第85話 エマンチック国の王

 7日後、俺たちは王都の入り口に着いた。

 さすがに王都だけあって、門も多ければ、道幅も広い。極地探検車もそのまま王都へ入れるようだ。

 門兵の役人に通行許可証を提示すると、別の役人が出て来た。

「これからは私が王宮まで案内しよう。私は『ニシリト』と言う」

 ニシリトと名乗った役人をリーダーとして、10人程が極地探検車を囲んで進む。

 こちらの人の一般人は、白い布を身体に巻いたようなような服だが、このニシリトという人はもう少し、動きやすい服になっており、靴もブーツのような靴で、鎧と兜も身に着けているので、役人というより軍人なのだろう。

 第一、馬に乗っており、剣も2本持っている。それに槍と盾もある。

 ところが一番驚いたのは、その武器だった。剣と槍は鉄で出来ていた。今までの国では剣と槍は青銅製だったのに、ここでは鉄を扱っている。

 鉄を精製する技術があるという事だろう。

「エリス、あの剣や槍は鉄製だと思うが、分析は出来るか」

「貸して貰えれば、XRDで分析できますが…」

「貸してくれと言って、簡単に貸してくれないだろう。ここはエリスの方がいいだろう」

 エリスが鑑定し、成分をクラウディアに伝える。

「我々の鉄よりは粗悪品です。精製の技術が高くないと思われます。ですが、エリスさまはどうして、そんな分析ができるのですか?エリスさまが出来るなら、あんな大規模な分析装置は不要だったのに」

「まあ、エリスは神だから」

「また、そんな事で、はぐらかそうとして…」

 クラウディアは、未だにエリスが神だという事を信じていないみたいだ。

「シンヤさん、いざと言う時は私が対応します」

 ノイミが言うが、ここでノイミに任せると大変な事になりそうだ。

「ノイミさん、ここは我々で対応します。必要な時はお願いしますから」

 嫁たちも俺の言葉に頷いている。

「それと、俺の正体は内緒な」

 嫁たちとクラウディアが頷く。ノイミは元々俺の正体を知らないので、そんな事を言われて、不思議な顔をしていた。

 俺たちはニシリトの軍に警備されて王宮の門を潜った。


 王宮では、謁見の間に通されて、王の前に跪く。

 王は薄い帳の奥に居て、直接見ることは出来ない。

「私は、エルバンテで商いをしているシンヤという者です。この度は拝謁をお許し頂き、誠にありがとうございます」

 俺の言葉に宰相らしき人が答える。

「シンヤ殿、聞きたい事がある。エルバンテと言う国についてだ。エルバンテは空を飛ぶ魔道具や火を噴く魔道具を持っており、その武力は絶大だと聞いたが本当か?」

「本当でございます」

「シンヤ殿の目から見て、我々が戦ったら、勝てると思うか?」

「恐らく、全滅でしょう」

「嘘を言うな」

 この場に居た誰かが声を上げた。

「嘘ではありません。我々は知っています。雷を出すタコの魔物も退治しています」

 俺のその言葉を聞いて、その場に居た全員が黙った。

「それはどうやって、倒した?」

 宰相とは違う声がする。どうやら、王自ら聞いてきたようだ。

「我々は商人でありますれば、そこまで詳しく知っている訳ではありません」

 俺は惚けることにした。

「もし、それが本当なら、我はそのエルバンテという国と手を組んでも良い」

「その理由をお聞きしても良いでしょうか?」

「これっ、商人風情が陛下に直接、質問するなど恐れ多い」

 宰相が諫めてきた。

「良い、直答を許そう。そのタコを我々は『デシュラマー』と呼んでいる。

 そのデシュラマーは我の村を襲い、村人や妻、それに生まれたばかりの娘まで喰った。

 我はその魔物を許せない。だから、それを倒す事が出来るというのなら、我は悪魔とも手を組むつもりだ」

 王はそう言うと、帳から出てきた。

 俺は顔を上げて王を見ると髪が青い。

 これはノイミから話に聞いた、ポセイドンという人魚の王だ。

 その人魚の王がどうして、ここで国王となっているか分からないが、ポセイドン王である事に間違いないだろう。


「そなたの妻たちには我と同じ青い髪の者がおるのう」

 ポセイドン王がノイミとマリンを見つけて、言う。恐らく俺と同じ疑問を持ったという事だろう。

「はい、私たちは遥か西の国の出身であれば、いろいろな人種がおります。プロンドの髪の者も居れば、金髪の者も居ますし、銀髪も白色の髪の者もいます」

 髪だけではない、顔だちもいろいろだ。俺は日本人なので、薄っぺらい顔をしているが、ラピスやエミリーはそれこそ、白人の顔立ちだ。ミュとネルは白人っぽい顔だが、まだ東洋人に近い顔だちをしている。

 マリンとノイミもミュやネルに近い顔立ちだ。

 当然、ポセイドン王もマリンに近い顔立ちをしている。親子だから当然だろう。

「そうか、もしかしたら、我の国の生き残りかと思ったが、そういう国なのだな。いや、気を悪くしたら申し訳ない」

 王が謝って来た。高位にある物は自分から謝りはしない。このポセイドン王はそれを行っている点で、好感が持てる。


「ところで、数日後、そのエルバンテの使者という者が、この国に来るという情報が入った。シンヤ殿たちも立ち会って貰いたい」

 宰相からの意見だ。

「その情報はどうのようにして?」

「西の方にある砦にエルバンテの使者という者が来て、その旨を告げたそうだ。そこからの早馬の情報だ。

 それ以前にも、エルバンテが途中にある国を傘下に収めて来た事は風の噂で知っていた。我々はシンヤ殿たちもその使いか、冠者ではないかと思っている」

「そう疑われても仕方ありません。いざとなれば、我々を人質にして対応して頂いても文句は申しません」

「そこまで、言うなら信じよう。だが、傘下に収められた国々は、教育とかを施されるのと労働を求められるという事で、正直、良い事かどうなのか判断が付かない」

 俺達もそのエルバンテの使者に会う事になった。

 その使者が来るまで数日あったので、監視付きながら街の中を見て回る。

 家は相変わらず白い石の造りが多く、一部に木材が使われているだけだ。

 その理由を聞いてみると白い石は、この地方でどこでも算出される石との事だった。

 反対に木材はかなり遠くの山から持って来なければならないため、入手が難しいとの事だ。

 王都全体は、塀に囲まれてはいるが、それほど高い塀ではない。これはこの地方が比較的平和が長く、敵や魔物に備える必要がなかったからなのだろう。

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