第94話 エルフ
道幅はそれほど広くない。人が一人通れるような道だ。
最初は獣道かと思ったが、砂浜に二足歩行の足跡があったことから、人族または人族に近い何者かが居ると判断した。
「知的生命体が居るのかもしれないな」
俺の言葉に嫁たちも頷く。
偵察用ドローンを出してみるが、木が高く葉が生い茂っているので、道も人も確認できない。もちろん、村も確認できない。
「どうしますか?」
ラピスが聞いたきた。
「道も狭いから歩くか?」
結局、クラウディアが留守番となり、俺と嫁たち6人で行く事にした。
極地探検車の外は熱帯なだけに湿度も高いので、立っているだけで汗が出てくる。
それでも細い道を6人が並んで歩いていく。
先頭はネルが箒に乗って行き、次はエミリーが行く。そして、俺、エリス、ラピス、マリン、ノイミ、ミュの順序で歩く。
30分程歩いても道に変化はない。時々、鳥の声や獣の声が聞こえる以外は何もない。
それでも道は続いていく。
そこから15分程歩いた所で大きな木に出会った。
その大きな木からは、放射状に何本かの道がある。どうやらここは、何かの中心のようだ。
「さて、どの道に行ったものか?」
俺がそう言った時だ。木の上から矢が飛んで来た。
「キン」
飛んで来た矢は、結界に弾かれて落ちる。
「ミュ!」
俺が言わないうちにミュが翼を出して、上に飛んで行く。
木の上で争う音がしたと思ったが、程なくミュが一人の若い男性を連れて降りて来た。
「は、離せ」
その言葉を聞いて驚いた。エルバンテ語だ。
「どうして、エルバンテ語を喋れる?」
俺の問いに相手もびっくりしてた顔をする。
だが、もうひとつ驚いたのは、男性はエルフだった。
「お前は、エルフ族か」
「こ、殺せ。悪魔族に生を吸われるぐらいなら、さっさと殺せ」
「お前を殺す理由も生を吸い取る理由もない。それより、俺の問いに答えて貰おう。何故、エルバンテ語が喋れるんだ?」
「ふん、悪魔族に教える訳はない。それより、さっさと殺せばいいだろう」
「だから、殺さないと言っているだろう。しょうがないな、ミュ頼めるか?」
ミュは、エルフ族の男性の前に来ると、目を見つめた。すると男の目から光が消えていく。
それを見て、俺が再び聞く。
「何故、エルバンテ語を話す事が出来る?」
「我々部族は、以前からこの言葉だ。何故かと聞かれても困る」
「お前たちはどこから来た?」
「先祖は遥か北の国から来たと聞いている。かなり苦労し、ここまで来る途中で何人も死んだそうだ」
「お前たちの部族は何人居る?」
「300人程だ」
「お前たちの部族に会いたい。何度も言うが、お前たちの生を吸い取るのが目的ではない。我々の知り合いにエルフ族の女性が居るので、できれば合わせてやりたい」
「長老から聞いているのは、黒髪は悪魔で生を吸い取るということだ。だから、お前たちは信用できない」
「お前が信用してくれなくてもいい、長老に合わせて欲しい」
「悪魔を村に入れる事は出来ない」
「このまま、案内させてもいいが、それだと信用が得られないだろうから、お前に使いを頼むとしよう。お前の名前は何と言う?」
「俺の名前は『ヨハン』だ」
「ヨハンか、それでは、我々はここで待つことにするので、長老に話をしたいと伝えてくれ」
ミュが魔法を解除すると、ヨハンの目に光が戻った。
「だ、誰が、長老なんかに伝言するか」
「お前が伝言しなくても、その時は、次の人間に頼むだけだ」
「な、何?」
「ここはどうやら、道が交差する中継点だろう。だったら、お前を逃がしてもまた別の人が通るだろうから、その人に伝言を頼むだけだ」
「な、何だって」
「良く、考えろ。我々もお前が伝言を伝えてくれる方が、手間が省けて良い。ここはお互いの利益になるんじゃないか?」
「……」
「どうやら理解して貰えたようだな。では頼む」
俺はミュにヨハンを放すように言うと、ヨハンが立ち上がって、森の中に消えて行った。
「ご主人さま、エルフ族は来るでしょうか?」
ミュが聞いてきた。同じエルフ族のフェイユさんの事が気になるのだろう。
「さあ、一人では来ないだろうな。もしかしたら、村人300人全員が来るかもしれないぞ」
そんな冗談を言っていたが、さすがに300人とは言わないが、それでも100人程が来た。
全員が剣、槍、弓を持っている。
服装は、上半身裸で、下だけ獣の皮で作ったパンツを穿いている。
そして、全員が男性のエルフだ。
「お前たちは何者だ?」
エルフ族の一人が聞いてきた。だが、声が若いので、長老ではないだろう。
「俺たちはエルバンテという国から来た。俺は『シンヤ』という者だ。そして、こっちに居る女性たちは俺の妻だ」
「お前たちがここに来た理由は?」
「俺たちは、この大陸を探索している。ここからエルバンテへ帰れると思い、通りかかっただけだ。それと、俺たちにはエルフの女性の仲間がエルバンテに居る。
その人に同じ部族が居る事を知らせてやりたかった」
「お前たちが、エルバンテという国から来た証はあるのか?」
「我々は言葉が一緒だ。それは遠い先祖が同じ土地に住んでいたと考えられないか?」
「なるほど、一理あるな。だが、俺たちの言い伝えでは、黒髪は悪魔族で生を吸うと聞いている。そうではない証はあるのか?」
「ない」
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