第87話 拘束されるケント
「バラ、バラ、バラ」
4軸垂直離発着機で、部隊が次々に降りてくる。降りて来た部隊は直ちに隊列を組むとその先頭にいるのは、ホーゲン、ウォルフ、ポールだ。
「戦闘準備、攻撃目標、エルバンテ東部方面軍」
ホーゲンが高らかに叫んだ。
その言葉にびっくりしたのは、エルバンテ軍だった。
「な、何だって、こちらが攻撃目標だと」
兵士たちに動揺が広まった。
その言葉を聞いて、ケントが真っ赤になっている。
「ホーゲン隊長、今、攻撃目標はエルバンテ東部方面軍と聞こえましたが、間違いではないでしょうか?」
「間違いではない。そもそも、エルバンテに東部方面司令官は存在しないし、その下に軍もいない。お前たちはエルバンテを語る偽物だ」
今度はウォルフが言う。
「な、何だって、俺たちは東部方面軍と言われたじゃないか?どうなっているんだ」
さらに兵士たちに動揺が広がる。
今度は、それを聞いたポールが言う。
「知らなかったというのであれば、お前たちはそのケントという者に騙されていたという事だろう。ならば直ちに武器を捨て、降伏すれば罪には問わぬ。もう一度言う、直ちに武器を捨てよ」
兵士たちは、どうしたら良いか迷っている。
「う、嘘だ。その者たちはホーゲン殿たちではない。私はホーゲン殿たちの顔を知っているが、あれは偽物だ」
いや、ホーゲンたちの顔は有名だから誰でも知っているぞ。
「俺は、そのケントという者の顔は知らないな」
ホーゲンが言うが、それはそうだう。地方の役人の顔を軍人が知っている訳はない。
「それみろ、俺の顔を知らないなんて、それが偽物の証拠だ」
「バラ、バラ、バラ」
再び、4軸垂直離発着機が陸亀ホエールから降りて来た。そこには宰相のカウバリーとこちら方面の代官として指名した「ナルディ・キロル」が居た。
「こら、ケント、お主というやつは何をやっておる」
ナルディが声を上げた。
「あっ、お代官さま」
「何がお代官さまだ。相手が誰だか分かっているのか?ホーゲンさまたちであるぞ」
「この者たちは偽物です。これから化けの皮を剥がして存じます」
「ホーゲン、ウォルフ、ポール、このケントを捕らえよ」
カウバリー宰相がホーゲンたちに指示をしたが、軍への指示権は宰相にはない。軍はあくまで、皇帝の管轄下なのだ。
そういった意味では、このケントにも軍に命令する権利はないが、軍も官僚から言われれば、Noとはなかなか言えないものがある。
「お前は、何者だ?」
ケントが言うが、宰相の顔ぐらいは覚えてやれよ。
「この方はカウバリー宰相閣下だ。何を言っているんだ」
さすがに、ナルディも頭にきたようだ。
「分かったぞ、我々は今、相手の術中に嵌っているんだ。これらは全て魔法による幻覚に違いない。間違うでない、これは全て魔術によるものだ」
その言葉を聞いて戸惑ったのは兵士たちだ。魔法ならそれも出来るだろう。もし、そうだとしたら、死ぬのは自分たちだ。
武器を捨てようとした者たちも再び、武器を握りしめた。
「何を馬鹿な事を言っている。この数の人間、全てに魔術をかけるのは無理だ。それはお前たちだって分かっているだろう」
再び兵士たちが戸惑う。幻覚の魔法は多くて、20~30人ぐらいまでだ。それも固まっていないと掛けられない。
ここには数千人がおり、しかも固まっている訳ではない。
その時、陸亀ホエールから一筋の白い影が飛び降りた。
飛び降りたと思った人影はそのままケントの方に来て、ケントを拘束する。
その人影は鳥人だ。
「こ、こら離せ。私に、このような事をすると、皇帝陛下が黙っていないぞ」
「いや、黙っているから」
俺が前に出てケントに言う。
「お、お前はあの時、エマンチック王宮に居たエルバンテ商人ではないか。何故、お前が黙っているなどと、ふざけた事を言う」
ケントが叫ぶが、逆にホーゲンたちの軍や代官、宰相は跪いた。
その姿に驚いたのは立っている者たちだ。
「無礼者、この方こそ、エルバンテ帝国、皇帝陛下シンヤ・キバヤシ・エルバンテ公なるぞ」
カウバリー宰相の言葉に、全員がそこに跪く。
「ホーゲン、悪かったな。態々スノーノースから呼び出して」
「いえ、こちらでこのような事が起こっているなどと、夢にも思っていませんでした」
「う、嘘だ、嘘だ」
縛られて、俺の前に連れて来られたケントが、茫然として呟いている。
「ブリマー、ご苦労だった」
「はっ、これぐらいは鳥人にとっては、いかほどの事でもありません」
「ケント、お前が皇帝陛下の名前を偽った事は、重罪に当たる事を心せよ。陛下、これは一重に、この代官であるナルディの不徳の致すところです。どのような罪も厭いません」
「ケントは役人であるので、その管理は宰相の権限であれば、俺が罰を決める事はできない。後はカウバリーに任せる。
ナルディは、一か月謹慎せよ」
官僚も含めて、役人は宰相の管轄になる。反対に代官は皇帝が指名するので、皇帝の管理下になる。
地方の代官は軍を使い、魔物からの防衛や紛争の防止が主な仕事だが、役人は行政全てが仕事になる。
ただし、スノーノースのように新たにエルバンテ国になった場合は、まずは代官が全ての業務について対応し、それから徐々に役人を入れて行政を行っていく。
そう言う点では、スノーノースに派遣されたエミールは、現在は随分忙しい事だろう。
そんな事を思っていたが、宰相のカウバリーと代官のナルディが、俺に向かって二人揃って頭を下げた。
「と、いうことで、私の配下の者が、ご迷惑をお掛けしました。改めて謝罪を致します」
ポセイドン王に向かって、俺が謝罪した。
「只者ではないと思っていたが、そなたがエルバンテ皇帝だったのか。我が国にも被害がなかったので、今回は水に流そう。ところで、デシュラマーの事について話をしたいと思うが、いかがであろう?」
「我々もポセイドン王に話があります。この砦の前の広場に会談の場所を設けさせて頂きたいが、ご許可を頂けますか?」
「この砦の外は、わが国ではないので、我の許可は不要である」
その言葉を聞いて、直ちに大きなテントが張られ、そこにテーブルと椅子が持ち込まれた。もし、エマンチック国が降伏したのなら、このテントが降伏の場所となったのだろう。
テーブルにお互いが向き合って座るが、カウバリー宰相はエマンチック国の言葉が理解できないので、通訳をエリスが行った。
ノイミもエルバンテ国の言葉をある程度理解してきたが、通訳できるまでには至っていない。
「それでは改めて、シンヤ・キバヤシ・エルバンテです」
「ポセイドンだ」
「お話しすべき事あります。あなたの娘さんは生きています」
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