第88話 父との再会

「ほ、本当か?」

「本当です。ここに居るマリンがそうです」

 マリンが顔を上げ、髪を後ろに流した。

「お、おおっー」

 ポセイドン王は言葉が出ない。

「たしかに、妻の面影がある。だ、だが、どうして…」

「どうして」の後の言葉が出て来ないのだろう。

 俺はノイミの事、そしてエルバンテに流れ着いた後の事をポセイドン王に話した。

 ポセイドン王は、俺の話を涙を流しながら聞いている。

「そうか、そうだったのか。ノイミ、ありがとう。お主は娘の命の恩人だ」

「ですが、奥さまを犠牲にしてしまいました。それが心残りです」

「いや、それは仕方なかったのだ、娘だけでも生きてくれていて、私は嬉しい。見れば見るほど、妻の若い時にそっくりだ」

「マリン、お父さまと呼んであげて」

 ラピスがマリンに言うが、今まで会った事もない男性にいきなり、「お父さま」とは呼べないだろう。だが、マリンは絞り出すようにして呼んだ。

「お、お父さま」

 ポセイドン王が、それこそ周りを気にせずに泣き出した。

 声は出ていないものの、目からはかなりの涙が溢れている。

 男性の人魚は泣いても、涙は真珠にはならないようだ。

「今日はなんて暑い日なんだ。目から汗が留まる事なく溢れ出る」

 ポセイドン王は、陳腐な言い訳を言うんだな。そうは思っても、言葉に出していけないのは、俺も十分分かっている。

 この席で、もう一人号泣している人がいる。エリスだ。全員が涙ぐんではいるが、号泣しているのはエリスぐらいだ。

「ウェーン、ウェーン」

 それこそ、マリンより泣いている。

 それを見た、ポセイドン王の方が引いている。


「それで、現在マリンは、このシンヤ殿の奥方という訳か?」

 一通り、場が収まってからポセイドン王が聞いてきた。

「はい、夫と他の奥様方と楽しくさせて頂いています。それに私には、兄弟もいるんですよ。先ほどの軍隊を指揮していた、ホーゲン、ウォルフ、ポールです。それ以外にも、まだ兄弟が居ます」

「なんと、マリン、お前は幸せなのか?」

「この兄さまが救ってくれてから、私は不幸を感じた事はありません」

「そうか、そうか」

 ポセイドン王の目が笑っている。

「次期、国王であるマリンさまが、エルバンテ皇帝閣下の妻であるのであれば、このエマンチック国もエルバンテ国と婚姻関係にあると考えて良いのではないでしょうか?」

 エマンチック国の宰相がポセイドン王に言う。

「宰相の言う通りだな。我々の国はエルバンテ国と婚姻関係にあることに間違いはない。国中にその旨を伝えよ」

 ポセイドン王の指示により、直ぐに伝令が出発していった。


 それ以外にも、エマンチック国に学校を造り、教育を施すことと商売を行うための許可、それに店を出す事が決まった。

 放送についても、アンテナ設備を設けてエルバンテ放送を開始し、電話や電気などについても、整備していくことになった。

 それ以外にも、上水道、下水道の整備、道の整備を行う必要もある。

 また、エルバンテからの道路、鉄路、空路についても整備する。

 空港は、この砦の近くに広い土地があったので、そこに作るに事し、空港からは鉄道で王都まで来る鉄路をまず整備する。

 土木作業は土魔法が使える魔法使いが居れば、かなり容易に作る事が可能だ。

 エルバンテからの鉄路は砂漠を通らなければならないので、そこが問題となるだろうが、今では砂漠の開発もかなり進んでいるので、技術者たちはどうにかしてくれるだろう。

「ポセイドン王、デシュラマーの方はいかがしますか?」

「我の目的はあのデシュラマーだったが、それは婿殿が退治してくれたのだろう。それに娘が帰って来たのであれば、私としては恨みはあるものの、ある程度割り切っているつもりだ」

 マリンが生きていた事で、ポセイドン王の恨みも薄まったということだろう。

「ところで、このエマンチック国以外の国はあるのでしょうか?」

「正直、国境というものは、定めた事がない。西については、たまたま砦を作って、魔物に備えていたが、南の方については、森も多く魔物も森から出て来ないのでな」

「そうすると、人はこの国以外には居ないと…」

「いや、小さな村が、いくつかあるのは確認しているが、その者たちがどういった者であるかまでは不明だ。

 それと、南の海の先には大陸があると言われている。その大陸は魔物の大陸だそうだ」

 それは、俺たちがミズホで行った場所ではないか?あそこで我々は電気ダコ、こちらで言う、デシュラマーと戦い勝利した。

 そこまで行ってみたいが、ミズホは現在スノーノースのコネルエ川に居る。ここまで来るのは時間が掛かりすぎる。

 それに、こちらはどうも海の魔物の数が多いような気がする。

 俺たちは、この大陸にある国をほぼ掌握したと言っても良いだろう。残るはさらに北の国と、南にあるという、魔物の大陸だけだ。

 エルフ族はさらに北に行ったという情報があったが、そのエルフ族にもまだ接触していない。

 それと人間の生存はほぼ考えられないが、魔物の大陸もまだ探索を行ってはいない。

 魔物の大陸の探査は、かなりの武力を必要とするだろう。そこは手を付けない方がいいかもしれないが、そこで生まれた魔物が他の大陸に行く事も考えられるので、その生態系を調査する事は優先事項でもある。


「お父さま、お元気で」

「マリン、お前も。それと、早く孫の顔を見せてくれんか」

「まあ、お父さまったら…」

 マリンが顔を真っ赤にするが、マリンは悪魔族なので、俺たちの間に子供は生まれないだろう。

「ポセイドン王も、是非エルバンテにお越し下さい。空港を急いで作りますので、それ程遠い先の事ではないと思います」

「うむ、その時は寄らせて貰おう。マリンが、どのような生活をしているかも見てみたいものだ」

「私は幸せに暮らしていますって」

「マリンも何かあったら、こっちに帰って来ても良いのだぞ」

「ホホホ、シンヤ兄さまが相手をしてくれないようなら、帰って来ましょう」

 マリンよ、それは誤解を生じるから止めてくれ。

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