第93話 カニ料理への期待

「それじゃ、行くぞ。ところで、ネルは箒がなくても大丈夫か?」

 ネルは箒に乗って空を飛ぶ。だが、その箒は俺が借りたので、今、ネルには箒が無い。「大丈夫か?」とは、箒が無いので空を飛べるかということだ。

「代わりにこれを持ってきました。ちょっと安定しないと思いますけど、たぶん大丈夫です」

 ネルの手にあったのは、ゴムボート用に置いてあったオールだ。

「オ、オールか」

「これしか長い物が見当たらなかったので…」

「「……」」

 俺とミュは黙った。だが、いつまでもこうしてはいられない。シュゲークラブがこちらに向かっている。

「では、作戦開始」

 翼を出して飛び出したミュの後に続いて、オールに乗ったネルが空に上がった。


「ゴッドアロー」

 俺はゴッドアローを出した。

 ただ、レールガンを通さないシュゲークラブの甲羅は、ゴットアローでも歯が立たないだろう。

 だが、そこにネルから借りたミスリルを番える。ミスリルはゴッドアローの白い粒子と一体となった。矢がちょっと長い感じがするが、そこは仕方ないだろう。

 俺がゴットアローを射ると、白い粒子を纏ったミスリルの矢は、シュゲークラブの脚の関節部分に突き刺さる。

 シュゲークラブの甲羅はレールガンでさえ弾くが、関節部分の強度はそれほどまではない。そこを狙って、ミスリルの矢を射った。

「ミュ、ネル、今だ!」

「「サンダーボルト」」

 二人から特大の雷が、ミスリル目掛けて落とされる。

 雷はミスリルを避雷針として、シュゲークラブの筋肉組織に伝わり、シュゲークラブの筋肉を破壊した。

「プスプス」

 シュゲークラブの中身が燃えている音がする。

 ミュとネルはシュゲークラブの脚に刺さったミスリルを回収して、極地探検車の方に戻ってきた。

「ご苦労さん」

 俺が二人を慰める。

「どうにか、倒せて良かったです。もし、だめだったら、極地探検車ごと真っ二つだったでしょうから」

 取り敢えず1匹は倒したが、もう1匹反対側に居る。

 今は、クロコダイルアーミーを食べた後なので、腹は空いていないようだが、それでもいつ、こちらに向かって来るか分からない。

「よし、もう1匹、やるぞ」

 極地探検車に入った俺たちは、反対側のシュゲークラブに極地探検車をUターンさせると、同じ戦法を使って倒した。

「プスプス」

 前と同じように筋肉だけ焼けた臭いがする。

 それに、外に居ると、シュゲークラブの焼けたいい匂いがする。

「なんか、旨そうな匂いだな」

 俺の横に来たエリスに聞く。

「エリス、シュゲークラブって食べれるのか?」

「鑑定してみないと、そんなの分からない」

「なら、行ってみるか」

 俺たちはシュゲークラブの所に来た。

 近くで見ると、物凄く大きなカニだ。甲羅が遥か上にある。

 脚の部分の甲羅を叩いてみると、固いのが実感できる。ゴッドソードで斬りかかっても傷一つ付かない。

 脚の上の方にミスリルが貫通した穴があったので、そこからマリンに水を入れて貰う。

「マリン、あそこに開いた穴から水を入れてくれ」

「水をですか?」

 マリンは首を捻ったが、言われる通り水を入れた。

「では、その水を凍らしてくれ」

 マリンが水を凍らせると、水が膨張して、関節の部分が壊れた。

「思ったとおり、関節部分が壊れたな。マリン、ウォーターカッターで壊れた部分を切り落とせないか?」

「ウォーターカッター」

 マリンが関節部分をウォーターカッターで切り裂くと、氷の膨張で破壊された脆弱な部分から中の筋肉組織が出てきた。

 見ると白い筋肉で、普通のカニそのものだ。

「エリス、鑑定してくれ」

 エリスが鑑定する。

「うーん、食べれない事はないけど、組織の強度が強くて、とてもじゃないけど人の力で噛むのは無理ね」

 今晩の夕食に、カニ料理を期待していた俺の目論見は水泡に帰した。

「今日の夕食は、カニにしようと思っていたのに残念だ」

「ところで、この甲羅って強度があるし軽いしで何かに使えませんか?」

 クラウディアが携帯端末で聞いてきた。

「だけど、強度があり過ぎて、切断とかできないぞ」

「レーザー加工機があるので、切断は出来ると思います。ですが、大電力を使うので、極地探検車が一時停止する事になります」

 クラウディアの提案により、レーザー加工機で甲羅を切断する。レーザーでシュゲークラブを倒せたんじゃないかとクラウディアに聞いたが、距離があるとだめだそうだ。

 クラウディアが防護眼鏡をかけてレーザー加工機を操作し、シュゲークラブの甲羅を切り落として行く。

 いくつかに分解出来た甲羅は、カイモノブクロに入れて本国に持って帰る事にした。

 本国に持って帰ると言っても、エリスの転移魔法で一瞬で持って帰れるのだが。

 そして、筋肉組織だけになったシュゲークラブには既に小型の魔物や肉食の動物たちが群がってきた。

 ジャングル最強と言われたシュゲークラブも甲羅が無くなれば、他の生き物の餌でしかない。

 そして、俺たちは中洲を抜け、陸地に上陸する。

 ここの陸地も熱帯の木が生い茂り、道もない。

「このまま、上流の方を目指しますか?」

 クラウディアが聞いて来る。

「そうしよう」

 俺たちは、上流を目指して極地探検車を進めるが、2日後、森の中に延びる1本の道を発見した。

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