い耳が現れた。
「「本当にエルフ族だ」」
そんな声が聞こえる。
その時、俺たちを囲んでいる輪が崩れ、一人の年老いた男性が杖を突いて出て来た。
どうやら、この人が長老らしい。
「そこの人、あなたはエルフ族なのか?」
長老が訊ねる。
「ええ、私はエルフ族です。そして、私の隣にいる男性は私の夫です」
フェイユさんは夫のアールさんを紹介する。
「すまないが、名前と今までのいきさつを教えてくれんか」
言い方の物腰は柔らかい。先ほどまで敵対していたとは思えない言い方だ。
「私の名前はフェイユ、夫はアールといい、人族です」
その後、フェイユさんの生い立ちとアールさんの妻となるまでが語られた。
「なる程、それでその悪魔族と一緒なのはどうしてなのだ?」
「このシンヤ会長は人族です。人族の中でも髪の黒い人種は居るのです」
それに続いて、アールさんの店を畳んで、俺の店の社長となっている事などを話す。
「シンヤ殿とやら、もう一つ聞きたい。先ほど、そこの女性が転移魔法を使ったようだが、その女性は女神ではないのか?」
「エリスは女神です。それは転移魔法を見て頂いたので、分かって頂けると思います」
「して、女神と悪魔を妻に迎えているあなたは何者なのだ?」
「俺は、エルバンテ帝国の皇帝であり、エルバンテ最大の企業、キバヤシコーポレーショングループの会長です。ですが、中身はただの人間です」
「……」
エルフ族が黙った。
「フェイユさんとやら、そなたは今、幸せなのか?」
「優しい夫と生きがいのある人生を与えてくれた会長、それに気心知れた仲間がいて、不幸せなんて事があるでしょうか?私はとっても充実しています」
フェイユさんのその言葉を聞いて、長老とその周辺の人たちで何か話をしていたが、結論が出たようだ。
「我々はそなたたちの言う事を信じよう。それで、出来れば、シンヤ殿の嫁たちの素性を教えて欲しい」
「まず第一夫人のエリス、彼女は見て頂いたとおり女神です。次が第二夫人のミュ、サキュバスです。次が第三夫人のラピス、その次が第四夫人のエミリー、この二人は人族です。そして、第五夫人のマリン、人魚になります。こちらは第六夫人のネルエデット、バンパイヤです。そして、ここに居るのはマリンと同じ人魚で、マリンの侍女をしているノイミです」
「バンパイヤ」という言葉を聞いて、エルフ族が一歩退いた。
「バ、バンパイヤを妻としているのか」
どうやら、バンパイヤは良く思われていないようだ。
エルフ族の態度を見たネルが落ち込んでいる。
「あ、あと、そちらの女性は人魚と聞いたが…」
「マリンですか?マリンは人魚です」
「我々の祖先は悪魔族と人族の戦争が起こって、それに介入しないことで迫害を受け、最初は北の方へ逃げた。だが、北の地は食料も少なく、狂暴な魔物も居たので、長い時間を掛けて南の地へと逃げて来た。その途中に人魚族のポセイドン王と知り合い、いろいろと便宜を図って貰ったと聞いた事がある。そなたはポセイドン王と関係はあるのか?」
「マリンさまは、ポセイドンさまの一人娘です」
長老の質問にノイミが答えた。
「なんと、ポセイドン王の娘子か。お父上は健在か?」
「父は健在です。実は父の国「エマンチック」もエルバンテの傘下となる事になりました」
「なんと、そうであったか。そうなれば、シンヤ殿を信じて、我々の村に案内しよう」
長老がそう言うと、大木に手を翳した。すると大木の一部が開いて、中に地下に向かう階段がある。
「さあ、こちらへ来られよ」
長老とその一部が先頭を切って階段を降りだしたので、俺たちもその後に続く。
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