第89話 密林地帯

 俺たちは、ホーゲンたちのエルバンテ軍とエマンチック国に別れを告げて、再び極地探検車で旅立った。

 取り敢えず南の方に行ってみるが、直ぐに森になってしまった。道も見当たらない。

「陛下、どうしましょうか?」

 クラウディアが聞いて来るが、俺も迷う。

 木を切り倒しながら進む事は出来るが、それだと、時間が掛かり過ぎる。森の深さも、どれ位あるか分からないので、それこそ地の果てまで木を切り倒す事に成りかねない。

 そんな事は時間的にも無理だ。

 キチンならある程度、進む事はできるだろうが、群れを作っている大型の魔物がいるとキチンも森の中は速く走れないだけに、襲われる可能性が高まるので、危険だ。

「引き返す事は簡単だが、もう少し調査をしてみよう。クラウディア、海岸の方に行ってくれないか?」

 クラウディアが、極地探検車を海岸の方に向かわせる。

「ところで、何故ノイミが、ここに居る」

「それは語学の習得とマリンさまのお世話をするためです」

「へっ?マリンの世話?エルバンテに帰れば、ちゃんと侍女はいるが?」

「人魚は人魚にしか分からない事があるのです。私はマリンさまのお世話をして、早くポセイドン王さまに、お孫さんの顔を見せてあげたいと強く誓ったのです」

 エミリーを妻に迎えて、問題児が一人居なくなったと思ったら、また一人問題児が出てきた。

「マリン、何か言ってくれ」

「いいではありませんか。旅は道連れ世は情けと言うではありませんか」

「いや、マリン、またエミリーのようなやつが増えるのは勘弁してほしい」

「私のようなやつって、どういう意味てすか?」

 エミリーが、すかさず聞いてきた。

 その時、俺は地雷を踏んだ事を自覚した。

「あっ、いや、その、何でもない」

 俺が地雷を踏んだため、ノイミが同行する事が決まった。


 海岸線に出ると、白い砂浜が続く。

 極地探検車はその砂浜を行くが、所々、砂浜が狭くなっており、そのような場所は海の中を進む事になる。

「クラウディア、砂浜が続くという事は、近くに川があるのじゃないか?衛星画像を入手して確認してくれ」

「操縦で手が離せないので、停止して確認します」

「それだったら、私が行います」

 手を挙げたのはエミリーだった。

 エミリーは器用に何でも出来る。出来ないのは魔法を扱えないぐらいだが、本人はそれをカバーするために、様々な技術を習得しているのは頭が下がる。

「では、エミリー頼む」

 エミリーが衛星通信用端末の前で操作を行うと、ディスプレイに衛星写真が映し出された。

「GPSデータと衛星画像をシンクロさせてくれ」

 ディスプレイに俺たちの居る場所が表示された。

「このままだと、この川に出る事になる。エミリー、川幅とか分かるか?」

「川幅は河口になるので、80kmぐらいありますが、その間には中洲もありますので、いっきに渡る必要もありません」

「中洲の大きさは?」

「最大の中洲が、キバヤシ領の5倍ほどです。小さい中洲は、それこそ数え切れません」

「渡河し易いルートを算出してくれ。そこから渡河しよう」

 エミリーが再び、端末を操作している。

「出ました。大型ディスプレイに映します。現在地はここなので、ここまで行き、そこから渡河するのが良いと思います」

 大型ディスプレイには、衛星写真と俺たちの居場所を示すGPSの軌跡がある。そして、渡河場所も示されている。

「人が住んでいる形跡は確認できるか?」

「部落のようなものは確認できません」

「では、エミリーの言う通りに渡河しよう」

 極地探検車で水際を進んでいき、エミリーの示した場所に来た。

 極地探検車を停止し、周りを見てみるが、森が生い茂りアマゾンを連想させる。

「妙だな、これだけの森なのに動物の声がしないぞ」

「そうね、無暗に外に出ない方がいいかもしれない」

 俺の意見にエリスも同意する。

 極地探検車を止めて、しばらく大人しくしていると川面に波が立ちだした。

「何かいるぞ!」

 屋外カメラで見ていると川の中から、大きなワニが出てきた。

 ワニはワニだが、大きさが大きい。

「あれは、クロコダイルアーミーね」

 エリスが説明する。

「北の方で見たクロコダイルアーミーは、あれより小さかったと思ったが…」

「南の方は餌が豊富なので、大きくなってしまうの」


 クロコダイルアーミーがこっちに向かって来た。

「こっちに来るぞ。レールガンの用意」

 クラウディアが天井を開けて、レールガンを出した。

「車体を固定し、照準をクロコダイルアーミーに合わせろ。射程に入ったら撃て」

「クロコダイルアーミー、射程に入ります。レールガン発射します」

「ドーン」

 発射音と共に、木に停まっていた鳥たちが一斉に飛び立った。

 レールガンから発射された赤い弾はクロコダイルアーミーに向かい、その身体を貫通した。

 倒れたクロコダイルアーミーに他のクロコダイルアーミーが襲い掛かる。

「機関銃掃射!」

「機関銃掃射開始します」

 クラウディアが倒れたクロコダイルアーミーに群がっているクロコダイルアーミーに向かって、機関銃を掃射する。

 この機関銃も魔石の弾を使っており、魔物の身体を貫通する事が可能だ。

 この弾がクロコダイルアーミーに降りかかると、死んだ仲間を食っていたクロコダイルアーミーが全て倒れた。

「ご主人さま、魔石を回収します」

 ミュが出て行こうとするが、俺がそれを制止する。

「まだ、クロコダイルアーミーが来るかもしれない。危険だから、外に出ない方がいい。それに今のうちに渡河しよう」

 俺たちは極地探検車を渡河させた。川の中に入るが、川の水が濁っているので、先の方は見えない。このため、潜望鏡を出して、川底を移動する。

 そして、極地探検車は無事対岸の岸辺に到着したが、その先には、また森が連なっている。

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