第84話 エルバンテの商人
結局、ノイミが来る事になった。
極地探検車に全員が乗り込み、山間の道路を登って行く。極地探検車の窓から見える海のエメラルドグリーンがとてもきれいだ。
俺が居た世界では、こんなきれいは海は少なくなってしまっている。人間が産業革命以降、汚した海はこのようなきれいな海には戻らないだろう。
山を登り切った極地探検車は今度は山を下って行く。
その極地探検車の中で、はしゃいでいる人がいる。ノイミだ。しかも、翻訳拡声器を使ってくるので、狭い車内で大きな音が出て、とても五月蠅い。
『凄いです。凄いです。この動く絵は何ですか?』
GPSと衛星画像のディスプレイを指差し、ノイミが聞く。
「これは、衛星地図とGPSの軌跡です」
クラウデイアが操縦しながら説明するが、GPSと衛星画像も合わせて説明しないといけないので、手間がかかる。
それに、このノイミは好奇心大制で、極地探検車にある物全てに興味を抱く。
「ノイミさん、それより、こちらの言葉を教えてくれ」
はしゃいでいるノイミを黙らせ、語学授業を行う。クラウディアも理解できるように音声での講義が軸になる。
この講義の中でびっくりしたのは、エリスの学習能力がとても高いのだ。一度、聞いただけで、理解して言葉を使いこなしている。
「エリス、学習能力が高いな」
「だって、神だもん。どこにも適用できるわ」
「神って何ですか?」
クラウディアが聞いて来た。
「エリスは女神なんだよ」
俺がクラウディアに教えてやる。
「陛下、またまたそんな冗談を…」
まあ、そのうち分かるだろうから、ここは、何も言わないでおこう。
「でも、シンヤさまもかなり理解出来るのでは、ないかしら?」
「まあ、ずっと聞いていれば、どうにかなるだろう」
「ううん、こちらに転生する時に言いましたよね。生活に支障がない程度の能力は付加されるって。その中には語学の理解も含まれるって」
たしかに聞いた記憶がある。もう、10年も前の事だから、忘れていたが、エリスに言われて思い出した。
「それが関係あるのか?」
「シンヤさまは、語学的能力がとても高いの。それは転生の時に付けられた能力なのよ。だから、2,3日もすれば、こちらの言葉を問題なく、話す事も聞くことも出来るようになるわ」
なんと、そうだったのか。でも、直ぐに話せる訳ではないようだ。
ノイミを相手にして、こちらの言葉で話してみる。
「ノイミさん、どうだ、俺の話す言葉は理解できるか?」
「あ、はい、理解できます。すごいですね、直ぐに話せるようになるなんて。私にもシンヤさまの国の言葉を教えて下さい」
俺が直ぐに、こちらの国の言葉を話せるようになった事をラピスたちが驚いている。
「旦那さまは魔法もだめ、剣術もだめと思っていましたが、こんな能力があったなんて、惚れ直してしまいそう」
エミリー、どうしてお前はいつも一言多いんだ。妻にしたから、その癖は治ると思っていたのに。
俺が話せるようになったことで、ミュ、ラピス、エミリー、マリン、ネルも一層語学講義に熱心になった。
反対にノイミも俺たちの言葉を頑張って学習している。
道が狭いため、極地探検車はスピードが出ないので、次の街に着いたのは2日後だった。
ここは村というより、街だ。規模もかなり大きい。ノイミの話ではこの街の役所がカッボ村の管理も行っているらしい。
極地探検車を街の中に入れるのはどうかと思ったので、外壁の外に停めて、俺たちだけ街に入るための手続きを行う。
こういう場合の留守番は、クラウディアだ。
「見かけない服装だな」
管理官だろうか、聞いて来た。
「我々は旅の商人です。これから王都へ行くつもりです」
「王都へ?用件は商売か?」
「そうです。我々は他の国で商売をしていますが、この国でも商売をしたいと思い、そのお願いをしたいのです」
「お前たちが来た国とは何という国だ?」
「エルバンテといい、ここより遥か西にある国です」
「エ、エルバンテだと!ちょっと待て」
俺たちの応対をしていた役人が、奥に引っ込んでいった。
「エルバンテと聞いただけで、驚いていたが、そんなに有名なのか?」
嫁たちに聞いてみるが、皆、首を横に振った。
しばらく待たされた後に、奥から、頭の禿げた男が出て来た。
「今、エルバンテから来たと聞いたが、それは本当か?」
「あ、ああ、本当ですが…、それが何か?」
「とうとう、ここに来たか。どうすればいいんだ」
対応に出た禿げた男が、頭を抱えている。
「あ、あのう、エルバンテが何か?」
「あっ、いや、お前たちは商人だから、関係ないと思うが、遥かここより西の国で、いや、国と呼べるほど大きくない国なんだが…、そこにエルバンテの使者というのが来て、通行条約を結びたいと言ったそうだ。
聞くと、エルバンテはとてつもない強力な武力を持っており、拒否すると国中を火の海とされるそうだ。我々の国にもいつ、その使者が来るかと、王都では戦々恐々と言う事だ」
「そんな事はないと思いますが…」
「いや、あんたらはエルバンテの人だから分からんだろうが、エルバンテは我々にとっては脅威なんだ」
「そうですか、エルバンテについて何か知っている事があれば教えて下さい。もし、エルバンテの使者が来るような事があったら、我々が対応します。同じ国ですから、無碍にはしないでしょう」
「分かった。お前たちの事は王都へ早馬で連絡しよう。それで、塀の外に停めてあるあの車で王都まで行く事で良いか?」
「はい、それで結構です。我々も王都でその使者とやらを迎えましょう」
ここから、王都まで、早馬で7日との事だった。それと、王都までの通行許可証を出して貰ったので、ここからは支障なく、王都まで行けるとの事だ。
俺たちは、塀の外に停めてあった極地探検車に乗り込んだ。
「クラウディア、王都に向かってくれ。エルバンテが何事か大変な事になっているようだ」
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