第86話 本国からの応援

「エルバンテ国、ご使者、ご到着!」

 謁見の間に使者の到着を告げる声が高らかに響く。

 正面の扉を開けて、エルバンテの使者らしき男性が5人、入ってきた。服装はたしかにエルバンテの服だ。エルバンテの服といっても現代のスーツ姿で、ネクタイをしているのも同じだ。

 黒のスーツを着こなした、いかにも官僚といった風体の男たちが並ぶ。

 入って来た男たちは跪く事もせずに、立ったままだ。

「私たちはエルバンテ国からの使者で『ケント』という者だ。エルバンテ国の傘下になられる事をご提案に来た」

「いきなり、エルバンテ国の傘下になれと言うのか?」

「もちろん、これはあくまで提案であるので、同意されずとも良い。だが、我々エルバンテ国の軍事力は、ここの国とは比べ物にならない程強力だ。

 ここは我々の提案通りにした方が良いのではないか。

 いや、これはあくまで、忠告であって、脅しではない」

 いや、完全に脅しだろう。

 宰相の顔が引き攣っているのが見えたが、宰相はそれを理性で隠し、使者に言う。

「あまりにも、いきなりの事でどのように答えて良いか分からぬ。まず、お主が、そのエルバンテ陛下の使者であるという証拠はあるのか?」

 それは最もな意見だ。使者であれば、指令者なり相手国への令状なりを持っている。

「それは、こちらに」

 従者の一人が恭しく、書類を差し出した。

 だが、俺はそんな物にサインをした覚えはない。

 宰相はその書物を見ていたが、俺たちの国の言葉は分からないだろう。使者ならば、相手国の言葉は一応、勉強しているので、理解出来ているのだろうが。

「これは、そなたの国の言葉で書かれた物、我々には読めぬ」

「エルバンテの傘下に入れば読めるようになります」

「ちょっと、待たれよ。ここに、エルバンテから来た商人が居るので、代わりに読んでもらう」

 宰相に呼ばれた俺は、宰相の横に出て、その書物を渡された。

「エマンチック国は、エルバンテ国に降伏すべし。東部方面司令官、ケント・バークレイ」

 俺が高らかに読み上げた。

「これは、国王の令状ではないではないか?」

 宰相が怒声を放つ。

 それを見た、使者は一瞬「しまった」という顔をしたが、直ぐに元の顔に戻って言う。

「我々以外に、この地まで来た者が居るなどと嘘であろう。そやつは、嘘を言っているのだ」

「いずれにしても、これをエルバンテ王の令状と認める訳にはいかん。使者の方については、直ちに帰還されたし」

「ならば、次は軍事力を持って来る事になる。良いのだな」

「その時は我々も精一杯対応しよう」

 その言葉は、王自ら発言した。


 使者は帰って行った。

「シンヤ殿、貴方はエルバンテの商人なのに、あれで良かったのか?」

 王が聞いて来た。

「良いのです。あんな使者がエルバンテの使者などと、嘘に決まっております。もし、本当の使者であれば、国王や宰相に問題があるのです」

 俺はエミリーに言って、スノーノースに居る、陸亀ホエールとホーゲン、ウォルフ、ポールの軍団とエルバンテ国の宰相カウバリーを連れて来るように指示をした。

「アスカより連絡がありました。約1か月でこちらに来れるそうです。カウバリー宰相とも連絡がついています」

 今回の件は、俺以外ではなく嫁たちも怒っている。

「大体、あのケントとかいうやつって何者よ」

 エリスが怒るが、女神なんだからもっと冷静になれよ。

「エリスさまの言うとおりです。エルバンテに、あのような者が居ると思うと恥でしかありません」

 ラピスも相当怒っている。

「ラピスさまの言う通りです。私が成敗します」

 エミリーも怒っているようだ。そう言えば、エミリーが怒ったところを見たのは初めてだ。

「もし、私のファンクラブに入っていたら、強制脱退ものです」

 いや、一官僚がファンクラブに入っている可能性は低いと思うぞ。

「なんなら、私が全ての血を吸い取ってやりましょう」

 ネルは俺以外の血は吸わないと言っていたじゃないか。

 この話を聞いたクラウディアも怒った。

 そして、ノイミも怒っているが、ノイミはエルバンテの国には関係ないだろう。

 俺たちは、極地探検車の中に軟禁されている状態になったが、それは衛星通信を使って、エルバンテ本国と連絡を取る事が出来たので都合が良かった。


 そして、1か月後、ケントがエルバンテ軍を率いて、国境の砦まで来た。

 エマンチック軍は王を将軍として国境の砦まで出兵する。もちろん、俺たちも極地探検車でその軍と同行した。

 そして今、砦を挟んで、エマンチック軍とエルバンテ軍が睨み合っている。

「エマンチック国は直ちに降伏せよ。繰り返す、直ちに降伏せよ」

 エルバンテから降伏勧告が来た。

「我々は降伏はしない。エルバンテが武力を持って支配を図るというのであれば、我々も全力で抵抗する」

「それが、答えだな。では、これから武力を持って対応させて頂く事にする」

 その時、遥か後方に空を飛んでくる巨大物体が目に入った。

「あれは、陸亀ホエールじゃないか?」

 エルバンテ軍の兵士たちから声が上がる。

 たしかに、陸亀ホエールだ。俺が呼んだのだから間違いはない。

「おおっ、本国からの応援だ。これで、こちらの勝利が確定したも同然だ」

「そうだ、あれには、ホーゲンさまたち三獣士がおられるだろう。もう、こちらの勝利は間違いない」

 兵士たちが口々に叫ぶ。

「みなの者、見た通りだ。本国からも応援が来た。ここは我らの力を見せようではないか。ミサイルと戦車隊は準備!」

 そう叫んだのは「東部方面司令官」を名乗っているケントという男だ。「東部方面司令官」なんて役職、俺は知らないぞ。誰がそんな役職を作ったんだ。

 陸亀ホエールはエルバンテ軍の上空に来ると停止した。

 その姿を見て、エマンチック軍からは声も出ない。

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